封鎖
英星たちを襲った大きな揺れの正体は!?
――背中にジェットエンジンを装着して洞窟の階段を駆け上がった僕らが見たものは。
ヌンが先刻焼いたあの森だった。特に変わった様子はない。
「ほっ……」
これ以上この想い出の森を荒らされたら困る。
辺りはもう夕闇に染まっていた。
だが紫電が少し気になることを訊いてくる。
「でも……さっきと少し違くない? なんとなくだけど」
「……そうかな。きっともう夕方だからだよ。ヌンと戦った時は昼間だったでしょ? 紫電ー、あんた大丈夫ー?」
紫電の赤髪をわっしゃわっしゃとかき混ぜる。
「わあわあやめてよお!」
あの大きな音はなんだったんだろう。
まあ、どこも何ともなってないんだったらよかった。
地平線の彼方へ目を向けると、残り日が赤々と燃えていた。
「綺麗……」
「あっ……、英星…………?」
紫電の手を握る。
綺麗な景色を眺める時は、なんだか手を握っていたいんだ。
「英星……どうしたの?」
「今は……、今はただ紫電の手を握っていたいの」
「ふうん……」
それに紫電の手を握っていると安心する。
しばらくして、石畳の辺りにいたソラがふよふよ飛んできた。
「……これは見事な眺めだな」
「へー、あんたにも綺麗な景色を眺める情緒があったんだ」
「まあな。……もっともこれは血の色だが」
――びっくりした。縁起でもないことを言わんでくれ。
「ちょっとソラーっ!」
「……ははは」
「そうだ、少し待ってて!」
僕は振り向いて、ダルボワ文字のあった石畳に駆け寄ろうとする。
「――まあまあ英星。今はやめないか?」
なんかソラが紅葉のような手で引っ張ってくるんだけど。
あんたさっきから挙動がおかしいよ? お巡りさんに通報しようかなあ。
「ちょっと神界に寄って来るだけだってば!」
「それをやめろと言っているんだ」
「なんでよ!」
「……英星!!」
……僕はソラを天に放り投げ、石畳の上へと移動する。高らかに右手を挙げ、神界にお迎えの合図を送った。
まったく、神界ってなんで上がるときは一瞬なのに下りるときはあんな長い階段を下りなきゃいけないんだ。
「おいッ! 英星ッ!」
お父様になんて報告しよう。紫電っていう素敵なお友達が出来ました、かな。あ、でも人間の男の子のお友達なんてやっぱり認めてもらえないかな。それとスペルを使いまくったことは怒られるな、うん。ま、いいや。……そうそう、紫電に僕の大好物の神聖饅頭を持ってきてあげよう。あの口いっぱいに広がる甘みがもう病みつきになるはず。それからみんなに紫電を自慢して……。
「英星? そんなところで右手挙げてどうしたの?」
――え? あれ? 神界に行けない……?
「英星こそ大丈夫ー?」
紫電が意地悪な笑みを浮かべてくる。
「えい! えい! ふん!」
何度手を挙げても、ついに神界には戻れなかった。
……おかしいなあ。確かに神界はこのダルボワ文字があった石畳から戻れるんだけど。
…………え? ダルボワ文字が『あった』石畳?
一瞬背筋が凍るのを感じた僕は、恐る恐る足元を見た。
――――ない。ダルボワ文字は跡形もなく消えていた。
「英星、落ち着いて聴いてくれ。どうやらさっき地下の洞窟で大きな揺れがあった時に……!」
「あ……ああ……な……んで……なんで! あれが……あれがなきゃ戻れないのに!!」
「え、英星しっかり!」
途端に頭が真っ白になって狼狽する。
「お父様ァ――――――ッ! お父様ァ――――――――ッ!! 英星はここです! 英星はここォ! お願い! 上げてェ! 上げてェエェエェエエエェ!!」
僕の意識はここでぷつりと途切れた。
英星の運命は!?
……次回もお楽しみに!