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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第11章》 不屈
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魔法の微笑み

兄を亡くし、落ち込む英星えいせい――

「レイチェル。よく生きて帰ったな」


 死神城の謁見の間にて、僕らはクソデカ死神ことアクセル・キルンベルガーと対面していた。

 神界脱出から5日目のことだ。


「お兄ちゃん……」


 竜槍ラースの刃に語りかける。

 お兄ちゃんはただただ冷たく無機な光を発するのみ。


「え……と、戦場じゃないから英星えいせいって呼んでもいいのよね? 英星……かける言葉が見つからないんだけど……」


 僕の仲間たちは一様に肩を縮こませ、眉尻を落としてうつむいていた。

 紫電が時折ちらちらと目だけ動かして僕を見てくる。


「……なんて声を掛けましょうか」

「それボクが訊きたいっての」


 王児おうじ紫電しでんがこそこそ話をしている。

 すみませんそれ全部聞こえてます。

 下手なこそこそ話はやめて欲しい。


「ねえ。キルンベルガー……パパ。僕ね。お兄ちゃんに『ホントのお兄ちゃんでもないクセにっ!!』って言っちゃったの」

「うむ……」

「キルンベルガー様。顔が赤らんでますが」


 傍に控えているコノボス・ツエーがパパに突っ込む。


「やかましっ! 娘に『パパ』と呼ばれたら顔くらいほころぶわ……! して?」


 僕は無様に鼻水を滴らせて。


「自分が……自分が悔しいよお……! お母様も死んじゃったよお! クラリスだってまだ帰って来てないし……ロベルトだって……ワイズマンも……デュークも……みんな僕の我儘わがままで死なせちゃった!」

「英星。大丈夫よ。きっとみんな生きてるって――」

「うるさいっ!!」


 声を掛けてくれたいきを突き飛ばす。

 粋は「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げ、尻もちをついた。


「『きっと』って何パーセント? どのくらいの確率!? 他の死神族のみんなも……!」

「ぴぴぴぴー!」


 鉢巻デススライムのデシューが鳴いた。何かの気配を察したようだ。

 突如として稲妻がパパの前に光ったかと思うと謁見の間に水晶のような穴が開き。

 デュークやワイズマン、クラリスにロベルトといった死神族の幹部を始めとして他の死神軍の兵士たちが現れた。

 僕らは目を点にしてそれを見つめる。


「お前たち! 無事だったか!」


 パパがひときわ高い声を上げて満面の笑みを浮かべた。

 その顔は実の娘としても少しばかり怖かったけども。


「ああ~帰ってきた……帰ってこれたぞ……!」

「ふん。あれから全員敗走して死神界へ通じる道を探し回っていたなんてキルンベルガー様には内緒ですよ?」

「ええい! ここは死神界のどこなのだ? 私の顎髭あごひげをセットせねば!」


 死神族のみんなは眼前のでかい死神を確認するや否やすべてを察して押し黙った。

 兵数はだいぶ減っているが、幹部はみんな無事だ。


「よいよい! 楽に致せ!」


 パパの一言でみんなの緊張が解け、疲労から一斉にその場に倒れ込む。

 みんなボロボロだなあ。戦争映画の衣装みたいだ。


「ああ、姫様。よくぞご無事で……!」


 クラリスが僕に微笑み掛けてきた。


「あの……みんなが無事で本当によかった。でも……お母様は……リーネお母様はどこ?」


 ……死神たちは黙り込んだ。

 そんな中クラリスが一人手を挙げて、


「あの……神族と交戦中にいきなりリーネ様が降って来て、神族がリーネ様を連れて行くところは見ました……!」

「そう……答えにくいことをありがとう……」


 クラリスは、いえ……、と小さく首を振ってこうべを垂れた。


――カカカカカ……!


 これは……?

 厳星げんせいの笑い声……!?


――愚かな死神どもに告ぐ。今すぐレイチェルを渡せ。さすれば今回の貴様らの一方的な領土侵攻は不問に付す。リーネも無事に引き渡そう。約束する。


「厳星……ホント……?」

「英星お姉さん! あんな奴の言うこと信用しちゃダメです!」

「で、でもお母様が無事に帰ってくるって……」

「しっかりしなさいよ英星!」


 王児と粋から叱られるものの、もうどうしていいか解らない。

 そもそも僕なんてお兄ちゃんは殺しちゃうし、みんなは危険な目に遭わせるし……生きているだけで迷惑なんだ。

 だったら……僕なんかの命でお母様が救われるかも知れないんなら……。


「紫電お兄さんも何か言って下さい!」


 王児が眉間にシワを寄せて紫電に詰め寄った。

 紫電は優しく笑って。


「ボクは何も言わないよ。だって英星を信じてるから!」


――その微笑みが。

――その言葉が。

 弱りきった僕の心を奮い立たせた。


「……かない……」

「え? 英星お姉さん今なんて?」

「行かない……絶対に神界なんて行かない! 僕は……自分を信じる!」


――ふん。リーネがどうなっても……知らんぞ。


 それだけ言って厳星の声は聞こえなくなった。

 これでよかったんだ――きっと。


「さすが死神族の姫デス! 紫電くんと末永くお幸せにデス!」


 思わずその場にいた全員がその声の主に顔を向ける。


「デシューという素敵な名前を付けてくれてありがとうデス! これからよろしくデス!」


 鉢巻デススライムのデシューはにっこり笑ってウインクした。

 ……こいつ喋れたんか。



デシューは喋れた!

これは世紀の大スクープ!!


次回もお楽しみに!

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