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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第12章》 旧友との再会
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腐敗

洸汰こうたに捕食されてしまった王児おうじ

どうする英星えいせい!?

「ウソ……王児おうじ……王児が……!」


 いきがふらりとしながらつぶやいた。顔が青いが無理もない。


「ぎゃはははははは! とんだ笑いもんだぜ! 友人に食われるとはな」


 ポールの哄笑こうしょうが響き渡り、僕らに怒りのスイッチが入る。

 僕の身体の内部が確かな熱を持った。

 ポールを見据える。目が据わっているのが自分でも解る。

 こいつ絶対に許さない!


「お、王児くんを助けないと!」


 クラリスが両手斧を構えて声を発するが、


「無駄無駄無駄無駄ぁ! 洸汰こうたの胃酸はすこぶる強力でね。もうお前らの仲間は骨まで溶けてるよ」

「そんな……ぁ……」


 粋は今にも消え入りそうだ。


「王児くん! 王児くーん!」


 デシューが王児を呼ぶが、その声は虚空を震わせて消えた。


「そんなに会いたきゃ会わせてやるよ! そら出番だぞ王児!」


 ポールが杖の水晶にダルボワ文字を浮かび上がらせた。

 闇の柱が立ち昇り、そこから出て来たのは小さな背丈のゾンビ。薄汚れた服はところどころに穴が開いており、身体の肉は剝がれて白い骨が見え隠れしている。左目は飛び出ており、頭髪は緑色。

――頭髪が緑色?

 僕らはある可能性に思い当たり、がくがくと震えだした。


「ちょっと……冗談じゃないですよぉ!!」

「ははははは! 感動のご対面たいめ~ん!」

英星エイセイ……オ姉サン……ゴメン……ナ……サ……」


 ゾンビはくぐもり声でたどたどしく話す。

 もはや疑いようもない。これは王児だ。

 死んだ王児がゾンビとなって復活し、僕らの敵として立ちはだかっているんだ。

 粋が白目をき、今度こそばたんと倒れた。

 嘔吐えずきたくなるのを堪えながら、僕らは王児を見つめる。

 こうなったら……何とかして消滅させるのみだ。


「王児! ボクノニナッテクレタネー! コレカラハズットズット一緒ダ! モチロン……ゾンビトシテネ!!」

「嬉シイ。コウクント一緒。嬉シイ」


 洸汰と王児はぐちゃりと抱き合った。

 僕らは風下にいるため、2人の腐敗臭がぷんぷんと漂ってくる。

 ……2人? 確かゾンビはもう2人いなかったか?


「姫様! 後ろです!」


 クラリスの叫び声に振り返れば後方の石畳から4本の腕が生えてきていた。

 ボコボコと地表に出た豚の死神の親子のゾンビは僕らの姿を確認すると、両手を前に突き出して構える。

 囲まれた――!


「さあどうするよ? 仲間同士り合うか? 投降するか? ま、投降しときな♪」


 こんな……こんな卑怯な奴に――!


「姫様。私はこんな下郎に投降するつもりはありません」

「……だよね……僕もだよ」

「言いやがったな! 行け王児! 奴らを食い尽くせ! 間抜けのお前がそうされたようにな!」

「英星オ姉サン……クラリス……サン……!」


 王児が猛然とダッシュして来た。生前からは考えられないスピードだ。


「クラリスさんは粋さんを抱えるデス! デシューの指示に従って!」

「な、何か考えがあるの!?」


 デシューはこくりとうなずく。

 王児はすぐそこまで迫ってきている。


「今デス! みんな横っ飛びして!」


 デシューの掛け声を合図に、デシューを除く僕らは一斉に横っ飛び。

 ……デシューを除く・・・・・・・

 王児は丁度でっぱりのような大きさのデシューにつまづき、大きくバランスを崩した。スピードがスピードだっただけに弾丸ライナーとなって後方にいた豚の死神の親子のゾンビに突っ込むと、お互いバラバラに砕け散る。

 やっぱり肉体が腐っていると耐久力も弱いんだろうなあ――って王児!!


「安心して下さい! 彼らはゾンビデス! ゾンビのゾンビたる所以ゆえんを考えて下さい!」


 王児たちはゆっくりと再生していく。

 デシューはくるりと振り返り、


「今デス! ポールを攻撃! 奴を護るのは洸汰だけデス!」


 僕は竜槍ラースを握りしめた。

 行くよ……お兄ちゃん!

 粋を木陰に置いたクラリスと2人でまずは洸汰に斬りかかり、胴体を十文字に断つ。


「へえ。やるじゃねえかよ」


 次はお前だ! ポール・ウェーバー!!


「気を付けて!」


 デシューがそう叫んだのとほぼ同時に、僕の右足の力が抜けた。

 その場に顔面から転倒する。何が起きたか解らない。

 クラリスの攻撃はポールが仕込み杖できっちりと受けきっていた。


「う……ぐぅっ……!」


 僕の右太腿みぎふとももにはダガーナイフが深々と突き刺さっていた。


「うーん。備えあればうれえなしってね」


 ポールの漆黒のコートが風でなびき、奴の懐が見える。

 無数のダガーナイフがその刃を煌めかせていた。

 こいつ……! とことん……!


「姫様!」


 クラリスは前方を向きつつ僕の異変を察知したようだ。

 すまないクラリス……!


「《カオスレーザー》!」


 暗黒光線がポールの身体をいだ。


「ぐっ! おおぉおおぉおおおおおお!!」


 光線は太さと激しさを増す。まるでそれ自体が怒っているかのように。

 光線の発生源を見れば、粋がその眼に確かな怒りを宿して立っていた。


「あんた殺してやる! よくもあたしたちの友達・・をゾンビにしたわね!」

「ト……友達……?」


 くぐもった王児の声が聞こえる。


「オレハ……友達……? 皆サン……ノ……?」


 こいつゾンビになって頭回らなくなったみたいだな。

 虫唾が走った・・・・・・


「王児! あんたは僕らの友達でしょ!? だから……せめて苦しまないように僕らが殺してあげる!!」


 太腿を押さえながら顔だけ後方に向けると、再生を終えた王児がはらはらと涙を流していた。



美しきかなその友情。


次回もお楽しみに!

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