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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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魔物と魔法

「なぁ、ドーファン。何で神って奴は、人間に魔力だの神の加護だの、そんなの与えなきゃいけなかったんだ。別にそんなもん無くても普通に生きられるだろ? 俺達はそんなのと無縁だったけど、無くて困ったなんてことはなかったぞ」


 ハイクがすんごい的確な質問をした! そうだよね。普通ならそう思うかもしれない。


 僕は覚えておいて損はないっていう感情と、せっかく異世界にいるんなら魔法を使いたいっ! という前世の憧れの気持ちと、そして何より、父さんと母さんを守りたい強い想いから師匠に教わることになった。

 ……まぁ、半強制どころか従わなかったら命すら危うかったんだけどね。


「うーん、皆さんのいた所ってどんなところ何ですか? ボクには逆に、必要じゃない状況というのがわかりかねます。想像がつかないんです。そこには“魔物”って存在しなかったんですか?」


 えっ! この世界って魔物もいるの!? 本当にファンタジーの世界だ!


「”マモノ“? 聞いたことないわね。なぁに、それって?」


「俺達のいた所に、そんなのいなかったぞ」


「………信じられません。普通、魔物というのは至る所に存在します。魔物がいない所があるなんて……。では、魔物というものが何かも説明しましょう」


 ドーファンが説明しようとするが、それをヨゼフは制した。


「ドーファン、お前はずっと話し放しだったろ? 魚が冷めないうちに食っとけ。俺がこいつらに説明しとく」


 選手交代でヨゼフが説明役を買ってでた。

 ドーファンは説明に注力するのに精一杯で、鮎を堪能することを中断していた。

 僕達は食べながら聞いていたので鮎の美味しさを味わっていて、ドーファンに悪いなと思いながら聞いていたから少しホッとした。


「んじゃ、俺から説明しよう。魔物という存在について、お前達は何も知らないようだな。例えばだ、お前達が今食べている魚や、俺が狩ってきた鳥ってのは、お前達を襲うと思うか?」


「襲う? そんなことないわよ。こっちが魚や鳥を捕まえようとして、暴れるとか反撃をすることとかあるかもしれないけど。動物の方から人間を襲うなんて基本的にはないんじゃないかしら」


 イレーネの言葉はわかる。

 弱肉強食と食物連鎖が織りなす世界で、人間を襲ってくるのは肉食動物ぐらいだと思う。

 僕達の村にはそんな生き物がそもそも存在しなかったけど。


「そうだ。それが動物と魔物の大きな違いだ。いいか、魔物ってのは、人を見たらなりふり構わず襲ってくるもんだ。お前達が食べている魚とか鳥でも魔物の奴がいる。その魔物っていうのは結構強いんだ。普通に剣とか槍で戦っても勝てないようなのもいる。そこで“魔力”だ」

「魔力をなぜ神は俺達人類に授けたか。その理由は“魔物”と呼ばれる存在への対抗手段を与えるためだ。神の加護も同様だ。魔力も神の加護も、魔物を倒すためのもの」

「じゃあ、どうやって倒すかだって? そうだな、俺は使えないからな……。おい、ドーファン。お前は“火”をだす事って出来るか?」


「火を」


「だす?」


 ハイクとイレーネは言っている意味がわからないって顔をした。

 魔法を知らなければ、この人は何を言っているのかと思っていること間違いなしだよ。


「えぇ、出来ますよ。“火よ(フゥー)“」


 ドーファンが魔法を唱えると、ドーファンの左手の人差し指から火がでてきた。

 ………あれ? 今ドーファンが詠唱した火を呼ぶ魔法。僕の詠唱と違う。


「きゃっ!」

「うぉ! 何だそれ!? ドーファン熱くないのか!?」


 ハイクとイレーネは驚嘆する。

 自分の常識では計り知れない現象を見ているという表情。

 正面のドーファンを警戒しながら、後ろにサッと飛び起き上がった。


「おい、ドーファン。それをコイツらに向かって撃て」


 …はぁッ!? いきなり何を言っているんだヨゼフはッ! 

 そんなことしたら……


「はい、わかりました。…ハアアアアアァァァァァッ!!」


 火の強さが増した炎は、火の球となって僕達の方に飛んできた。

 ドーファンも何を考えているの!?


 まずい! 僕も魔法を唱えなきゃ!!

 僕も咄嗟に、魔法を唱える詠唱を言葉にして口を開こうとする。

 だけど、それは意味がなかった。




 ………僕達に飛んできていた火の球は、天に吸い込まれるように消えて無くなった。




 これって、僕が母さんを救おうとした時と同じ現象だ………





「わかったか。これが魔力を使って魔物を倒すための手段、魔法だ。魔法っていうのは、魔物を倒すために使う最高の手段だ」




「そして、魔法は()()()使()()()()()()




 ……………僕は愕然とした。目を見開いてヨゼフの方を見てしまった。

 ヨゼフの言っている意味が、理解出来なかった。……理解したくなかった。




 だって、それじゃあ……僕が魔法を覚えた意味って。




 ……何で師匠は教えてくれなかったんだろう。そんな重要なこと。

 僕がどんな想いを抱いて、魔法を覚えようとしていたかぐらい、師匠にはお見通しのはずだっただろうに………。


 耐えがたい怒りと抑えきれない悲しみが心の底から湧き上がってくる。


 ………どうしてだ……どうしてなんだッ!?


「おい、カイ」


 呼ばれた方向にヨゼフがいた。ヨゼフの目が鋭く僕を見ていた。


「…お前………まさか聞かされてなかったのか?」


 僕は答えなかった。答えられなかった。

 何か言いたくても、奥歯を噛み締める怒りの感情が抑えられなかったから。

 それを肯定と捉えたのかヨゼフは声を荒げて叫び始めた。




「クソがッ!! ()()()()!! 何で最も重要なことを教えていなかったんだッ!?」




 ヨゼフは地面に突き刺していた槍を手に取ると、その槍を振るい怒りの感情を爆発させた。


 無造作に振るわれた槍は、周囲の木を薙ぎ倒した。

 ドーファンは何事かと悲鳴を上げて、プルプルと小さく縮こまって震えだしたのを見て、僕の高揚していた感情も、緩やかに()いでいった。


「……ヨゼフ、ありがとう。僕はヨゼフが槍を振るって怒ってくれたのを見て、胸をすく思いだよ」


 僕はかろうじて微笑みかけて、ヨゼフは僕のことを未だに鋭い目つきで見ていたが、僕の感情が鎮まったのを感じ取ったのか、再び同じ位置に座り直した。


「……カイ………いや、なんでもない」


 ヨゼフは僕に何か言いたくて堪らない顔を浮かべていたが、それよりも話しを先に進めることにしたようだ。


「…ハイクとじゃじゃ馬娘がどこまで知っているかはわからねぇが、カイはある奴から魔法を教わっていた。お前らも、薄々は気付いていたんだろう? そういう奴の存在を」

「カイは夜な夜なこっそり家を抜け出して、そいつに魔法の稽古をつけさせられていた。俺の本来の任務は、そいつを王都まで護送することだった。だけどそいつは、違う国に行くことの条件に…ある子供をこちらの国に寄越すって条件を突きつけてきた」

「その子供はとても優秀だから、この国にとって大きな意味があり、国の発展に役立つって話しだ。そして、出来れば“ギルド”って所に所属させた方が良いって文も添えてな。……それがお前だ。カイ。これだけ言えばわかると思うが、お前が、そしてカイと一緒にきたお前達には、この先の人生は並々ならぬ苦難と困難が立ち塞がることだろう」

「多くの人間に期待の眼差しと同時に、多くの勲功や実績を挙げるのが当たり前だと思われながら、この国の発展のため、ギルドでの多大な活躍という重責がこの先に待ち受けている」

「カイは聞かされてなきゃいけない話しを知らなかった。これがどういうことかわかるか? ……魔法の使い方を誤ると、守りたくても守れない存在を、むざむざと自分の目の前で失いかねないってことだ。いいか。今まで説明されたことと、ここから話す内容はよく覚えておけ。お前達の今後の一生を左右する話しだ。耳をかっぽじってよく聞け」




 僕達は想いと身を引き締めながら姿勢を正し、その場にいる全員が神妙な面持ちをしながら、再び地面に座り直した。

 ヨゼフは先に座り直していたが、まだ怒りの感情をどこかに置いていくことが出来ずに…右手にその槍をきつく握りしめながら座っていた。

 カイがあの時魔法を使えなかった理由がわかりました。


 次は魔法の正しい使い方です。

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