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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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迫り来る魔物

 僕達は再び黒雲達に乗り直し、森の中を歩き始める。

 アルミラージとの出逢いは僕達を変えた。


 本気で命のやりとりを魔物としなければいけないと再認識し、これからも現れる魔物との戦いに覚悟を決めた。


「おい、お前ら。魔物は他にも色んな奴がいる。さっきみたいな弱い奴じゃなくて、もっと凶暴で強い奴もいる。それが現れたら俺が合図する。そしたら後ろに逃げろ。俺だけで対峙するからお前らの手出しは無用だ。後ろに逃げたら周囲の警戒を忘れずにな」


「そうですね。それがいいと思います。多分、子供であるボク達は、あのアルミラージに全員で挑んでようやくです。ヨゼフさんが言うほどの脅威となる魔物が出現したら、ボク達では援護にもなりません。ハイク、わかりましたね?」


「ぐっ! 師匠の隣で戦う機会なのにな……」


「馬鹿。ハイクじゃヨゼフの隣で戦うなんてまだまだよ。言われた通りに行動しましょう」


「そうだぞ、ハイク。英雄と蛮勇は紙一重だ。そこは履き違えるな」


「わ、わかりました。言われた通りにします」


 そんな会話をしながらも、どんどんと前に進んで行った。

 道中で何度かアルミラージに襲われたけど、全てヨゼフ一人が槍の波動を駆使しながら倒していった。

 だけど、一向に森の出口は見えてこない。

 ますます森の茂みは深まっていくばかりだ。

 …あとどのくらいの距離があるのだろう。


「ヨゼフ。あとどのくらいで森を抜けられるのかな?」


「そこまで距離はないはずだ。ただ、問題はここからだ」


「どういう事?」


「さらに森は深くなる。ここからはさっき言ってた危険な魔物がいるんだ。俺も一度だけ対峙した。俺には危険じゃないが、お前らにとってはさらに危険な魔物が増える。俺の注意事項は忘れてないよな? 俺の合図があったらすぐに離れろよ」


「うん、わかった。すぐに後ろに逃げたら周囲の警戒をするよ」


「それでいい」


 その一歩は大きかった。

 今まで踏み歩いていた森よりも、魔物の瘴気が濃くなったのがすぐに感じられた。


「うっ! 何これ!? これが魔物の瘴気なの…凄く気持ち悪いわ……」


「…うげぇ。俺、この臭いダメだ。これでもかってくらい魔物がいることがわかっちまうな」


 僕達はあまりの臭いに耐えきれず鼻を摘んでしまう。

 ヨゼフだけは何ともないように、平然と前を見据えながら進んで行く。

 瘴気が濃くなったせいか、目の前を紫色の霧のようなものが漂い視界を悪くさせている。

 …一歩、また一歩。

 踏み出せば踏み出すほど濃くなっていき、臭いも酷さを増すばかりだった。


「えぇ、ボクもこんな強い瘴気は初めてです」


「あれ? ドーファンはこの森も通ったんじゃないの?」


「いえ、ボクは違うとこからこの森に入りました。ただ、そこから入るとずーっと森の中を彷徨うようになってしまうので、あまりお勧め出来ませんね。それに、今回はヨゼフさんがいるから、ここを抜けて行くのは正解ですよ」


「ふーん、そうなのね。でも、こんな酷い瘴気を出す魔物もいるのに何でギルドってとこは、放っておいているのかしら?」


「じゃじゃ馬娘。ギルドも忙しいんだ。こんなとこまで人を派遣するのは、よっぽどのことじゃないと無理だ」


「何よ。でもヨゼフはここまで派遣されてるじゃない」


「あぁ、だからだ。お前らが()()()()()()()()()()だ。だから、もっとその命を大切にしてくれ。ドーファンが言っていたようにな」


「……わかったわ」


「まぁ、帰ったら一応あいつには上申しておくがな。何とか対応しろって。だから、心配するな。魔物を討伐して多くの人に平和をもたらすのが俺らの仕事だ。他の奴も自分と同じ目に遭うんじゃないかって考えての発言だと思うが、安心しろ。こういう森でも、いつかは穏やかな小鳥のさえずりが聴こえるように、俺が頑張るからよ」


「…っ!?」


 イレーネは自分の考えが見透かされたことに驚いて、目を見開いてヨゼフの方を見た。

 しかし、ヨゼフは必死に前方を警戒しているだけだった。


「わっはっはっはっはっは! 何も言い返さねぇとは図星だったか。その想い…いい想いだな。大切にしな。その想いは次の時代にこそ相応しい」


 こちらの方には振り向かずにヨゼフは語った。


「ヨゼフ師匠。次の時代って何ですか?」


「俺のような存在が必要とされない時代のことだ。魔物もいない、争いがない、そんな平和な時代が……」


「それって本当に来るんでしょうか? ボクにはこの世界でそれが実現出来るとは思えません」


「さぁな。だがな…これだけは言える。それを願わなくなったら…その時は人の時代が終わりを迎えるべき時だ、と」


「……………」


 みんな黙り込んでしまった。

 本当にそんな時代が実現可能なのだろうか。

 言われた言葉の意味を噛みしめようとして考えて込む。

 …ヨゼフの視点では何が視えているんだろう? 

 この時代の先を実現させる何か方法でもあるのだろうか……。


「…ッ!! お喋りはここまでだッ!! 前方から微かだが音が聞こえる。全員その場で待機! 俺の合図があるまではその場にいろ! 周囲の警戒は怠るなッ!!」


 ヨゼフの緊張感が詰まった声により、その場の空気が一変する。

 みんなの表情が固まり、目と握っている武器に過度な力が入る。


 その音は本当に遠くから聞こえてきた。

 最初は“トットットット”と軽い足取りのようだったが、その音が近づくにつれて、“ドンッドンッドンッドン!!”という轟音に音色が重くなった。

 次第にその音の正体が、地面を踏みつける度に重い音を周囲に響かせる程の巨体の持ち主である事を周知させる。

 …そして、それは複数の音を発しているような気がした。


「おい! 今すぐに後ろに逃げろ! この視界の悪さじゃ、お前らにも俺の槍が当たるかもしれねぇ!  それに多分、こいつらはお前らには危険な奴だ! 行けッ!!」


 ヨゼフの指示に即座に従う。

 僕達は急いで来た道を走るように、アルとアイリーンに指示を出した。


「アイリーン! 今すぐ来た道を引き返して! 走ってッ!」


 今まで僕達は森の中だったことも相まって、走る指示は出さなかった。

 けど、今はそんな悠長なことは言っていられない。

 …急いでこの場から離れなきゃ! 


「イレーネ! さっきの瘴気が濃くなる前の場所まで戻ろう! そこまで戻ればひとまずは安心だと思うッ!」


「わかったわッ!」


 イレーネの握る手綱にも力が籠もる。

 その時、後ろから大きな魔物の咆哮が(とどろ)き、その魔物の吐いた声に乗った周囲の空気が、僕達の後ろから辺りを覆う瘴気と共に吹き上げてきた。


「…ッ!! どれだけの魔物とヨゼフは対峙しているのですかッ!? ただの咆哮でここまで瘴気が迫り来るなんてッ!!」


 ドーファンがヨゼフを気遣うように後ろを振り向いた。だが、その判断が間違っていたのかもしれない。




 ……その時は、突然訪れた。




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