強く生きる
雷星死す――
果たして英星は!?
――目を覚ますと自然と涙が溢れていた。
夢だったのだろうか。
Tシャツの胸部に穴が開いている。
ぎりぎりおっぱいは見えていないからよしとしよう。
シャンデリアが全て床に落ち、徐々に太陽の光が昇りつつあった。
「――キレイ」
赤い髪が視界の端で小刻みに揺れていた。
ひまわりの髪飾りも。緑色の髪も。
禍々しい黒い球体も4つ震えている。
ようやく解った。紫電たちだ。
「どうしたのみんな」
あれ? そういえばお兄ちゃんは――
お兄ちゃんはみんなの輪の中に横たわっていた。
そうだ。お兄ちゃんに謝らなきゃ!
「お兄ちゃん。あの……。ごめんなさい。僕……」
お兄ちゃんの目は閉じたままだ。
「もう! お兄ちゃん! 悪い冗談はやめてよ!」
何気なく紫電たちに目をやる。
みんな――声を上げて泣いていた。
「紫電? みんな? ねえどうしたの?」
ははあ。さてはみんなで僕をからかっているんだな。
少しイラッとした僕はお兄ちゃんの小さな体を抱き上げ――
あれ?
冷たい。
――それはそうか。お兄ちゃんの体は鱗で覆われているんだ。
でもぐったりしていつものひょうきんな感じには程遠い。
……怖くなって兄を床に落とした。
べしゃりと力のない音がする。
その音はどこか哀しい。
まるでもう死んでいるかのよう。
……え? みんなは何故か泣いている。
殺しても死なない僕の自慢のお兄ちゃんは、死んだように動かない。
そして死んだはずの僕は生きている。
ある一つの可能性が脳裏に浮かび、僕の全身が震えだした。
「まさか。まさか《ファイナルブレス》を……!? ウソ……ウソぉ……!!」
その場に崩れ、髪をかきむしる。
「いやああああああああっ!!!」
まだ仲直りしてなかったのに。
まだろくにありがとうも言ってなかったのに。
まだ……一つもお兄ちゃん孝行してなかったのに。
「英星……」
紫電が肩に手を置いてきたが、僕はその手を振り払った。
「お兄ちゃん! ねえお兄ちゃん! ウソだよね? ウソって言ってよ! ウソって言え!!」
お兄ちゃんの両肩を必死に揺する。
「お兄ちゃああああああああああん!!!」
「ぴぎゃ――っ!」
デススライム隊のデスおの悲鳴が聞こえた。
体に矢が刺さっている。
デスおが蒸発するようにして消えた。
「川上英星とその一味よ! 覚悟しろ!」
鎧に身を包んだ神族たちが、ぐちゃぐちゃの大聖堂内にガシャガシャと踏み込んできた。
「神族の後詰!? もう駆け付けたの!?」
「英星! このままじゃボクたちまでやられちゃうって!」
「…………」
「英星お姉さん! 雷星さんの分も――!」
「うるさああああああいっ!!!」
「ひぃっ!?」
その先を言って欲しくなかった僕は王児を一喝した。
あまりの剣幕に腰を抜かした王児のデニムの股間がみるみるうちに濡れていく。
「我が名はレイチェル・キルンベルガー!!! 死神族の姫なり!!!」
僕の大音声に気圧され、神族の進軍が停まる。
「我が兄、川上雷星は卑しき神族の手により惜しくも命を落とした!!!」
大気の震えに、紫電が瞠目している。
「怒れ!! 死神の同志たちよ!! この戦いはただの退却戦にあらず!! 我が兄の弔い合戦と知れっ!!!」
僕はお兄ちゃんの体を手に取った。
安らかな顔をしている。
「お兄ちゃんごめんね。力を貸して」
僕はお兄ちゃんの体にカースで念を送った。
ピンク色の光に包まれたお兄ちゃんの体は、どんどんと引き伸ばされ――たちまち一本の槍になる。
僕は透き通るように白く光るそれを頭の上でぶんぶんと回し――
「この槍は我が兄の生まれ変わり!! 『竜槍ラース』!!!」
神族どもに突き付けた。
「……王児。立とうか」
股を開き、放心状態で股間を濡らしていた王児に粋が優しく語りかける。
王児は力なくこくりと頷いた。
「行くぞお前ら!!」
僕は先陣を切って神族に突っ込む。
戦意を喪失し、机の下にうずくまっていた神族の首根っこを摑んだ。
「転移を妨害する装置はどこにある!?」
「ひっ! じ、自分は何も……!」
「言え!!」
竜槍ラースを顔に突き付けて脅す。
「あ、あの通路を進んだ先に……!」
「恩に着るがお前はもう用済みだ」
僕はその神族の顔をさっくりとカットし、紫電たちに指示を出す。
「こっちだ!! ついて来い!!!」
竜槍ラースに姿を変え、兄は妹を見守り続ける――
次回もお楽しみに!