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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ヨゼフへのお願い

 全てがその人物を連想させている訳ではない。

 似たような策謀で、歴史に名を刻んだ人物を知っているだけだ。


 …もしその人物なら国に失望しているのも無理もない。

 むしろ僕でもそうなるだろう。そうならざるを得ないほどの痛みと悲しみを知ってしまった人。

 だからこの世界で、新たなやり方を自分で切り拓いたのかもしれないと勘繰ってみたくなる。

 

 単なる僕の妄想に過ぎないけど、ギルド長に会ってみたくなった。

 もし、あの()()()()()()なら、あの肖像画のような顔をしているのだろうか。




「ねぇ、ヨゼフ。ギルド長の顔ってこんな顔の人?」


 僕はヨゼフに質問をしながら、自分の両手の人差し指を、自分の鼻の下と上唇の上に、八の字を少し跳ね上がらせるように添えてみた。


「…ッ!? お前、何であいつの顔を知っているんだッ!? まだ話したこともない相手の顔だぞッ! ひょっとして本当に預言者じゃないのかッ!?」


 ヨゼフは心底驚いたようで、腹の底から驚愕の声を上げた。


「シッー! みんな起きちゃうよ! 声を小さくしてっ!」


 ヨゼフは片手の手で自分の口を覆い、しまった…とその表情は物語っていた。

 三人の寝ている方に目を向けると、顔は見えないが三人ともすやすや寝ているようだ。

 …良かった。


「……驚いた。どうしてあいつの顔がわかったんだ」


「い、いやぁ。なんとなくというか、こんな顔でもしてそうな神経質な感じの人なのかなって、話しを聞いて想像してみたんだ。あはははは……」


「……………」


 愛想笑いを顔に貼り付け、乾いた笑い声が喉を伝う。


 うぅ…ちょっと調子に乗って聞いちゃいけないことを聞いて、ヨゼフの警戒心を上げてしまった。

 僕の悪い癖だ。師匠にも注意されたけど、好奇心で自分を滅ぼさないようにしなきゃ。


 だけど、もしかすると本当にあの偉大な指揮官の可能性が高まったっ! 

 会ってみたい。あの予想外の結末を迎えた──との戦いについて色々と聞いてみたいなぁ。

 やっぱりこの世界は僕以外にも多くの転生者がいるのではないだろうか。

 …ヨゼフもかなり怪しいと睨んでいるけど。


 僕は話題を変えるようと色々と探りを入れられる前に、この二人きりの状況でヨゼフに伝えておかなきゃいけない事を口にした。


「…あ、あのヨゼフ。今のうちにヨゼフにお願いしたいことがあるんだっ!」


「……なんだ?」


「出来たらでいいんだけど…これからの旅路の中で、僕がみんなとそれぞれ話し合える機会を持てるように協力して欲しいんだ。みんなの事をよく知るためにも、みんながどんな事を考えながらこの旅を歩んでいるのかを知りたい。せっかく王都まで一緒に旅をするんだ。ならその道中を楽しむためにも、みんなとの絆を強めたいんだ」


「……わかった。協力しよう。あと俺からも頼みがある」


「ヨゼフも僕に何かお願いがあるの?」


 意外な返答だった。ヨゼフが僕に何かを頼むのは想像もしていないことだった。


「ドーファンをよく注意しながら観ていて欲しい。あいつが俺達に言えない事が何かっていうのがどうも気になる。カイは歳が近いから色んなことを聞きやすいだろう? 世間話のついでに聞いておいてくれねぇか?」


 ヨゼフの懸念は最もな事だった。

 ドーファンを信頼しているとはいえ、まだまだ不可解なことは多い。

 ……僕が気になっているのはあの文字。何も意味がないとは思えない。

 もうちょっと文字についてはドーファンに聞いてみたいな。


「わかったよ。ドーファンを注意しながら観ておくよ。もう一つお願いがあるんだ」


「まだあんのか。一体なんだってんだ?」


「イレーネのことを、とりわけ気遣ってあげて欲しいんだ。僕達の中で、一番心に傷を負っているのがイレーネだから。その責任のほとんどは僕にあるんだけどね………。あと魔物とかが現れたら、出来ればイレーネには戦いに加わらせないで欲しい。本当なら武器も持たせたくないくらいなんだけどね」


「…悪いが武器は常に携帯しながら動いて貰うぞ。そのくらいはお前にもわかるだろ? 何かあってからじゃ遅いんだ。自衛の手段は全員が持ってなきゃならねぇ。それは変えられない事だ。最前線には出さない。後方支援をして貰う。これが最大限の譲歩だ。これ以上は無理だぞ」


 無茶を言っているのはわかっていた。

 最前線で戦わせないって事を言って貰えただけで、僕はホッとした。

 こっちに逃げてくる時も本当は武器を持たせたくはなかった。

 危険が付き纏っていたから武器を持って貰った。

 本人も武器を持つことをよしとしていた。でも、本当は……


「うん、それだけの配慮をして貰えれば十分だよ。ありがとう」


「許せ。本当なら俺も…じゃじゃ馬娘には武器じゃなくて花を持たせてやりてぇぐらいだ。だがな、お前達のこれからの人生は常に武器を持って歩む事になる。なら、今のうちから慣れておかなきゃいけない。幸いな事に、お前とドーファンは魔法を教える事が出来るし、俺が武器の扱いを教えれる。この状況を生かさない手はない」


 ヨゼフはジュッと拳を握り締める。


 どんなに辛い状況でも、時間と周りの状況は人の感情を待ってくれる訳ではない。

 それらはただ前に進むだけで、感情というのを置き去りにしながら、ただただ時計の針を進ませるだけだ。


 辛い道を歩ませたくはないが、ヨゼフとしてはそれが最善のやり方である事を知っているからこそ、心を鬼にして、僕達に…そしてイレーネに対しても武器を手に携えるように求める。


「そうだね。僕もイレーネやハイクに魔法を覚えて貰えるように、精一杯頑張るよ」


「あぁ、期待している。………そろそろ陽が昇ってきたな。俺は木に吊るしてある山鳩を軽く洗ってくる。…なぁに、心配するな。すぐに戻る。その間にこいつらを起こしておいてくれ。朝食はそこの袋に入っているパンを食べておくんだ。頼んだぞ」


 ヨゼフは立ち上がった。

 水の入っていた皮袋と血抜きをした山鳩を手に持ちながら、川の方に向けて森の中を歩いていく。

 すぐに姿は見えなくなった。

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