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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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お肉の解体

第百三節

「……そうか。楽しみにしておく。……さて! 火もいい感じに燃え上がってきたな。これからやることをよく観とけっ! せっかく数羽も狩ってきたんだ。お前ら全員にもやって貰うからな」


 ヨゼフは自分の過去の話しをしたことと、イレーネのはっきりとした想いを告げられた気恥ずかしさから逃げるように、そそくさと話題を切り替えた。


 火に目を向けると、たしかにいい感じに火は燃えたぎり、準備は万端だと主張しているようだった。


「いいか。炙るといってもじんわりと炙るだけでいいんだ。観てろ」


 ヨゼフは山鳩のお肉を手に取ると、火に近づけ過ぎない距離で、火の上にお肉をかざす。全体を炙るように、そこまで長い間は火に炙らないまま反対に裏返し、反対面も流れるような動作で炙る。


「よし、こんなもんだろ。……いい感じだな。ほら、これを観てみろ」


 僕達はヨゼフの周りに群がりながら、その手に持つ山鳩に注目した。よくよく目を凝らして観ると、山鳩の全体を覆う産毛は綺麗さっぱり無くなっていた。

 産毛を焼くことで山鳩のお肉の表面にはしっかりと皮が出ていた。この段階で焼くことで、作業もしやすくなり、意外にも伸び出ている産毛をちゃんと処理出来る。

 火で直接お肉を焼くという調理ならいいのかもしれないが、燻製や炒めるという調理では、産毛の処理は出来ない。今回は鍋で炒める。だからこの段階で行う。

 

「そっか。山鳩の産毛を炙ることで処理したんですね」


 ドーファンも炙る意図をすぐに理解したようで、凄く関心を示していた。子供特有の何にでも興味を持つ、少年本来の眼の輝きがそこにはあった。キラキラした眼が眩しいと感じるくらいに。


「この後は肉を部位ごとに切り分ける。まずは羽の付け根に刃を入れる。こんな感じでだ」


 近くに置いてあったテーブルにお肉を置くと、ヨゼフは解体の作業を始めた。


 短刀を羽と胴体の間、人間でいう肩の部分に刃を入れると、そのままお肉を綺麗に割いて、手羽先・手羽中・手羽元と一緒に胸肉も切り分ける。

 鳩胸というだけあって、とても胸肉の部分が発達している。手羽と胸肉もここでさらに切り分ける。手羽の部分は胸肉比べると大分小さくなるんだって、初めて見た時は印象的だった。


 そこからヨゼフはお肉を器用な手捌きで、次々にお肉を解体していった。首元に刃を入れ、首より下のお肉と切り分けた。ここのお肉がササミだ。


「おぉ! 見事ですねっ! こうやって見ると普段のお肉とおんなじですねっ!」


 ドーファンは実に興味深そうに、一つ一つの動作を眺めていた。こういうお肉の解体なんかを観るのは初めてなんだろうな。




 この段階で胸骨も一緒に取っていたので、下の内臓部分は剥き出しになっている。心臓(ハツ)肝臓(レバー)、砂肝、腸と分ける。


 ……あれ? なぜかヨゼフは、それらの部位を肉とは少し離したところに取り分けた。もしかして……


「ね、ねぇヨゼフ。そのお肉と分けた部位はどうするつもり?」

「あぁ、こっちは捨てる。血が多く入っている部位だからな」


 やっぱり! 僕はもったいないと衝動に駆られて、何とかして食べれそうなお肉を救いだそうと試みる。


「せっかくヨゼフがあんなに血抜きしてくれたんだもん。きっとほとんど血が抜けてるから大丈夫だよ」

「…………お前、ひょっとして食うのか?」


 ヨゼフが信じられないものを見る目で、僕のことを見てきた。いや、だってせっかくのお肉だ。食べられるものは食べたい。


「うん。だって食べられるものをちゃんと食べないと、その生命の命を戴いたのに、それは失礼なことだと思うから」


 僕は僕なりの考えをヨゼフにぶつける。ヨゼフにはヨゼフの考え、抱いている信仰がある。それを否定することはしない。ただ、僕なりの考えを知って欲しいと思って意見を言ってみた。


「……うーん。そこまで言うならわかった。ただし、俺は食わないからな。その部位はお前の好きなように調理していい。今のうちに切り分ける必要があるなら、やっていいぞ」

「ありがとう! ドーファン。ちょっと短刀を貸してくれない?」

「えっ? 別に構いませんが、何をするんですか?」


 何でも言ってみるもんだね。じゃあ、お言葉に甘えてやらせて頂こう。食べられるものは食べたいから僕も作業に参加する。実は前の世界で狩猟のことも勉強していた。


 キャンプ好きなこともあり、自然と狩猟のことにも興味を持ち、狩猟の資格も取ってみたりした。たまたま狩猟を生業としている方と知り合えたので、せっかくなら勉強したいと思った。

 資格マニアでもあったので、取れるものは取っておきたいという考えも、覚えることに拍車を掛けた。


 狩猟で鳥を捕獲することを鳥猟(ちょうりょう)と言って、日本ではそれぞれの鳥の種ごとに一日に鳥猟してよい数が決められていた。この世界ではそこんとこはどうなんだろう。

 勉強していて驚いたのは、日本で狩猟してよい鳥類の中にカラスがいて、カラスが三種類もいたことに驚いた。外国に行った時はシマウマ模様のカラスがいたことにも驚いたけど、街中で見かける鳥でも、こんなに知らないことがあるんだなって思ったものだ。



 

 先程の部位の中から、砂肝を手に取る。名前の通り、砂肝の中には砂がジャリジャリ入ってる。鳥類は歯を持っていないため、この砂肝の石を利用して食べ物をすり潰している。

 鳥類以外にもワニなどもこの部位を持っている。


 砂肝に切れ目を入れて、中に入っている砂袋を取り出す。この部位は食べられないので、腸と一緒に捨てるしかなさそうだ。

 

「………なんか手慣れた感じだな。カイは肉の解体も出来そうだな。そのまま他の部位もやってみろ。と言っても、ほとんどやることは少ないけどな」

「えっ! 僕がやるの!?」


 教師役はヨゼフのはずだ。何で僕が続きをやることになっているの?


「言ったろ。俺はお前ら全員に元々これの調理をさせるつもりだった。お前が本当に出来るかって確認の意味も込めてやらせるんだ。ほら、続きをやってみろ」


 クイッと指差した先のお肉は、残りは簡単に切り分けることが出来る部分だった。




 ………非常にやりづらい。急に注目されるようになったから、手元が狂いそうだ。昔から人前だと緊張しやすい性格だったからなおさらだ。

  帝国の学校にいた時は、両親に楽をさせてあげたい想いがあったから、周りの目を気にせずに自分自身の価値を高めることに専念することが出来た。

 さっきまでの切り分ける作業は、夢中で食べたいこともあって、周りの目を気にせず作業出来た。


 けど、今は違う。今はみんながあからさまに観ているという状況だ。友達ばかりで気の知れた仲間だけの場でも、やっぱり人の注目を浴びるのは苦手だ。



 

 困惑しながらも、視線をあまり気にしないようにしながら作業を始める。

 唯一の救いは、簡単に切り分けることが出来る部位だった。


 左手でお肉を抑えながら、もも肉の部位を慎重に切り始める。ここには“ぼんじり”の部位も含まれる。少し刃がこぼれていることもあって、ヨゼフのようにスゥッとは切れなかった。……うん、これは砥がないとダメだね。後でちゃんと砥いでおこう。

 刃が時折、お肉に引っ掛かる。無理をして強く入れすぎないように、ある程度加減をした力で、刃に力を入れながら割いていく。

 上手い具合に刃が入っていってくれた。後はこのまま最後まで、割いていくだけだ。


 ……よしっ! なんとか足の部分ともも肉、ぼんじりと切り分けることが出来た。ふぅ〜っと深い息を吐きながら、大仕事を終えたように一息吐いた。

 そこまで大したことはしてないけど、バシッと背中を誰かに叩かれた。




「やるじゃねぇか! ここまで出来るとは思わなかったぞっ! 子供だからどこまで出来るかって思っていたが……いや、お前にはそれは通用しなかったな。まぁ、ちゃんと山鳩も解体出来るってわかったんだ。これだけでも俺には充分な収穫だ」

「うぉぉぉ! カイ、すっげーな! 俺にもそれ教えてくれっ!」

「そうだな、ハイク。……それじゃあ、カイはドーファンに教えてやってくれ。俺はハイクとじゃじゃ馬娘に教えてやる。頼んだぞ」

「えっ! 僕も教える側なのっ!?」

「当たり前だ。分けて教えたほうが効率がいいだろ。それにお前はドーファンの短刀を借りているんだ。借りたものを返すのに教えるくらい安いもんだろ」

「う、うん。わかったよ」


 ヨゼフにここまで言われちゃしょうがない。ヨゼフの言い分も正論だったし、せっかく借りた物へのお返しが出来るなら、僕も気持ち的に楽だ。


「カイ、よろしくお願いしますね」

「うん、こちらこそよろしくねドーファン」

「先にカイとドーファンが炙る作業やっていいぞ。俺らはその後だ。ハイク、じゃじゃ馬娘、今からやる作業の注意点だがな……」


 ヨゼフにお先にどうぞを貰ったので、僕とドーファンは先にお肉を炙る作業に取り掛かる。僕は観てるだけなんだけどね。


「カ、カイ。このお肉を炙ればいいんですよね?」


 不安げなドーファンが頭ではわかっていながらも、わざわざ質問をして問いてきた。自分に出来るかなって考えているに違いない。


「そうだね。さっきヨゼフが持っていたように、足の部分を両手で持ちながら炙るとやりやすいと思うよ。最初は火に近づけ過ぎないようにして、産毛がチリチリと無くなることがわかるところまで、徐々に火に近づけていくんだ。そしたら片面を全体的に炙るんだよ」

「わ、わかりました。やってみます」


 ドーファンの手はプルプル震えながらも、少しずつ火にお肉を近づけていく。火の上にお肉が炙られる距離にまでくると、少しずつではあるが産毛がチリチリになっていく。

 そこからさらに火に近づけると、片面の一部の産毛が無くなっていることがわかる。


「ドーファン、いい感じだね! 次は片面全体を炙ってみて。その次は裏返して、もう片面の全体を炙るんだよ」

「うん! わかった!」


 自分でも上手く出来ている感覚があったのか、それとも何か別な理由で喜んでいるのか、ドーファンの言葉は砕けたものになっていた。

 僕はドーファンの作業を見守りながらも、あることに注目していた。………うん、やっぱり違うな。


「カイ! ボクなりに上手く全体を炙れたんだと思うんだけど、どうかな?」


 目の前に差し出されたお肉を観ると、たしかにいい感じに炙れていて産毛も無くなっていた。


「うん、いいと思うよっ! 早速、切り分けてみよっか。そっちのテーブルに置いてみて」


 僕達はヨゼフ達とは少し距離の離れたテーブルに移動した。ヨゼフに教えて貰っていたテーブルで作業するには、後から一緒に作業するであろうハイクやイレーネも含めると、ちょっと手狭だったからだ。

 テーブルにドンッと置かれたお肉。まな板なんかもちろんない。うーん。旅の道中で簡易的なテーブル、まな板もあると、作業が(はかど)ると思うんだけどなー。


 新たに欲しい物が次々と思い浮かんでくるが、それよりも今はドーファンに教えなきゃいけない。そして今はドーファンと二人っきりだ。

 ずっと言いたかったことがあった。せっかくヨゼフが二人にしてくれたんだ。言ってしまおう。


「カイ。さっきのヨゼフさんみたいに羽と胴体の間から刃を入れればいいんだよね」

「そうだね。もし、わからなければ僕に聞いてみて。ドーファンは頭が良さそうだから、あの作業を観ていればなんとなくやり方はわかったでしょ? 僕も観てて間違っているなって時は指摘するから」

「わかった! 任せてよっ! いやぁ〜、こんなに手を動かせるって楽しいことなんだね! 本当に、本当に楽しいよっ!!」


 ドーファンは手を動かすことが本当に楽しいらしい。僕は未だにその手に注目しながら、ドーファンに伝えたかったことを言う。


「ドーファン、作業しながらでいいから聞いて欲しいんだ」

「うん、いいよ。なんでも言って! 今は本当に嬉しいし楽しいから、どんなことも聞いてあげちゃうよっ!!」

「そっか。それなら良かった」






「ありがとうね。僕達が帝国の人間ってわかっていながら、優しく接してくれて」






 途端、ピタッと動きを止める。ドーファンの楽しいひと時を止めるような言葉だったらしい。でも、これまでのことを考えると、そんなことを理解しながらも接してくれていた。恐らく、あれも観ていたことも、彼の最初の出逢いの時の態度を裏付けている。


「……気付いていたんですか?」

「当たり前だよ。だってドーファンは共通語で話していたのに、僕達が帝国から逃亡してきたのを理解して、帝国語ですぐに話してくれたでしょ。今だってそうじゃないか」


 ドーファンはいつもの敬語口調になりながら、そのわざわざ動きを止めた反応とは相反する冷静な対応で質問をしてきた。

 まだ、核心をついた質問はしてないんだけどね。




「………それに、ドーファンは隠していたようだけど、僕はわかっていたよ。最初の出逢いの時、その後の焚き火場に行った時、ドーファンの態度はあからさまに変わった」




「ドーファンは観ていたんだね。僕達があの川を渡河してくる場面を、あの兵士に殺されそうになった時を、そして、僕の父さんが亡くなった瞬間を」




 ヨゼフがハツ、レバー、砂肝を食べない場面なのですが、当時のことを調べてみても、この部位を食べていたかがわかりませんでした。


 血を多く含んでいるところは食べなかったのではないかと考えての描写です。砂肝は食べているかわからなかったので、食べる記述を書きませんでした。


 後日また調べますが、何かわかったら変更するかもしれません。

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