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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ドーファンの目的

「もちろんよ。ドーファン。友達のお願いは叶えるものよ」


「おう、俺も約束だ。絶対に言わねぇ」


「俺から聞きだしたことだ。そんなの当たり前だろ」


 みんなの返答を聞き、ドーファンは少し安心したように、強張(こわば)った肩の力を抜いてゆっくりと息を吐き出した。


「……わかりました。皆さんを信じます」


 ドーファンは悠然と、両手を頭を覆っていたフードに手をかけると、パサッとそのフードを勢いよく捲り上げた。


 そのフードの下には、黒と茶色の中間のような髪色に、男の子らしく短く切られたショートカットヘアー。

 灰色の瞳がクリッとした特徴的な可愛い眼。

 真っ白な肌にスラッとした鼻が凛々しさを引き立て、顔全体では可愛さよりも尊厳さが印象的な男の子の顔が、ついに僕達の前に現れた。


「……人の前で顔を見せるのは、久しぶりでちょっと恥ずかしいですね。改めまして、ボクの名前はドーファン。年齢は十五歳です」


 僕達より三歳年上だった。

 声と体格から歳が変わらなさそうだと思ってたけど、顔を見ても同じ感想だった。

 ちょっと童顔なのか、成長期が遅いのかな? 


「お前、その見た目で十五なのかっ!? 全然見えねぇよ。もっと下かと思ったぞ」


 ヨゼフは歯に絹を着せない発言を、わざわざ遠慮なく発した。

 僕ならもうちょっと控えめな言葉で言うけど、そういうとこがヨゼフだなって思う。


「うぅ! 気にしてること言わないで下さいよっ!! きっともう少ししたら、ハイクの身長ぐらい抜かしてるはずです!」


 ドーファンは涙目になりながらも反論するが、さらなる反論が待っていた。


「いや、そしたら俺も身長伸びてるから。ドーファンには身長抜かれることはねぇんじゃないか?」


「酷いよ! ハイク! ボクに華を持たせてくれたっていいじゃないかっ!」


 シクシクと泣き始めたドーファンは、結構繊細なガラスのハートの持ち主だった。

 そんな感じはしてたけどね。


「ドーファン。私よりも年上なんだから、そんなことで泣かないの。ほら、しっかりして」


 年上など関係なく、お姉さんキャラを演じたいイレーネはドーファンに優しい言葉をかける。


「うぅ……。イレーネは優しい子なんですね。ちょっと元気になりました」


 ドーファンは立ち直ったことで、再び話し始めた。


「では、何から話しましょう。……そうですね、まずは目的から話した方が、話しの起承転結としてはいいかもしれませんね。ついでにここに潜んでいたことと、ここまでの経緯を包含して話せそうですし」

「ボクの目的はある人物を探すことでした。ここら辺にいるかもしれないってお聞きして、その人を探す旅に出ました。でも、この辺りの村で聞き回っても、全然その人の情報なんて手に入りませんでした」

「だからボクは、もっと僻地にいるかもしれないと考えて、帝国との国境沿いの、この森の中まで来てしまいました。…けど、それが運の尽きでした。森の中をぐるぐるぐるぐる歩き回って、しまいには迷子になってしまいました」


 ドジっ子とは思っていたけど、やっぱり迷子になってたんだね。


「もうダメかも…って思いました。なにせ三日三晩飲まず食わずで彷徨っていたからです。ボクなんかがこれ以上、生き残れるはずもありません。動物を狩ることなんて出来ないし、見た目通り虚弱で病弱ですから」

「生き残る気力もなくなり、地面に倒れ込み、最後に神に祈ろうと思いました。あぁ、我が神よ。もし、もしも()が生き永らえることが可能でしたら、この命を幾許かで構いません。()()()()()()()を叶えるために生き永らえさせて下さい、と」

「少しでも日差しの暑さを和らげようと、最後の力を振り絞り、小さな茂みの中に入り込みました……すると、どこからか人の声が聞こえてきたのですっ! あぁ、これで生き永らえることが出来たと、心の中のボクは踊りに踊っていました」

「でも、現実世界のボクは踊れるような体力は残されていません。人の気配が消えて、このまま無慈悲な希望だけを抱いたまま死ぬかと思いました」


 確かにこの段階なら無慈悲だと感じる。

 だけど、この後の展開を考えると無慈悲じゃなくて慈悲深かった。


「ですが、しばらくすると声が聞こえてきました。これが最後の希望だと…再び僕の目に力が宿りました。よくよく会話の内容に耳を配ると、それはボクなんかが聞いてはいけない内容でした。ここにいることがバレたら、どんな目に遭うのかと想像すると、身体が震えて震えてたまりません」

「一人が先に帰ったことで、安心しました。しかし、もう一人が帰ろうと歩いている時に、僕の顔の横に毛虫がいたことに気付き、あまりの衝撃に大きく身体を動かして、茂みがガサガサッと、大きな音を立てて森の中に響きました……終わりだ、って思いました。このままじゃバレる。まずい。そんな感情だけが心を支配していました」

「すると、僕の方に段々足音が近づいてくるじゃありませんかっ! そして、その足音の主は茂みの近くに落ちていた、先端が尖った棒を手に持ち、ゆっくり…ゆっくりと、近づいてきます。…あぁ、このままじゃあの棒を刺されて殺されるって、焦りの気持ちがどんどん膨れ上がって、もうここは、噂で聞いた“何でも許して貰えるポーズ”をしながら、謝り倒そうと決意しました」

「僕は決死の覚悟で、死にもの狂いで茂みから飛び出て、“ま、ま、ま、待って下さぁぁぁぁぁいッ!!! 殺さないでぇぇぇぇぇッ!!!” って言いながら、ポーズも綺麗に取りながら茂みの中から踊り出ました」

「それ以降は皆さんの知る通り、僕と皆さんの出逢いがありましたッ! 神に感謝ですッ!! 巷で噂の(とうと)い現象も観れて、僕は感激ですッ! 当初の目的を忘れるくらいに嬉しかったですッ! …あんなに美味しい魚も初めて食べました。後でこっそり感謝のお祈りを捧げてから寝ることに致します」


 そう話すドーファンの顔は嬉しさ全開でニコニコしていた。

 よっぽど僕達の逢えたことが嬉しかったんだろうな。

 話しを聞く前は少し警戒していたけど、ドーファンの顔を観て僕も逢えて良かったなって思える。

 ……ってかツンデレを尊いなんて言うなっ! 

 ヨゼフの名前に対する価値観を尊いって言ってたんだから、ツンデレがヨゼフの考えと同等ってなっちゃうでしょ! 


「そうか、お前も苦労してここにいたんだな。飲まず食わずで彷徨っていたなら大変だっただろう。でも、そうまでして虚弱で病弱なお前が一体誰を探していたってんだ?」


 ヨゼフは話しの根幹となる質問をした。

 わざわざこんな森に入ろうと決意するほど会いたい人物…気になる。


「えぇ、やはりそこが気になりますよね。でも、もう会話の中でその人物については触れています」


「え?」




「ボクはヨゼフさんにお聞きしました。”もしかしてヨゼフさんは、三年前に滅んだ小国の、最後まで帝国に抵抗をしたあの伝説の将軍なんですか?“ …と。ボクが探している人物は、かつての亡国の英雄たる人物…その人です」


 謎の子供ドーファンの素顔がご開帳です。


 次はドーファンの使命です。

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