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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第12章》 旧友との再会
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罪深きエロガキどもリターンズ ~そしてみんな痴女だった~

王児おうじ消滅まで時間がないぞ!!

王児おうじくんが! 王児くんが――っ!!」


 クラリスの声が鼓膜をけたたましく叩くなか、僕はゾンビの洸汰こうたと向き合っていた。

 洸汰は自らの左胸に指を突き立て、手をずぶずぶと皮下に挿入・・していく。

 やがて何かをつかんだかと思うと、赤く光る塊を取り出した。これは――!

 心臓だ。とくんとくんと動いている。

 ゾンビの心臓ってこんなにキレイなんだな。


「わーい洸汰! ありがとう! で、あんたは?」


 洸汰はぼとりと肉を落として、


「ボクハ……ドノミチ……消エマス」


 洸汰の身体も気泡に包み込まれた。


「王児ヲ……頼ミマス……」


 僕は洸汰の心臓を手に取り、王児のもとへと走――れない。

 太腿ふとももにはダガーナイフが刺さっているんだ。

 やむを得ん!


「クラリス! パス!」


 僕は洸汰の心臓をラグビーのパスの要領で投げた。

 クラリスは目を見開いて、


「ぎゃああああああああ! なんですかこれぇ!」


 クラリスもラグビーのパスの要領で心臓を投げる。

 デシューからは体に小さい手のようなものが生え、デシューもラグビーの要領で心臓を投げる。流れるようなパスワークだ。

 心臓はいきに渡った。


「ひぇっ……!? 王児! 死なせない! 王児――っ!!」


 粋は両手で心臓を受け取ると、王児の口に飛び込むようにして心臓を押し込んだ。

――トライ!!

 粋はそのまま王児と一緒にごろごろと転がる。

 コウモリの紋章を輝かせて傷を治した僕は、粋と王児に駆け寄った。


「オレ……オレ……! 本当は皆さんのことが大好きで……っ! もっと一緒にいたかったっ!」


 僕らは目をぱちくり。

 王児の声が甲高いショタボイスに戻っている。

 ゾンビから人間の身体へと戻った少年は、仰向けに寝そべってあんあんと涙を零す。

 ……白い全裸体がそこにあった。

 僕を含む女子が一斉に鼻血を噴射するのに時間がかかるはずはなく。


【プライバシー保護のためしばらく音声のみでお楽しみ下さい】


「い、粋! 王児のフルヌードよ!」

「すごいすごい! 男子の身体ってこうなってたんだ!」

「お、お2人とも……ふ、不謹慎ですよ?」

「堅いこと言うないっ! クラリスだってこういう本の2、3冊くらい持ってるでしょうに!」

「わ、私はそんなの1冊しか持ってません!」

「ほら、やっぱ持ってんじゃん! それにしてもリアル! 僕、王児こいつの股ぐらにしゃぶりつきたい!!」

英星えいせいずるい! あたしがしゃぶりつくの!!」

「皆さんエロすぎます! 少しはこのデシューの純粋さを見習って下さい!!」


――鼻血をぶうぶう噴きながら、僕らは眼前の無修正・三次元エロ本に見入る。


「いてててて……んん……」


 失血死しそうな勢いで鼻血を噴いていた時、井戸の方で声がした。

 どうやら紫電しでんが起きたようだ。


「ぁぁ……みんな……王児は……? 王児……? 王児いいいいいぃぃぃぃぃっ!!」


 紫電は猛然とダッシュすると、王児と僕ら女子の間に割って入り、腕を広げて立ち塞がる。

 こら紫電! せっかくのオカズが見えんだろ!


「この痴女ちじょども! 恥を知れ!」


 紫電は僕ら3人にげんこつの制裁を加えると、自らの法衣を脱いで泣き続ける王児を覆った。


「ぅぅ……ひぐっ!」

「王児。何があったか知らないけれど……そんな格好でいたら風邪ひくよ?」

「紫電……お兄さん……? あれ……?」


 王児は状況を理解したようだ。


「オレの身体……元に戻ったの……?」

「へ? 王児それどういうこと?」


 王児がゾンビ化している間ずっと気絶していた紫電だけはちんぷんかんぷんらしい。


「あ、コウくん! コウくんは!?」


 僕は洸汰の方に顔を向ける。

 しかし洸汰は既に肉片一つ残らず消滅した後だった。

 王児が跳ね起き、洸汰を捜して辺りを見回す。

 あー、これは気まずいやつやな。

――不意に。

 キラキラとした白い光が舞い降りてくるとともに、半透明の天使が光の中に浮かび上がる。天使の唇が動いた。


「王児。ボクはいい友達になれなかったけれど、君はもう一人じゃないよね。こんなにたくさんの友達が君にはいるんだ」


 そこまで言って天使は僕らの方を見る。

 まだ僕ら女子は王児に性的な視線を浴びせ続けていた。

 それを見た天使はげんなりして、


「……本当に友達?」

「レイチェル様たち。かれちゃってますけど?」

「……え、あ、うん。僕らは友達!」


 焦って天使の顔を見る。

 これは……! 確かに面影があった。


「洸汰……くん……?」


 天使は首肯しゅこうする。


「コウくん」

「お別れの時がきたみたい。王児。どうか君の前途が……幸せなものでありますように」


 天使は金色の翼を羽ばたかせて、大空へと吸い込まれて行った。

 王児が放心状態となってぺたんと地面にお尻をつける。

 紫電は王児の肩に優しく手を置いた。

 友の翼から抜け落ちた金色の羽根を手に取り、見つめ。

 少年はいつまでも肩を震わせていた。



―――



 僕らは死神城に向かって歩いていた。


「あー、あれが洸汰くんかぁー。ゾンビじゃなかったらけっこうイケメンだったなー」


 粋は勝手ばかり言う。


「王児の身体がゾンビになってたなんて。……見てみたかったなあ」


 紫電ってたまにデリカシーに欠けるよな。

 王児は手に持った羽根に視線を落とし、素足のまま石畳の上をぺたぺたと歩いている。


「紫電様――っ!!」


 嫌な声が聞こえた。

 これはコノボス・ツエーの声だ。

 死神城の城門からスマホを手に駆け出して来たコノボス・ツエーは、紫電にそのスマホ画面を見せる。


「実は私、城の中からゾンビ王児様を録画してたんですよ! ほら! これとか上手く撮れてると思いませんか?」

「わあすごい! グロいなあ! これSNSに流したら絶対バズるやつ! コノボス・ツエー、珍しくお手柄! そうだね、ハッシュタグに『ゾンビ』って付けて……!」


 コノボス・ツエーのスマホを竜槍ラースが貫いた。砕けた有機ELディスプレイが飛び散る。


「ぎょわああああああああ! 私の新しいスマホが!!」

「英星なんてことすんの! ボクまだちょっとしか見てないのにっ!!」


 僕は限界まで声を荒げて、


「あんたらちょっとは空気読みなさいよ!! 王児はずっと落ち込んでるでしょうが!!」

「王児。気にしなさんなよ。あんな協調性に欠ける奴ら」


 粋が声を掛けると、王児はほのかに頬を染める。


「あ、あ、ありがとう粋お姉さん……」


 王児はどこか緊張しているようだった。

 こいつ話す時に緊張するような奴だったっけ? もっと自信満々の嫌な奴だったような。

 王児は粋に上目遣いでおずおずと視線を送る。粋もきょとんとしていた。

 それを見たデシューがニヤリと笑う。


「ははあ。さては王児くん。粋さんに惚れちゃったんデスねー。いやいや青春デス。必死に王児くんを助けてくれましたからね!」


 そう言うデシューの歳がおおいに気になるところではあるが、王児は必死にデシューの口を塞ごうとする。デシューは王児の足の間を通ってからかうように逃げていった。

 こいつらいいコンビだ……王児マジで!? この女に惚れたの!?

 王児は人差し指と人差し指をつんつんと合わせてうつむく。

 粋は悪い笑みを浮かべていた。


「あんた……あたしに惚れるなんて10不可思議ふかしぎ年早いわ。あたしの奴隷になる覚悟はできてるんでしょうねぇ?」

「粋お姉さんの奴隷に……!? なります! 喜んでなります! そうしたらオレと付き合ってくれる!?」


 王児のド直球プロポーズに粋は返答にきゅうしたようだ。


「だ、だだ誰もそんなこと……!!」

「じゃあどうすればいい……?」


 粋はしどろもどろになって、


「え? そ、それは」

「オレのこと嫌いですか?」


 王児は泣きだしそうだ。


「~~~~~~!」

「オレのことを必死にこの世に繋ぎとめてくれたのは……てっきり愛されてるからだと思ったのに……ぅ……ぐすん……」


 王児が泣きだして粋は慌てふためく。


「じゃ、じゃあ彼氏候補に! 彼氏候補にしよっかな、うん……! でもまだ候補だからね?」

「本当に……?」


 ナイス王児。あの憎たらしい粋を叩きのめしてくれてありがとう。


「……いや~、本当に青春ですねぇ~」


 クラリスがお茶をすすりながらつぶやく。お前はいくつなんだよ。

 それにしても王児ってこんなに積極的だったんだな。

 機嫌を取り戻した王児が手にしていた金色の羽根をくるりと手の中で回して――固まった。


「――英星お姉さん!! なんか今までとは違うダルボワ文字が書いてあります!!」



今までとは違うダルボワ文字とは一体……?


次回もお楽しみに!

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