僕って殺されるところだったのッ!?
とんでもない事実が発覚したッ!
自分の知らないところで殺される危険に直面していたらしい。
…解せぬ。
「どういうことッ!? 何で僕は殺されるようなことになっていたのッ!?」
「シーッ! 声が大きいっ! こいつらが起きちまうだろッ!」
僕はハッとして、自分の口を両手で瞬時に抑えつけた。
みんな疲れているのに起こすわけにはいかない。
でも、こんな重大なことを唐突に言ってきたヨゼフにも責任があると思う。
「…びっくりさせて悪かったな。俺もいつ言おうか考えていたんだが、お前と二人きりで話せるこのタイミングが一番いいと思ったんだ。別に言わなくてもいい事だと思うが……でも、これは俺の中で言わなきゃいけないって考えていた。だからお前に伝えたんだ」
さっきみたいに誤魔化す訳でもなく、真っ直ぐな瞳で僕に語りかける。
…そうだよね。別に素直にその事実があったことを、ヨゼフが僕に伝える義務なんてないんだ。
これはヨゼフの僕への親切心からの助言だ。
そういう思惑があったということの裏返しだ。
そういうことに疎い僕でもわかる。
つまりはそれだけ僕が期待されている反面、僕のことを危険視している人物がいるということ。
恐らく、その人物は……
「…はぁ〜、僕って随分と警戒されているんだなぁ。ヨゼフの上司って人が命令したのかな?」
「話しが早くて助かる。そういう事だ」
「っていうことは、そのまた上の人物がいたりするの?」
「いや、今回はあいつからの命令だ。他の奴が絡んでの指示ではないな。あくまで私事な考えあっての俺への命令だ」
なるほど。なんとなくだけど見えてきた。
ヨゼフの上司って人の判断で、場合によっては僕を殺せって命令をヨゼフに出していた。
そして、そんな権限を持ち合わせていて、なおかつヨゼフのような人物に指示下すことが出来る人物というと、ギルドの中でもかなり偉い人物、もしくはトップに君臨するような人といったところかな。
そして、それをヨゼフに指示するってことは、僕が役に立たないようなら殺せっていう意味でもある。
僕の立場が変に国を揺るがすといけないからだ。
国のことを想う志を兼ね備えた、頭の切れる人物なんだろうなぁ。
「へぇ、その人は国を想う志を持った人物なんだね」
「国を想うぅ? 馬鹿言っちゃいけねぇ。あいつは国を想う心なんて、これっぽっちもねぇぞ。国が滅びようが、国が滅びそうな状況でも、断固としてあいつは中立を貫こうとする。国やその地の民のことは考える余地が、あいつの脳みそには元からないんだ。基本的にはクソ野郎さ」
…す、凄い言い草だ。
なんかヨゼフは自分の上司に、いい感情を持ってはいないみたいだ。
何でそんな人の命令を、ヨゼフのような人が素直に従っているんだろうか。
多分、ヨゼフの性格は義理堅いから何かの恩返し的なことなのかな。
あまり最初からヨゼフの過去に踏み込みすぎた話しをこちらから聞くのもなんだし、その上司の愚痴を言い続けているなら、その人の性格について少し探りたい。
「…そ、そうなんだ。でも、何でその上司って人は国のことを想わないのかな?」
その質問を投げかけた途端、ピクッと舌と唇の動きを止めて、饒舌な様子から一転して真面目な雰囲気で、手を顎に当て、ヨゼフは考えこむ。
「……これは俺の勘だが、あいつの過去に何かあったんだと思う。国に失望する何かだ…」
「国に失望する…ね。国に仕えていたことでもあったのかな?」
「それは知らねぇな。あいつは過去の話しを極端にしたがらない。それに俺はあいつの名前を知らねぇし」
「えっ!? 上司の名前も知らないのっ!? そんな事ってありえるの……」
「あいつは用心深いんだ。俺はあいつのことを“あいつ”って呼ぶし、他の奴らはあいつのことを“ギルド長”って呼ぶからな」
「……ヨゼフの上司ってギルド長だったんだね。偉い人だとは予想してたけど」
「別に隠すことでもないし、どうせ王都に行けばどちみちバレると思ったから言っちまった。あいつは自分の素性を明かしたがらない。これも予想だけど…あいつの事を知っているのは副ギルド長だけだろうな」
「副ギルド長?」




