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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第13章》 広瀬と武久
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情報操作

英星えいせい「神族に誇りを持つような奴はアホよっ!」

紫電しでん「それは大きなブーメランだね……」

広瀬ひろせってあたしの名前と一緒じゃん」


 そう言っていきが自身の顔を指差す。


「何言ってんの、あんたの名字は武久たけひさ――」


 はたと気付いて声を止める。

 確か粋の旧姓は広瀬――!


「い、いやまさか。いくら相手があのトイレに流されてもしょうがないうんこ神だからってそんな卑劣な手は……使わない……でしょ……?」


 みんな口をつぐんだ。

 相手はあの厳星げんせい

 謀略の限りを尽くしてくるはずだ。

 ……間違いなくこれは僕らに、死んだ粋の両親をぶつけてくるパターンじゃないか?

 粋は胸に手を当てて力なくうつむいている。

 そこへ骸骨がいこつの死神兵がガシャガシャと音を出して走ってきた。


「アクセル・キルンベルガー様! 敵から通信が入りました! お繋ぎしてよろしいでしょうか?」

「……繋げ」

「ハッ!」


 骸骨がガシャリと音を立てて敬礼し、虚空にモニターが映し出された。


『ククク……キルンベルガーよ……久しいではないか……』


 そこに映っていたのは紛れもなく厳星だった。

 その四角い顔に下卑げびわらいを貼り付けている。

 脳裏にトラウマがよみがえり、僕はすかさず紫電しでんの手を握りしめた。


『お前ら下等生物が我ら神に逆らうとはな』

「ほう。立派なことだ。純真無垢な子供たちを殺しておいて」

『……なんのことかな?』


 パパはその声に力を込める。


「レイチェルから聞いたぞ。お前たち神族がケージを攻撃し、地上に落下せしめたこと――」


 厳星は不気味に口角を上げた。


『――それは神界と人間界では死神族の仕業になっておるが……?』

「そういうことか」


 どういうこと? さっぱり解らん! 誰か解説してくんろ!


「どういうこと? さっぱり解らん! 誰か解説して下さい!」


 コノボス・ツエーが僕の思惑をほぼ正確に代弁してくれた。

 これから少し厚遇してやることにしよう。


「情報操作したんデスね……」

『ご名答』

「なになに? どういうこと? デシュー教えて!」


 混乱するコノボス・ツエーにデシューが肩(?)をすくめて、


「じゃあ教えます。デシュー自身も失念しておりましたが、こいつの誰とでも通信ができる能力を使い、全神族・全人類に『あの事故は死神族がやったことだ』と吹き込んだら?」

「……ガッデム!!」


 コノボス・ツエーはリアクションが独特すぎる。

 でもなんで神族にあの完璧な輸送計画がバレたんだろうか。


『それにしても妙じゃ。人間界は神族が監視しているとあれだけ教えてしまったのに、ああもあっさりと輸送を開始するのじゃから……どうせ英星えいせいが考えたんじゃろう? とんだたわけじゃな』


――ガッデム!! なーんてこったい!

 そういや神族はその辺の空をフツーに飛んで、絶えず世界を監視しているんだった!

 仲間たちの視線が僕にザクザクと突き刺さる。


「粋お姉さん。大丈夫ですよ」


 粋の彼氏が粋に手を差し伸べる。


王児おうじ……ありがと」


 粋が王児の手を握ろうと手を伸ばして……やめた。


「……粋? どしたの?」

「何か……聞こえない?」


 耳を澄ますと確かに地鳴りのような、うなりのような……そんな声が聞こえてきた。

 いや、確かに聞こえる。これは城の……外?

 厳星うんこがみはモニターの向こうで不気味な笑みをたたえたままだ。


「……やられましたね」

「どういうことデシュー?」


 先ほどとは別の骸骨の死神兵が泡を食って駆け込んで来た。


「大変です! 民衆が……民衆がこの死神城を取り囲んでいます!!」



―――



 僕らが慌てて城壁の上に移動し見下ろすと、民衆が海のようになって城を包囲していた。「人間の子供も命の重みは同じだ!」などと書かれたプラカードも見える。


「ちょっとちょっと! みんなどうしたのよ!?」


 民衆は敵意のこもった目を一斉に僕らに向ける。


「お前たちは死神族の恥だ!!」

無辜むこの子供たちを惨殺しておいて白々しいぞ!!」

「こんな奴らに権力を握らせておいていいのか!!」


 何をそんなに怒っているんだ……。


「厳星は恐ろしいデス。死神族にも情報操作を仕掛けるのデスから」


 うなだれたデシューの声を聞いてようやく解った。

 死神族にも同じことをしやがったんだあのブタ野郎!


「姫様! ここは我々にお任せ下さい! どうか早く次の目的地へ!」


 コノボス・ツエーはそう叫ぶと、時を止めた。

 飛んできていた石が空中でぴたりと停止し、うねる民衆がうねったまま不自然にまった。


「解った! そしたら紫電! 粋の家に行こう!」

「い、粋の家に? よ、よし、みんなボクにつかまってー!」


 僕らは光に包まれた。


 やって来たのはベージュのレンガが印象的な粋の家。うぉうなんだか久し振り。


「以前お兄ちゃんが吹っ飛ばしたあの玄関扉もすっかり修理されてるね」

「そうだねー」


 しまった。自分でお兄ちゃんを思い出すようなことを言ってしまった。

 なんだか胸が切り刻まれたように痛い。

 その時、玄関扉が開いた。


「あなたたちは……粋!? 粋! 無事だったのね!」

「ママ……」


 駆け寄るお母さんに、粋はどこか恥ずかしそうだ。

 ……お母さんがいるっていいなあ。


「さ、あなたたち! 入って入って! そうそう、おいしいケーキがあるのよ!」

「マジですか~! 姫様、ごちそうになりましょうよ~!」


 粋のお母さんはクラリスに目をぱちくりさせて、


「あなたは?」

「あ、あー! 紹介します! こちら新しい仲間のクラリス! それからデシューに、補欠の王児です!」


 王児は唇をとんがらせた。


「補欠で悪かったですね!」

「だってあんた実質デシューの弟子みたいなもんじゃん」

「オ、オレこんなのの弟子じゃないもん!」

「あははは。英星くんたち仲がいいわね」


 そういやまだこの人に「僕は女です」って言ってなかったっけ。

 ボーイッシュな魅力も罪だなあ。


「で? その更に後ろにいるのは誰?」

「そ、その更に……後ろ?」


 粋のお母さんはにこやかに笑ってイミフなことをいてきた。



誰かがいる!? 実は粋のお母さんには霊感があった!

衝撃の能力で英星たちを圧倒する!

黒幕は粋のお母さん!

どうかお手柔らかにお願いします!

……すみません、ウソです。


次回もお楽しみに!

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