女神様、降臨……!
初投稿です!
完結まで毎日更新を目指して頑張ります!
よろしくお願い致します!
英星の冒険が今始まる!
――天から伸びる白銀に輝く階段。そこから、小さな女神が転がり落ちてきた。
「がふっ! ぐへっ! ふげっ……!」
青々とした原っぱに轟音を立てて尻もちをつき、身体をよじって悶絶する。早くも死にそうだ。
「痛ったーい! もう! この階段、神界から地上に直接降りられるのはいいけど! 途中で躓いたら最後まで転がりっぱなしって何とかなんないの!?」
それは重力のせいだろうが。
無論階段から返事はない。女神はそれが頭にきたのか、思いっきり階段を蹴ったくる。
「ふんごおぉおぉおおおぉ……! 痛い――ッ‼ つま先潰れた――ッ‼」
お前はホンマに女神か。
これが漫才なら、そんなツッコミを浴びせられるところだろう。
蹴られた階段はぴんぴんしている。顔があれば嘲りの笑みを浮かべていそうだ。
「気を取り直して……ここが地上。人間界だな! お父様もなんで僕に人間界を見学してこいなんて言い出したのかな……めんどくさ」
そんな女神を追って、天空より竜の使い魔が舞い降りてきた。人間の頭より少し大きいぐらいだろうか。
「川上英星さん! 階段を走ってはいけません! 学校だったらこう言われてるぞお前!」
「あ、ソラ。やっと追いついてきた。ごめんねー、途中で足滑らせて転げ落ちちゃって!」
「それよりお前さあ、本当に何も持ってこなくてよかったのか?」
「荷物なんてあっても重いだけだって! どうせすぐ終わるっしょ! さあー、見学見学う!」
これはこのふざけた見習い女神、川上英星とその仲間たちの物語である。
―――
「いたたたた…………!」
派手に転げ落ちたからなあ……どこか折れてないかな?
上体を起こして辺りを見回すと、一面に木々が生い茂っている。
僕は深い森の中、ひんやりとした石畳の上にぺたんとお尻をつけて座っていた。
石畳に書かれているのは……ダルボワ文字。ダルボワ文字というのは、神族の始祖『川上大和』に仕えていた『ダルボワ』なる賢臣が創ったと伝わる、魔力が込められた文字のことで、ここに向かって階段が伸びていた。
それにしても綺麗な森。小鳥がさえずり、緑色の空から差し込むきらきらとした木漏れ日に心がときめく。太陽の光が緑色なんて感動!
絵画からそのまま取り出したような絶景だ。
「……ま、とりあえずこの森を抜け出そうかなーっと! そうそう、神族が人間界に降り立つ時は、原則として人間に見つかっちゃダメなのよね。何かの拍子で神の技術が流出したら大変だから」
がさがさがさと音がする。
「まずは甘いもの食べたいなー。ちょっと階段降りたら(正確には落ちたら)お腹すいちゃった」
今度はがさっ、がさっと音がする。
「後は……ん? ソラ、なんか言った?」
「別に」
シメに、がささっと音がして。
「はえ?」
すっとんきょうな声を上げて音の聞こえた方向を見てみると、茂みの隙間から見慣れぬ生き物がひょっこり顔を出している。
くりくりっとした藍色の両の瞳を綺麗な長いまつ毛が取り囲み、鼻は子供にしては高いだろうか。そこにマゼンタの唇が絶妙なアクセントを付けている。清潔感のあるさらさらの赤い髪の毛に、透明感のある薄橙色の肌が僕をそそる。まだ目鼻顔立ちは幼いが、将来はきっと美形になること間違いない。評点、120点満点!
――って、あれ? これ人間じゃね? 人間の男の子じゃね? 待て待て待て待て。ぎゃーどうしようどうしよう。さっそく人間に見つかった。でも何とかこれ以上の接触は避けなければ。
「君どうしたの?」
わー声かけられた。会話はご勘弁。
「ちょ、ちょっと今受け答え出来ません!」
思いっ切り受け答えしてしまった。
会話成立しちゃってるうぅぅぅぅぅぅぅ!
……終わった。もうどうとでもなれ。
「受け答えしてるじゃん」
少年はケラケラと笑うと、僕の前まで歩いてきてしゃがみ込んだ……のだけど。その手には木刀が握りしめられていた。
「ま、まさかそれで僕を狩って食おうっての?」
「え、英星には手を出すな! 代わりに私を狩って食え!」
僕らが2人でやいのやいの言うと、少年はぽかんとして顔を斜めに傾けてから、腹を抱えて笑い出した。
「あはははははは! そんな密猟者みたいなことしないよ! この木刀は、修練用。素振りって知らない?」
見ると、少年は道着のような物を身に着けている。どうやら修練というのは嘘ではないらしい。
「なんか雷でも落っこちたようなでっかい音が聞こえたから、何かと思って来てみたら……見たことない男の子がいるんだもん。びっくりしちゃった。ふふ、ボクたち友達になれそうだね! ボクさ、友達がいなくてさあ。男の子の友達が欲しかったんだ!」
「――え? あぁ、うん」
――なんか男に見られている?
確かに僕は黒の短髪にTシャツ、下もデニムのショートパンツでボーイッシュではあるけど……。
おまけに胸が全然なくて。12歳でこれはちょっとあり得ない。だって洗濯板だもん。
……少年のきらきらとした眼を見れば見るほど、実は女なんです、とは言いづらい。
「ボクは紫電。荒波紫電っていうんだ! 名前で呼んでね!」
「か、川上英星です……」
「川上くんかぁ……。ねえ! ボ、ボクも名前で呼んでいい?」
「い、いいけど……」
「そして! 私はお供のソラだ!」
「鳥が喋った! 賢い鳥だなあ! じゃあよろしくね、英星くん!」
「鳥じゃない! 竜ぐふっ!」
僕の肘打ちがまともに脇腹に入り、鳥呼ばわりされた哀れな竜はあえなくその場に沈んだ。
竜だと明かすのはまだ早い。
そもそも、どれぐらい紫電が信用できる人間か分からないし。
……少しカッコいいけどさ。
―――
森から離れた僕らは、紫電の家を目指すべく小道を歩いていた。
「今日は記念日だなあ」
「そ、そだねー」
紫電に申し訳なくて、ぎこちない相槌しか打てない。どうしよう……まあイケメン男児の1人や2人騙したところでバチ当たらんでしょ、大体バチ当てる側は僕だし。……当て方知らないけど。
「英星くんの好きな食べ物教えてよ。ボクはお刺身とか好き」
「えぇっと、僕はケーキが好きかな」
「ケーキかぁ。小さい頃よく食べたなあ」
――今も小さいだろ。
「母上が買ってくんないんだよね。いいなあ。ボクも久しぶりにケーキ食べたい」
「で、でもケーキとか甘いものは食べ過ぎたら体重が増えちゃうから困るよね」
「え? 英星くん、体重とか気にするんだ。女の子みたいだね」
――こちとら女の子なんだよ。
「英星くんはイケメンなんだから、体重が少しぐらい増えてもきっと女の子からモテるよ。自信持って!」
――うるせえええええ! 女にモテても嬉しかねえわーッ!
「……あ、ごめん。ボクちょっとおしっこ。さっきから我慢してたんだー。英星くんも一緒にどう? 男同士でしょ?」
――だぁれが男と一緒にションベンするかあああああ! とっとと行ってこいこのセクハラツレション野郎!
危うく叫ぶところだった。
「ぼ、僕はいいよ。あはは……」
「そう?」
セクハラツレションはそれだけ言うと茂みの中に入っていった。僕は両耳に指で栓をして、顔を背ける。
「――うわあっ!」
紫電の狂気じみた声が指の栓を貫通して聞こえてきた。
どうした。青いションベンでも出たか。
――耳を塞いでいたのに聞こえたということは、紫電はそれはそれは大きな声を上げたのだろう。
「英星くん、前! 前見て!」
僕が恐る恐る前を見てみると――
何やら不気味に黒光りする球体が顔のすぐ前に浮かんでいた。禍々しい気配を放って伸縮している。
「きゃああああっ!」
思わず悲鳴を上げる僕。
神界にいた頃、何かの図鑑で読んだことがある。あれは下級の死神族、デススライムに間違いない。
……しかしなぜこの時代に死神族が? 死神族は400年ほど前に神族によって封印されたはずだ。
そんな逡巡を巡らせていると、デススライムの顔に突如として牙が生え、赤い裂け目ができた。これは……口か? それがそのまま大きく迫ってきて……。
衝撃とともに視界が真横に流れた。
「英星くん! 何してるの!」
紫電が僕の身体に覆いかぶさっている。
体当たりして助けてくれたのか。ありがとうツレション王子、危うく頭をかじられるところだった。覆いかぶさるというセクハラ行為は許さんけど。
紫電は近くに落ちていた小石を拾い、それをデススライムに投げつけた。デススライムの注意が紫電に向く。
「こっちだ! 黒い化け物!」
紫電は立ち上がると、持っていた木刀を構えた。なかなか様になっている。
『じゅるるっ!』
デススライムの口から、気持ちの悪い声が出た瞬間。紫電が左足を蹴り、右足を勢いよく踏み込み――木刀でデススライムの脳天を打ち据えた。
ナイス! セクハラの件には恩赦を与えようぞ人間よ!
紫電の剣の腕前は相当なものらしいな。知らんけど!
――ってあれ? 頭を打たれたデススライムはグニュッとへこみこそしたものの、ぴんぴんしている。
「き……効いてない?」
驚く紫電を尻目に、デススライムは弓を引き絞るように三日月型になった。ぷるぷると震えている。
これは何をしているのだろう。反動をつけているのかなんなのか……反動?
「紫電! 危ない!」
――叫ぶのが遅れた。
デススライムは弾丸の如く突進し、紫電のみぞおちに深々と食い込んだ。
「か……は……!」
凄まじい勢いで吹っ飛んだ紫電は、そのまま近くに自生していた大木に背中から激突。ずるずると力なく横たわった。
「紫電!」
そんな紫電にデススライムがゆっくりと近づく。
「英星……くん……! 逃……げて……! 逃げて……!」
「あんたを置いて逃げられるわけないじゃない!」
「いいから……! ボクの……初めての……友……だ……ち……」
――僕は覚悟を決めた。
流れるような指使いで、僕は炎系スペルのダルボワ文字を宙に刻んでゆく。
まずは綴りを完成させることに集中する。僕の魔術――即ちスペル――が発動する条件は次の通りだ。
例えば《ファイア》というスペルなら、思念を込めた指先を動かし、宙にダルボワ文字で《ファイア》と誤字脱字なく書く。これでいいのだけれど、ダルボワ文字は1文字を構成する画数が非常に多く、ややこしい。《ファイア》と書くだけで骨が折れる。
――僕だったらもっと簡単に書けるように創るんだけどな。
ダルボワ文字の開発者であるダルボワが生きていれば、間違いなくぶん殴りに行く。
人間にここまで見せたらいよいよ神界追放モノだがしょうがない。僕自身、神界では友達なんてほとんどいなかったんだ。
――今は目の前の友達を助ける。
ただそれだけ。
スペルの綴りが書けた。
紅蓮の炎が掌に集まり、大きな束となって唸る。
僕の眼が紅く光った。
「《フレイムランス》‼」
猛き炎の槍が咆哮を上げ、下っ端死神を貫く。
『キュウゥウゥウゥゥゥ――!』
断末魔の汚い悲鳴を響かせて。
デススライムは跡形もなく蒸発した。
お読みいただきありがとうございました!
「紫電くんは大丈夫かしら……」
そう思っていただけてありがとうございます。
これから頑張っていきますので、何卒よしなにお願い致します!