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川上英星は穴だらけ!  作者: タテワキ
《第10章》 そして今度は神界へ!?
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男の試練

リーネが落下し、レイチェルは取り乱す――

「お母様ああぁああぁあああ!!」


 僕の叫び声が明け方の空に虚しく響く。

 お母様は僕らを見つめながらどんどん小さくなり、大聖堂の中へと吸い込まれていった。

 僕は竜槍ラースを握った片手を必死で伸ばすが届くはずもない。


「いや! お母様! お母様が!」

英星えいせい! 生きていれば必ず出会えるから! 今は生き延びるよ! いいね!?」

「…………」

「英星……! いや、レイチェル!!」


 僕は黙ってうなずく。

 紫電しでんは子供3人を乗せて上昇を続け、ついに僕らは大聖堂から脱出した。

 だが落ち込んでいる暇もなく、今度は神族からの砲弾が飛んで来る。


「わああああああ! そんな! 暴力反対です!」


 大気を震わす砲弾に今度は紫電の右肩につかまっていた王児おうじがパニックに陥った。

 いきは依然として自身の胸部に張りつく神族の手を取ろうと必死に身体を捻じっている。

 紫電がバランスを崩し、またも大きく揺れた時。

 僕は手を滑らせ、落下――――

 なんの落ちるか!

 反射的に片手を上に伸ばすと、何かを摑んだ。


「ふんにゃああぁああ!?」


 紫電の間の抜けた声が聞こえて恐る恐る顔を上げると。

 僕は紫電の股間に摑まっていた。軟らかい。ぷにぷにしている。


「あ、あら? ごめんなさい」


 顔から湯気が出るほど赤くなって思わず股間から手を離しそうになった。

 しかし今は紫電の股間だけが頼りだ。

 命綱ならぬ命股間。股間命じゃないぞ。

 しかし粋も落下しかけて、かろうじて僕の足に摑まる。


「ふんぎゃあああああ!?」


 今紫電の股間は子供2人分の体重を支えている。

 その振動で王児が体勢を崩し、落下――しかけて粋の足を摑んだ。


「ぎゅわああぁあぁあああ!?」

「紫電の股間すごい! 子供3人分の体重を支えるなんて!」

「う、嬉しくなぁ~い……!」


 もはや半泣きの紫電には申し訳ないが、僕らの命運はこの股間が握っているんだ。

 文字通り握っている……うん。


「紫電お兄さん頑張って下さい!」

「が、頑張りたくないぃ~……!」

「あたしにおんなじことしろって言われてもできないんだから! だって……無いし」


 いつの間にか乳房に張りついていた手が取れてパニックから解放された粋が核心を突くが、


「お、女の子に生まれたかったぁ~……!」

「これさ、新しい空中ブランコみたいだよね! お金取れるかも。でもその前にきんが取れそう?」

「え、英星うるさいぃぃい! あぁ、ダメ! ちぎれる! ちぎれるぅうぅぅう!!」


 そんなことを言い合いながら、僕らは大聖堂の敷地内からの離脱に成功した。

 朝もやの中、ゆっくりと高度を下げて大聖堂前の広場に着地する。

 結局ギャーギャー言いながら5分くらい飛行したな。


「逃走成功です! 同じ男として紫電お兄さんの股間力にはぞっとしないですが!」

「ええぇえ……ぅうぇえええぇぇぇええぇえん!」


 紫電が広場の石畳の上に悶絶して倒れ、股ぐらを押さえて泣きだした。

 今回は紫電の象さんに助けられたなあ。

 あれ? デシューは?


「ぴー」


 鉢巻デススライムのデシューが紫電の法衣の中から這い出して来た。

 そんな所に隠れていたのか。よく生還したな、偉いぞデシュー。

 デシューはその長い舌で僕の頬をぺろぺろと舐める。


「よし、みんな無事だあ!」


 万歳をしたところで想う。

 みんな無事……か。お兄ちゃんとお母様は……。


「レイチェルお姉さん。元気出して、なんて言わないですけど……その……あの。紫電お兄さんが言った通り生きていれば……また……えっと……あ! でも雷星さんは……!」


 僕はみんなに背を向けて涙を拭うと、王児の頭頂部にごりごりとげんこつを押し当てる。


「お前~! 普段大人ぶってるクセに励ますのは年相応だな~!」

「いだだだだだ! 何するんですかもう! 心配して大損しました! このゴリラ女!」

「なんだとてめえ!」


 僕は竜槍ラースを振りかざして王児を追い回す。

 粋は微笑みながら腕組みをして僕らのやり取りを見ていた。

 紫電は相変わらず伸びているけども。


――軍靴の音が朝もやを揺らし、近くの木々から鳥たちが逃げ出す。


「また神族なの!?」


 白いもやを切り裂いて。

 粋の目の前に立っていたのは、眼窩がんかに光る眼を持つ骸骨がいこつの戦士。


「ひっ!?」

「粋! 危ない!!」

「ぎゃああああぁぁああっ!! 骸骨――――っ!!」


 粋の上段回し蹴りが炸裂し、骸骨の戦士の頭蓋骨が8回転くらいした。


「げふぅ……わ、我々は死神族の援軍ですぅ……!」


 それだけ言って骸骨の戦士は目を回し、ばらばらになってくたばった。

 そっか。死神族は味方なんだ。


「姫様! よくぞご無事で! このロベルトが来たからにはもう安心ですぞ!」


 いつか僕らにウサ耳を付けやがったロベルトが骸骨の馬に乗って現れる。

 お前どのつら下げて助けに来たんだよ!

 僕の瞳に炎のエフェクトが現れた。


「ささ、姫様たちは後ろの門から死神界へ! いくぞ皆の者! 私に続けぇ――っ!」


 声を裏返しながら、ロベルトは牛や猪、豚、魔鳥といった面々を引き連れ、大きな砂煙を舞い上げて大聖堂へと突撃していった。

 ロベルトの後ろには確かに水晶のような穴が開き、死神城が見えている。

 うーむ、悔しいが今はロベルトたちに頼るしかない!

 僕らはもう疲弊しきっているしなあ(特に紫電)。

 クラリスやデューク、ワイズマン、何よりお母様はご無事だろうか。

 僕らとデシューはうずくまって震える紫電を4人で引きずり、剣戟が火花を散らす音を後方に聞きながら、大波乱となった神界での冒険に終止符を打った。



――3日後



 僕は死神城の自室に一人籠っていた。


「うぅ……お兄ちゃん……お兄ちゃあん……!!」


 竜槍ラースをベッドの上で抱きしめて。

 僕のすすり泣く声が雨の死神城に響いていた。


「僕が……お兄……ちゃんを……お兄ちゃんを……!!」



よく頑張った紫電!!

レイチェルたちは大星を挙げました!!


次回もお楽しみに!

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