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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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尊敬する理由

第百一節

 猛烈な寂しさに襲われて、つい言葉にしてしまった。


 でも、後悔はしていない。これは僕にとって、いや、今の僕達には本当に必要なことだと思ったからだ。


 ………素直になろう。僕が欲してやまなかったからだ。




「えっ?」


 思いがけない言葉だったのかハイクは疑問符を語尾に据えていた。


 僕はまだ、二人にきちんと言えていない言葉があった。早く二人に一緒にいる時に伝えたいと思っていた。

 身の周りが安全とわかったなら、今日の夜にでも伝えたいと思った。


「その、僕達って村を飛び出してから(ろく)に三人だけで話す機会がなかったでしょ? 昨日の夕方に村を出て、昨日の夜にヨゼフとドーファンと出会って、今日の朝に魔物達と戦ってあの森を駆け抜けて、ようやく安心出来る場所でゆっくり出来るんだ。せっかくゆっくり出来るなら、ハイクとイレーネと話したいなって……」


 僕にとっての家族だと想っているから、と…またしても言えなかった。平常時に言うには恥ずかしかった。あの死の危険が迫った時のように、気持ちが昂ぶった時には言えるかもしれない。


 僕は率直な気持ちを打ち明けるのは、どうにも昔から苦手だ。


「……そうだな。俺もカイとイレーネとはゆっくり話せたらいいな! 後でみんなにお願いしようぜ! 今日の夜が楽しみになってきたな!」


 辛気くさい雰囲気を振り払うように、ハイクは明るい顔で僕の案に賛成してくれた。良かった。反対されたら流石に気持ちがズンッと下降していったけど、ハイクも賛成してくれたことで、気持ちが上向きな思考に僕自身も変化していた。


 今から頑張れば、話し合っているベストなタイミングで、もしかすると作りたいものも作り終えることが出来るかもしれない。

 よしっ! そうと決まれば、お昼の待ち時間の間から作っておこう! さっき炉が置いてあった場所に砥石も置いてあったし、厩舎の近くに井戸もあった。

 黒雲達への頑張った御礼に水も汲んで、浴びるほど飲ませてあげたい。干草も沢山食べさせてあげたいなぁ。


 やりたいことが次から次へと湧いてきた。


「うん! 楽しみだね! じゃあ、薪を拾ってあの焚き火の場所に行こう! ヨゼフ達より先に着いて、待っておこうよ! きっとヨゼフもハイクのこと見直すよ?」

「本当かっ!? 早く持って行こう!」




 ハイクは急いで薪を拾い始める。ヨゼフに認められるのがハイクの目標のように、その言葉は効果テキメンだった。ここで僕は、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。


「ねぇ、ハイク。何でハイクはヨゼフをそんなに尊敬しているの?」


 ピタッとハイクは作業していた手を止めた。僕の顔を覗き込みながら、今さら何を言っているんだという表情で質問に答えた。


「ん? 何を言っているんだ、カイは? そんなの当たり前じゃないか。ヨゼフ師匠ほどの人なんていないのはカイにもわかるだろう?」

「うん。ヨゼフ程の人はそうはいないことは同意するよ。僕が疑問に感じているのは、何でハイクがあの時、あれ以降ヨゼフを師匠と仰いでいるかわからないんだ」

「あの時って? ……あぁ! カイとイレーネが喧嘩した時か!」

「してないよっ!? いや、したのかな……。ううん、やっぱりしてないっ! あの時はイレーネが一方的に怒ってたからね」


 そう。あの時とはイレーネが僕のことへの疑心暗鬼がもう我慢出来なくなって、僕を問い詰めた時だ。

 結局、僕は何も言い返せないままイレーネの言葉を全て聞くだけだった、あの時。


 僕とイレーネが森の中に再び入って行った時、ヨゼフとハイクは二人だけだった。ずっと気になってたけど、なかなか聞けずにいた。


「あっはっはっはっはっは!! やっぱ喧嘩してるじゃんかっ! まぁ、お前らはいつでもそんな感じだったけどなぁ……。まるで兄妹喧嘩してるみたいで、俺からしたら観てて楽しいけどよ」

「何がだよぉっ!? 徹底的に一方的に言い負かされて怒られているのは僕じゃないか! 喧嘩にすらなってないよ! もし、喧嘩と言うなら姉弟喧嘩だよ!」

「そうか? 俺としてはやんちゃな………いや、寂しがり屋な妹の言葉を受け止めてやってる、兄のように思うけどな。もちろん俺が一番上の兄貴ってところだな!」

「えっ? ハイクが一番上なの? それは何というか…その……逆じゃない? ハイクが一番下の弟っていう感じが……」

「はっ!? 俺が一番下!? どうしてだよ!」

「普段の言動が僕やイレーネよりも下に見えるからだよ。それにほら、ハイクは僕によく質問してくるし、冷静で物知りな僕の方がお兄ちゃんって感じが……」

「うるせぇっ! 俺の方が強いし、お前らよりしっかりしてるから俺の方が兄貴って感じだろ?」

「……ふふふ。そういうことにしておいてあげるよ」

「あぁ! そういうことにしとけ!」


 はぁ、全く。これじゃどっちが兄と弟かよくわからないよ。人の質問の内容も忘れておいて、しっかりしてると自信を持って言えるのかな。

 では、ここは改めましてしっかり者の弟から、貴重な御言葉を御贈りして上げましょう。


「ねぇ、ハイク。僕のさっきの質問を覚えている。しっかり者のハイクなら覚えているよね。ハイクは何でヨゼフをあんなに尊敬してるのって質問を」

「えっ!? も、もちろん覚えていたぞ! ほら、カイとイレーネの喧嘩の時のことだろ。それでカイとイレーネが兄妹みたいって言った流れだったよな!? 話しを脱線して忘れてた訳じゃないぞっ!」

「……ったく、自分が一番上だって言いながら、しっかりと忘れていたじゃないか。覚えてたら“えっ!?” なんてびっくりしないし、言葉もつっかえたりしないよ」

「うっ!」

「はぁ〜、まぁいいや。ところで本当にどうしてなの? 最初はあんなに邪険に扱って警戒していたのに、僕としてはよっぽどのことがない限り、どうもハイクがあそこまで態度を変えるのが腑に落ちなくて……」


 僕との接し方と、ハイクとイレーネへの接し方の差に不満たらたらなはずだったが、少しの間にハイクはヨゼフを師匠呼びに変わっていた。

 何か強烈なインパクトのある出来事がなきゃ、そこまでの変化をもたらすことは()()うないはずだ。


「いやぁ〜、俺さ。どうにも我慢ならなくて、ヨゼフ師匠に向かって調子に乗って槍を突き出したんだよね」

「はぁ!? どういうことっ!? 何をしてんのハイク!」

「だってよ。あんなに馬鹿にされた態度とってきて、俺としちゃあ我慢ならなかったんだ。俺に対してはまだいいけどよ。イレーネが可哀想だと思ってさ」




 そうだった……。ハイクはかなり仲間想いだ。それは昔から変わらない。僕が周りのみんなから疎まれていた時も、ハイクは僕を庇い続けてくれた。

 あの森でドーファンがジャイアント・グリズリーに襲われた時も、自分の身を挺してドーファンを庇ってくれた。ハイクが守ってくれなければ、ドーファンが死んでいただろう。


 イレーネが自分と同じように認められていない状況で、僕との扱いに差をつけれている状況が我慢出来なかった。

 ハイクにとっては曲げられない正義。それがたとえ自分よりも遥かに強い大人の戦士であっても、ハイクは仲間のために、僕達の知らないところで立ち向かっていた。


「………やっぱり、ハイクはハイクだね」

「ん? どういう意味だ?」

「その仲間想いなところだよ。僕には真似出来ない。絶対に敵わないとわかっている人に立ち向かうなんて無理だよ……。で、結果はどうだったの?」

「もちろん一瞬でけりがついたさ。俺の渾身の槍の一振りは弾き飛ばされて、槍を失った俺の喉元に、ヨゼフ師匠の槍が突きつけられた」


 ハイクは目を閉じて、その時の情景を想い出しているようで、再び目を開けるとその時の出来事を詳しく語ってくれた。


「俺の喉元に槍を突きつけたまま、ヨゼフ師匠はこう言ったんだ。“お前のその槍の意味は何だ”って」

「俺はさっきカイに言ったように、“俺に対して馬鹿にした態度を取るのは構わない、だけどイレーネに対してあんな態度を取るのは許さない!”って」

「そしたらヨゼフ師匠が“……そうか。仲間のために槍を振るったのか”って言うと、槍を降ろして俺の目を見ながらこう言うんだ」

「“お前のその一本の槍を大切にしろ。誰かのために振るう槍ってのは、あの飛んでいった槍のように、どっかに簡単に飛んでいくようなもんじゃない。決して折れない槍だ。時にはそれは、目の前の強大な軍勢にたった一人で立ち向かえる程の強靭な槍だ”」

「俺は最初、この言葉の意味がわからなかった。何を言っているんだ? だって槍が飛んでいって手元に槍がないのに、それにも関わらず俺がまだ槍を持っているように話してくるんだ。だから俺は聞いてみた」

「手元に槍も武器もないのに、どうやって敵に立ち向かえるんだっ!? 馬鹿じゃねぇのか! ってな」

「そしたらヨゼフ師匠は笑いながらこう言うんだ。“わっはっはっはっはっは! たしかに武器もない状態で立ち向かえば馬鹿だと笑われちまうな! ……でもな、そんな奴は笑わしとけばいい。手元に武器がなくたって、誰しも必ず一本の槍、あるいは剣を持っているんだ。それを持って立ち向かえ。後ろにいる誰かを守るためにな。その槍は決して折れないようにしておけ“」

「…………俺はここまで言われてようやくわかった。俺自身が、槍なんだって。ヨゼフ師匠は俺の行いを咎める訳でもなく、かえってそれを大切にしろって言ってくれてたんだ。……あぁ、この人なら信頼出来るって思えた。自分を殺そうとした奴に、武器ではなく想いに訴えかけてくる。この人に付いて行きたいって。この人は腕っ節がただ単に強いだけじゃない。本当に強い槍を、この人は大事に手放すことなく持ってるんだって……気付けたから」

「………そうだったんだ。さすがヨゼフだね」


 武を持って制するだけじゃなく、想いを奮い立たせるなんて……ね。これは並大抵の人には出来ない。それも自分に刃を向けた相手にだ。

 多分ヨゼフは、自身の主人の想いをしっかり受け継いでいるんだろうな。あの勇敢な王もそうだった。


「その後は俺がヨゼフ師匠に、弟子にさせて下さいっ! って頼み込んだんだ。最初はいきなり俺が態度を変えたから”なんだコイツっ! 気持ち悪っ!“ って相手にしてくんなかったけどな」

「だから俺は途中から話題を変えて聞いたんだ。世界にはヨゼフ師匠ぐらいに強い奴はいるんですかって聞いた。ヨゼフ師匠以上に強い奴なんていないと思ったから、後はそれを(おだ)てれば弟子にしてくれんだろって考えたんだ」

「い、意外にハイクも悪どい策を考えられるんだね…」

「悪どい? まぁいっか。そんでな、聞いてみたら衝撃的だった! ヨゼフ師匠が強いと認める奴は沢山いたんだっ! 世界はもっと広いって知れた! 北の地で帝国と戦い続ける”鉄の石壁“を要する北の国。とんでもなく強い将軍がいるっていう島国。それから俺達の両親を奪った帝国を倒そうとしている、”赤“の人と“黄”の人の話しは聞いていて興奮した! 俺も会ってみたくなったんだっ!!」




 ………………何その話し詳しくっ!!




「ねぇねぇ! ハイクっ!! その話し詳しく聞かせてよ!」

「ん? どの話しだ?」

「どの話しがいいかな。”鉄の石壁“が何かも気になるし、島国の将軍も気になるし、赤と黄の人ってのも気になる! ……う〜〜〜ん、選べないっ!! ハイクのお勧めの話しはどれっ!?」

「お、落ち着け! カイ! また興味あることだけに頭がそれだけになっちまってるぞ! ……お勧めかぁ。どれも面白かったけどなぁ。……あっ!」


 何か大事なことを思い出したようだ。話しに関連した話題を思い浮かべているような。


「そういえばヨゼフ師匠が言ってたんだ。”この先の旅で赤の奴の同胞がいる。ちょっとなら話しを聞けるんじゃないか“って」

「えっ!? それ本当!? かなり重要な情報じゃないか!」


 思ってもみない情報だった。楽しみだなぁ〜。どんな人物なんだろう。ヨゼフが認めるってことは、腕っ節の強さ? 軍を率いる能力? 人柄やその人物の思想かな? まだわからないことだらけだけど、楽しみが増えた。

 でも、気になる言葉もあった。


「……ねぇ、ハイク。いま”同胞“って言葉を使ったけど、それってどういう意味?」

「うん? あぁ、詳しくは俺もわかんないけど、どうにも”赤“の人って呼ばれてる人は、人とは違うらしいんだ」

「え? 人って呼ばれているのに人じゃないってどういうこと?」

「うーん、ヨゼフ師匠何て言ってたっけ? ”種族“? とか、よくわかんない言葉使ってたな。……よくわかんねぇな」

「種族か……。ありがとう、ハイク。なんとなくわかった気がするよ」

「お前、いまのでわかったのかっ!? やっぱ凄ぇな、カイは。俺はもう一回説明されてもわかんねぇからいいや。実際に見ればわかんだろ?」

「そうだね。僕も早く逢ってみたくなったよ」


 種族という言葉からの予想だけど、恐らく”人“以外にも幾つか種族があり、その中でも人型の種族があるってことじゃないだろうか。

 森人(エルフ)はファンタジー世界で必ずと言ってもいいくらいに出てくる種族だし、色んな種族がこの世界にもいてもおかしくないと思う。なにしろ魔物が出てくるくらいだ。


 くぅ〜〜楽しくなってきたっ! 逢ってみたい人物が増えるだけではなく、ファンタジー世界の醍醐味である人以外の種族にも逢えるって聞いたら、興奮せずにはいられない! 

 あぁ、どんな種族がいるのかなぁ? あの話しは本当なのかな? あの逸話はこの世界でも通用するのかな? 楽しみが止まらないよっ! 


「カイ、そろそろ行かないと。ヨゼフ師匠達を待たせちまうぞ」


 あっ、そうだった。早く行ってドーファンから短剣も借りないと、完成に間に合わなくなっちゃう。

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