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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ギルド長と副ギルド長

「あぁ、ギルド長の子飼いとも言える奴だ。基本的にギルドの表向きの顔は副ギルド長だ。裏の顔がギルド長の役目だな」


「普通って逆じゃないの?」


 いやいや、何そのギルド。何か違くない。

 イメージ的な話しになるけど、ギルド長がドンッと構えて、“俺がこのギルドのボスの──だ! よろしくな子供(ガキ)ども! ” みたいなノリをしてくれる、いかにもな強面キャラが待ち構えているもんだと思ってた。

 前世の知識の影響がこびりついているせいか、もしくは勝手な僕の妄想が押し付けたイメージなのだろうか…。


「普通って逆なのか? 俺はこれが普通だと思ってたぞ。ちなみに副ギルド長の名前も誰も知らない。ギルドの偉い奴は名前を隠すのも普通じゃねーのか?」


 絶対に普通じゃないよっ! 何で名前を隠す必要があるのっ!? 

 明らかに普通のギルドとは違う気がする。

 よくそんなギルドにヨゼフも所属しているもんだ。


「うーん、多分普通は名前を隠さないと思うよ。何か訳ありとかじゃないと、名前を明かさないって変だと思う。よくギルドに所属している人達は、そんな管理下の組織に加わろうと思ったね。僕は信用出来ないよ」


 そう。これは信用問題に関わることだ。名前を知らない人の元で働こうとは思わないはずだ。

 よくある話しの展開だと、“うちのボスの名前を知っちゃいけねぇ。知ろうものなら命がないと思え”というテンプレと同義だ。

 訳ありが訳ありの組織にどうしても属さないといけない状況。

 そうでもないと、こんな状況には陥るはずがない。

 

 名前があっての信用と信頼もあるはずだ。…名前の重みは決して軽いものではない。


「まぁな。カイの言いたい事もわかる。素性の知れねぇような奴に、普通は従おうとは思わないって事だろ。でもな、それを踏まえて多くの奴はギルドに加入しているって事実を考えろ。お前も思ったんじゃねぇか。俺の上司がお前を場合によっては殺すように指示したってのを聞いて…頭のいい奴だと」


 その通りだ。

 僕はヨゼフの上司であるギルド長を、政治的な立ち回りも理解出来る人物だと判断した。

 

「つまりはそういう事だ。奴は、いや奴らは自身の名を明かすことなく、それだけの偉業を成し遂げた。ギルドを創設するという偉業を」


「…ッ! その人達がギルドを(つく)ったのッ!?」


「あぁ。奴らはギルドを創ることで多くの者の命を救い、多くの者の生活を向上させた。国にも恩恵をもたらす仕組みを創った。まぁ、創ったのはギルド長だけどな。そして、その創る際の荒事を担当していたのが副ギルド長だ」


「荒事……あぁ、それまで魔物を狩って生活していた人とかってこと?」


 魔物を狩ることで生活となると、狩人とかそんな感じの人達でもいるのかな? 

 そういう人達からすれば、いきなり魔物を狩るのをギルドが名乗り出てきたらたまったもんじゃない。

 どういう解決策を準備したんだろう。


「やっぱりお前も、あいつと同じように先を考えられるんだな。そうだ。今まで魔物を狩っていたならず者達はもちろん、魔物を狩って民を守っていた国からも反発が挙がった。魔物の素材や肉は金になる。素材を元にいい武器や装備が造れる」

「そこであいつは考えた。そういう奴らを雇えないかって。でもな、ならず者は魔物を狩ることは出来るが、自分よりも強い奴じゃなきゃ言うことなんて聞きやしねぇ。その時に活躍したのが副ギルド長だ。副ギルド長は刃向かって来るならず者を、ことごとく倒した。殺しちゃいねぇぞ。そんな事してたら本当に信用がなくなっちまうからな」

「それで国中のならず者達も認めた。“こいつらなら俺らの上に立ってもいい”、と。そこからはあいつの考えたギルドの組織が回り始めた。あいつは国に交渉してギルド税を施行させて、その代わりにギルドは魔物討伐を行い、治安維持にも貢献する方法を提案した。あいつの言葉が上手いのは、ギルド税でありながら、それを“治安維持税”と言い換えて、国に施行させているんだ」

「直接ギルドが民から税を貰うんじゃなく、国を通すことで、民からの不満をそらしつつ、治安維持ならしょうがないと思わせる。言わば印象操作だ。もちろん、国にも税の一部を納めることで国の利益にも貢献し、国からの反発はなくなった。この国で成功したあいつは、各国に交渉してギルド支部を設置し、多くのならず者を自身のギルドに所属させ、そいつらが悪さをする機会を減らし、そいつらにも定期的な仕事の供給を与えた」

「ならず者は多くの者が地域密着型だ。流浪の身のならず者なんてほとんどいない。その地域で魔物が減れば悪さに走る…山賊や盗賊になったりな。だからあいつは、魔物に関する情報や民が困っていることに関する情報、それらを国中から集めることで、ならず者だった奴らが仕事に困ることがないようにした」

「村や街で魔物の被害が減らし、食糧の収穫と国への納税の安定を確保し、魔物の素材を利用して、魔物の解体屋や、素材の加工職人、加工した商品を売る商人、と多くの者たちに職を与えた。今ではギルドの恩恵に多くの者が預かっている。ギルドという組織が無ければ国や人々の暮らしが成り立たない基盤を築いた、ギルド長であるあいつは頭が良いぞ。だから裏の顔はギルド長で、そして多くのならず者を武を持って制した副ギルド長が、表の顔って呼ばれているんだ」

「まぁ、この話しは全部、副ギルド長にぶん殴られた元ならず者で、現在冒険者をやってるガタイのいい剣士が教えてくれた。これが表の顔と裏の顔の意味だ。そして、あいつらが名前を明かさなくても、多くの者があいつらを認めている理由だ。わかったか?」


 …狩人じゃなくてならず者だったよ。

 どこの国、どこの世界でもそういう人達はいるんだね。

 人間がそう簡単にはどこでも変わらないって知れて、ある意味ほっとした。


 日本でも野盗や野武士もいた。

 中国でも人気な創作の水滸伝も、気の毒な人がほとんどだったけど、梁山泊という天然の要塞に立て籠る訳ありの人物達の集まりだった。

 ヨーロッパではヴァイキングが時代を支配した時もあったし、中世ヨーロッパでは多くのならず者が存在した。


 そんなならず者や荒くれ者をまとめ上げたギルド長は本当に凄い。

 そして、そんな人物達を武を持って制した副ギルド長も相当だ。

 


 

 でも、僕は凄いと思うと同時に思った事がある。




 ………なんとなくだけど、これと似たような事をした人物を知っているような気がした。




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