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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第12章》 旧友との再会
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洸汰

洸汰こうたという名前。どこかで聞いたことがあるような……?

王児おうじー? どしたのー?」


 僕は王児の頬をぷにぷにと突っつく。

 しかし少年は両手で口を覆い、内股になったまま反応しない。

 紫電しでんが首をかしげ、ポールが召喚した子供のゾンビを指差した。


「あのゾンビがどうかしたの? 王児?」

「あぅ……ぁぁ……あああああああああああああああ!!」


 王児は頭を抱えてうずくまる。

 ポールはフードの下で口角を上げた。


「どうやら洸汰こうたと面識があるようだねぇ。洸汰よ、哀れな王児くんとお話ししてやれ!」

「王児……久シブリダネ。ボクダヨ……洸汰ダヨ……」


 低い声。テレビで流れる『音声は変えてあります』の声みたいだ。

 王児は髪をきむしり、


「許してっ! 許してコウくんっ!!」


――コウくん!?

 コウくんってまさか!


「コウ……くん……? 王児が殺しちゃったって言ってた、あの……?」


 戦慄しながら、いきが声を絞り出す。


「姫様。どういうことでしょうか?」


 クラリスが僕に解説を求めてきた。確かその時クラリスはいなかったよね。


「王児と一緒に遊んでて……亡くなった子なの……」


 僕はそっとクラリスに耳打ちした。クラリスは目を見開き、わずかに視線を落として絶句。

 しばしの沈黙の後、耳打ちが聞こえていたらしいデシューがポールに1歩踏み出して、


「君はそんな下衆げすなことをして心が痛まないのデスか!? デシューたち死神族はそんな卑怯なことはしませんよ!!」


 しかしだなデシュー。ワイズマンはなかなか卑怯だった気がするぞ。

 ポールは「へっ!」とデシューの言葉を鼻でわらった。


「さっきから聞いてりゃ外道だの下衆だの言ってくれるじゃねえか。あいにく神族はそういう言葉が大好物でね。お褒めの言葉、ありがとうなー」

「王児。ボクハ怒ッテナイヨ……?」


 洸汰の言葉に王児の喉から「えっ」と音が出た。


「ボクハズット君ニ会イタカッタンダ……ヨク学校カラ一緒ニ帰ッタヨネ……」


 王児の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「あ……コウくん。コウくん……!」


 洸汰は腕を広げた。


「マタ……一緒ニ遊ボウ。ボクタチハ友達ジャナイカ」


 王児はこくこくと頷く。

 だが王児を除く僕らは一様に厳しい表情を浮かべていた。

 ……胡散臭すぎる。


「王児。信用しちゃダメだよ?」


 紫電が王児に釘を刺す。

 王児は眉尻を下げ、


「その……せめてオレのしたことをちゃんと謝らせて下さい……お願いします。あの時オレが森で迷わなければこんなことには……ならなかったんです」


 虫が話すようなか細い声で言う。


「ダメ」


 紫電の言葉に、王児が唇をんだのが見えた。

 背中のリュックから顔だけ出していた賢者の書が光る。


「《カースド・ストーム》!!」


 王児のてのひらから放たれた呪いの突風が僕らを・・・吹き飛ばした。


「ぎゃああああああああ!?」

「王児――――――っ!?」


 各々悲鳴を上げ、猛烈な勢いで野次馬に突っ込む。

 野次馬のクッションが無ければどうなっていたか解らない。死んでいたかも……。

 僕との衝突で伸びた馬人間さんの上で頭をさすりながら上体を起こし、王児の方を見る。


「ごめんなさい! 皆さん本当にごめんなさい! ちょっと話すだけですから!」


 王児は両手を合わせて合掌したままそう言うと、既に洸汰のもとへと走り出していた。

 洸汰も凄いスピードで王児の方へと疾走する。こいつ足が速すぎるんだが。


「いけない! 王児――っ!!」


 粋が王児に向かって叫ぶも、王児は洸汰の目の前に到達し、肩で息をしていた。


「コウくん……!」

「王児……!」


 2人は見つめ合う。早く王児を止めなければ。

 僕は駆ける。紫電は!? 紫電のワープでなんとかあいつらに割り込めないか!?

 ところが紫電は井戸の井桁いげたに頭をぶつけて気を失っていた。

 あんの無能! 肝心な時に役に立たねえ!

 粋もクラリスもまだ体勢を整えられてすらいない。

 走っているのは僕とデシューのみ。

 しかし2人とも足が遅い。なんというダメダメパーティだ。


「王児。ボクハ君ガ欲シインダ」

「コウくん……?」


 洸汰が王児のあごをくいっと上げる。

 な、何をする気だ?

 そして洸汰は――王児の唇を奪った。


「んんっ!? んーっ!! んんーっ!!」


 王児も必死に逃れようと抵抗するが、その華奢きゃしゃな身体では抗えない。

 洸汰は気が済んだのか友の唇を解放すると、王児の頭を持って顔面をごしごしと力任せに石畳に擦りつける。


「ぎゃああああああああああああっ!!」


 少年の高く悲痛な声が響き渡り、周りの野次馬たちも一斉に逃げ始めた。

 王児の友達と言えど、こうなったら攻撃するしかない!

 僕は額のコウモリの紋章を輝かせ、流星を呼び寄せる。

 が。洸汰は王児の髪の毛をつかんだまま、そのスピードで流星から素早く距離を取って回避した。空振りに終わった流星の一撃が虚しく石畳を吹き飛ばす。


「王児。苦シソウダネェ。モウ僕ノ餌ニナッチャウ?」

「ぁぅ……ぁぁぁぁぁ……ぅぅ……」


 流血に染まる王児はぐったりとしながらも首を横に振った。


「悪イ子ダナ」

「王児くん!!」 「王児!!」


 ようやくクラリスと粋が僕らに追いついてきたが……。

 それは王児の頭に洸汰がかじりついた瞬間だった。遅すぎた。すべてが。


 王児はじたばたと足を動かすが、洸汰はそんなことにはお構いなしに口の両端を大きく裂き、王児をごくりと飲み下した。

 最後にぷっとリュックを吐き出し、王児の物だった・・・・・・・リュックは賢者の書を放り出して転がる。

 僕らは凍り付いてただただその光景を見ていることしかできなくて。


――定村さだむら王児は捕食された。



なんということ!!


……次回もお楽しみに。

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