ドーファンの使命
「ドーファン。貴方が何でこんな所にまで来てその人に会おうとしたの? 私はそこが知りたい」
「イレーネの言うことは最もですね。ボクがその人物を探していたのは、”あること“をお願いするためでした」
「あること?」
「はい。これも会話の中で話したことですが、ボクの友達のとこまで一緒について来てくれないかってお願いするためでした」
「何でわざわざその人にお願いするの? 別に他の人でも……」
「いいえ、その人じゃないと難しいんです」
「どう言う事?」
「ボクの本当に会いたい友達がいる場所に、とんでもない怪物がいるって噂で……。だから、道中の警護をお願い出来ないかと」
「それならギルドってとこにお願いすりゃ良かったんじゃねぇか? 魔物とか狩るんなら、怪物も狩ってくれそうだけどな」
「………それが、ギルドにお願いに行ったのですが、ボクの行く場所に同行出来る人はこの国では一人しか認められておらず、その方は極秘の任務に就いていて…どこにいるかもいつ戻るかもわからない、と言われてしまったので……」
「…………………」
ヨゼフは無言を貫いて聞いている。
僕達は合いの手を入れながらドーファンの話しを淡々と聞いていく。
ドーファンは友達がずっと欲しかったから、その遠い地に行ってしまった友達にどうしても逢いたいんだろうね。
何か手伝えることがあるといいけど。
「そんなに大変な場所なの?」
「はい。それはもう、噂ではその怪物に睨まれたら生き残ることは出来ないと言われるほどです」
「そうか。んじゃあ、ドーファンの探してる伝説の将軍と、ドーファンの友達に逢う事が目的なんだな?」
「そうですっ! それが僕の目的ですっ! だから、さっきヨゼフさんが言っていた凄腕の政治家って人に話しは気になります。もしかしたら、その将軍と関係があるかもしれません」
ドーファンはヨゼフの方をクルッと向いた。
もっと詳しく教えてくれってお願いするんだろうな。
「ヨゼフさん! 教えて下さい! ボク、その将軍について少しでもいいから情報が欲しいんですッ!」
ヨゼフは黙ったままドーファンを観ている。
……でも、なぜかその眼光は鋭さを秘めていた。
「……ヨゼフさん?」
ドーファンも不思議に思ったのか、ヨゼフの名前を疑問系になりながら呟いた。
「ドーファン」
ヨゼフが発したドーファンという名前は重々しい声で、これから何かを聞こうとしていることを告げるような第一声だった。
「俺は言ったはずだ。……正直に話せ、と」
え? ドーファンの話しは嘘だったの?
「お前の言っている言葉と内容は真実だ。お前は本当にそれを望んでいるんだろう。だがな、お前は何かを隠している。お前の真の目的はなんだ?」
その声は何かを詰問し、真実を探ろうとする厳しい声だった。
僕にはドーファンが何かを隠しながら話しているってことが理解出来なかった。
「…………凄いですね、ヨゼフさん。たしかに貴方の眼差しは、曇ってなんていないようです。認めましょう。僕はまだ打ち明けていない真の目的があります。でも、これを話した時に、貴方の警戒心がボクのことを危険視するまでに感情が振り切って、ボクが殺される可能性があるので言えません」
「ボクは本当なら今すぐにでも、このことを誰かに伝えたい。だけど、それを伝えてしまっては、全てが終わってしまう………」
「ボクは、これはボクにしか出来ない使命だと“想って”います。ですが、皆さんに打ち明けてもいいと判断したら、必ず話させて下さいッ! お願いですッ!! …ボクは皆さんのことを信頼しているのでここまで話しました。皆さんの旅の途中まででいいので、ボクを同行させて下さいッ! どうか……どうかお願いしますッ!」
ドーファンは深く頭を下げて頼み込んできた。
切実な願いだった。何か重大な使命を、その小さな双肩に重くのしかかっているけれど、それを明かすことが許されない…小さな少年の願い。
一体どれだけの重い真の目的がドーファンの胸に秘められているのか。
誰かに話したいけど話せないって言っていた。
ドーファンはこの地に着くまでに、どんな想いを抱えて旅をしてきたのか。
三日三晩飲まず食わずで彷徨って、その使命を果たせなくなる恐怖と…どのように向きあっていたんだろう。
この子をここまで掻き立てる使命って一体……。
「…………わかった。お前を信じよう。お前の言う人物の話しは…また明日にしよう。旅の同行も許可する。最後の質問の答えはまだ聞いていなかったな。お前はここで目的を果たしたら、どこに帰るんだ。お前の家は?」
ヨゼフの答えに安堵をしたのか、ドーファンの顔の緊張が解けてフニャフニャした顔に戻った。
「ありがとうございます。ボクを信じてくれて……。ですが、ボクにはこれ以上この地に留まる時間は残されていません。その将軍については情報を集めながら、時間ができたらまたの機会にこの地を訪れたいと思います。…ボクは今、一刻も早く家に帰らなければなりません」
「ボクの家がある。この国の王都“クールクブト・サンペテル”へ」




