思わぬ再会
兄である雷星が死んでしまい、英星は心が乱れている模様……!
壁に掛かった絵が全てボロボロになって落ちている。
先ほど殺した神族によるとこの先に転移を妨害する装置が。
「ぴぎゃ――っ!」
デスすけが神族に斬りつけられ、悲鳴を上げて蒸発した。
「デスすけ――っ!!」
「よく見分けがつくね英星」
紫電が神族と剣を交えながら呟く。
僕は眉間にシワを寄せた。
「紫電! 戦場ではレイチェルと呼べ! 斬り捨てられたいか!」
「ご、ごめん……レ、レイチェル!!」
僕は他の仲間にも念を押す。
「粋! それから王児!」
竜槍ラースを順番に鼻先に突き付け、
「お前らもだ! 今度戦場で『えいせいおねえさ~ん♪』とか言ってみろ! そっ首刎ね飛ばすぞ!!」
粋は黙って首肯し、王児に至っては固まったまま更に股間が濡れていく。
ふん! 解ったようだな!
「レ、レイチェル怖いよぅ……」
王児が泣きだしてしまった。
こんな時に誰が泣かしたんだ! 誰が!
粋が駆け寄る。
「粋! そんな泣き虫の役立たずは置いて行くぞ!」
「ええ!? ちょっとちょっと! いつもの英星なら……!」
「レイチェルだっつったろうがよ――っ! 死ねい!!」
粋の首めがけて槍を一薙ぎ。
ひまわりの少女は「ひっ!」と鳴いて咄嗟に伏せた。
なんとか首ちょんぱを回避した粋だが、壁に鋭い切り傷がつく。
――傷は粋の頭より下の位置。
それを見た粋はぶるぶると震えだし、口をあんぐり開けて崩れた。
なんだ。粋も股間から黄色い液体を漏らしやがって。
紫電も青くなっている。
「赤髪。文句あんのか」
「文句しかないです」
僕の頭からブチリと小気味のいい音がした。
「この赤髪! みじん切りにしてくれる!」
「わああああああああ!」
裏切り者は斬らねば。矢が雨あられと飛んでくる中、味方同士でチャンバラが始まった。
「レイチェル! どうしちゃったの!?」
紫電は必死で僕の斬撃を受けつつ、意味不明なことを訊く。
「レイチェル! 怒りと悲しみに支配されちゃダメだよ! 君は優しい子だったろ?」
「うるさいうるさいうるさい!! 兄を失ったのだぞ! お前に何が解る!!」
「解んない! 解んないよ!!」
それだけ叫んで紫電は僕の懐に入り込んだ。
そのまま僕の腰に手を回し、紫電の顔が迫って来る。
――え、これって……。
紫電の唇と僕の唇が重なる。
ちょっとちょっとこんな所で――
永遠とも思える時間が流れた。
紫電は唇を離し、額と額をくっつけて。
「レイチェル」
「紫電……僕が……僕がお兄ちゃんを殺しちゃった……うぅううううう!」
紫電が背中をさすってくれた。
竜槍ラースの刃が鈍く光り輝く。
「レイチェル。今は死神界に帰ろう。話はそれからだ」
紫電は駆け出す。
その左肩には矢が1本刺さっていた。
「1秒足らずのチューで手なずけるなんて猛獣使いです」
「まさにそれだわ」
―――
「小6にもなってお漏らしするなんて! これも誰かさんのせいよ!」
粋がジトっと視線を送ってきた。
僕は先ほどの紫電とのキスが忘れられない。
頬を火照らせて走っていた。
なんだか一人だけ場違いな感じだなあ。
「どこ? どこに転移を妨害する装置があるのよ?」
「あんたたちちょっと待って……! 休憩させてよお……!」
「ほんの少しだけいつものレイチェルに戻ってきたね」
横倒しになった観葉植物を飛び越えた先。
『立入禁止』と書かれたドアが1つあった。
「あそこかも知れません! 入ってみましょう!」
ここにその転移を妨害する装置があるのか?
ぎぃっと音がしてドアが開く。
真っ暗。
灯りをつけるが、部屋の中には何もない。
ただ細長い鉄製の箱が横たわっているだけ。
「なんだよ! 何もないじゃないか!」
紫電が怒ったように叫んだ。
僕は細長い鉄製の箱に何かを感じ、開けようとするが……。
「あぁっ、重すぎて開かない! みんな! 手伝って!」
「レイチェルお姉さん! 今はそんな箱どうだっていいです!」
「いいから! お願いだから手伝って!」
「……しょうがないわね~」
みんなで力を合わせ、うんうん唸ってやっとのことで箱を開けた。
箱の中に何か白いものが見える。これは……?
中に入っていたのは、猿ぐつわを嚙まされ、両手を後ろ手に縛られた若い色白の女性。
「リーネお母様!?」
しかし僕の真剣な叫びも虚しく、
「えっ? これ緊縛プレイかなあ?」
「おっほーっ! 好みの女性です!」
オスガキどもは一気に発情する。
粋が2人を殴ってくれた。
慌てて猿ぐつわを解いた僕はたまらず抱きつく。
「お母様……! よかった、ご無事で……!」
「え……英星! 英星!!」
反省した紫電が、惜しみながらお母様を縛っていた縄を切る。
お母様も僕を抱き寄せ、涙した。
「レイチェル? この人は?」
「このお方はリーネお母様。神界での数少ない僕の理解者だよ……!」
「さっきの緊縛されてる姿、写真に撮っとけばよかったです」
王児がまた粋に殴られていた。
えいせ……いや、レイチェルの育ての母であるリーネが登場!
次回もお楽しみに!