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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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神への祈りと神の加護

 …ヨゼフも寂しかったんだろうな。

 イレーネも推測していたように、ずっとずっと僕のことを、任務のためにただひたすら孤独になって、孤独に孤独を詰め込んで、一人で過ごすしかなかったって……ことじゃないだろうか。


 そう考えると、ヨゼフも辛い状況だったはずだ。


 どれほど、その孤独な時間を過ごしたんだろう。


 どれほど、この時を待ち侘びていたんだろう。

 

 ヨゼフのさっきの話しから、ヨゼフは誰かと何かをするのが好きで、誰かのために尽くすのが好きなように思える。

 

 魚を四匹釣っていたのも、恐らくこれがヨゼフの一食分の食事として、もしくは、こちらに昼食の文化があるなら二食分かもしれないが、今日の早朝に釣り上げていたのだろう。

 帝国側で急激な変化を迎えた午前の出来事が起こり、ヨゼフはずっとここから川沿いを必死に監視してたに違いない。


 それから水以外に何も口にしていない中、四人の子供のために自分の食事を犠牲にした。

 ヨゼフ自身もお腹が減っているはずなのに、人の食事風景を羨むのではなく、それを見てヨゼフは嬉しそうだった。

 空腹なお腹のことよりも、ずっと願ってやまなかった景色を見て、ヨゼフの心が満たされているような気がした。


 ………ヨゼフは、本当に幸せそうだった。

 …こういう人のために尽くせる人になりたいって素直に憧れる。

 人の喜ぶ顔を見て、自分のことのように嬉しくなれる…そんな理想の大人に。


「ありがとう、ヨゼフ。僕達のために色々としてくれて。僕…ヨゼフのような大人になりたい。ヨゼフのように人のために尽くせる人に。ヨゼフと会えて本当に良かった。僕を見ててくれたのが…ヨゼフでよかった」


 ちゃんと言葉にして今の想いを伝えた。

 そうしなきゃいけないと想った。


「あぁ、俺もお前達に出会えて良かった。お前達で良かった。お前達が良い奴で良かった。心からそう想う」


 僕も、はにかみながらヨゼフに応じた。

 みんなも嬉しそうな顔でヨゼフを見ていた。




「さて、食べながらでいいから話し合おう。まずはさっきの祈りについてだ。ドーファン、ちゃんと詳しく説明してやれ」


 ドーファンは美味しそうに鮎をパクパクと口にしていたが、口の中のものをごくりと飲み込んで、説明を開始する。


「はい、では説明させて頂きます。先程皆さんの身体から飛び出していったものは“魔力”と呼ばれるものです。これは、人なら誰しもがその身体の内に宿している、神から与えられた特別な力のことです」

「人により宿している魔力量は様々ですが、祈る時に天に昇る魔力量は、日常生活に支障のないぐらいの魔力です。身体に大きな害はないのでご安心ください」

「そして、先程説明した“神の加護”。これも神から与えられた特別な力。ただし、これは人なら誰しもが、最初から得ているものではありません。神に認められた者のみが加護を与えられます」

「神に認められるためには、祈ることが何よりも重要です。神を知り、神に近づき、神との親しい関係を築く。そのためには祈ることこそが、最も神との距離を縮める重要な手立てです。祈り、魔力を神に奉納し続けることで、神の加護を得られます」


 なるほど。魔力も神の加護も、神から与えられた特別力だけど、どれだけの祈りを捧げたかで神の加護に(あずか)れるかどうかが変わってくるってことか。


 「質問。さっきドーファンが私達を代表して祈ってくれたけど、あの時の魔力はドーファンの信仰する神に奉納されたってこと?」


 イレーネが質問をした。

 そこだよね。もしそうだとしたら、ドーファンが礼拝堂で祈るなって言ったことの裏付けにも繋がる。


「いいえ、違います。ボクの神だけではなく、皆さんの神にも奉納されています」


「どういうこと? さっきドーファンは“自分の神を探せ”って言ってたけど、それなのにもう自分の神に魔力が奉納されてるって変じゃない?」


 思いがけない言葉に質問をする。

 だって変じゃない? まだ自分の信仰したい神様も決まってないし、その神様の名前も知らないんだよ。


「当然の疑問ですね。たしかに先程の言葉と矛盾を感じることでしょう。ですが、こうも考えられます。神は私達のことを見ているのなら私達のことをご存知だ…と。つまり、カイにはカイの心の中を神はご存知で、カイの“想い”に最も近い神の元に魔力は奉納されるのです」

「なら、神の名を知る必要や、わざわざ調べる必要はないのではと感じることでしょう。しかし、神の名を自分から調べるべき理由があります。その理由は、神の名を知り祈ることで神への魔力の奉納に差がある、ということです」

「祈り続けることで、自身の持つ魔力量も増えると考えられています。祈り続けて増えた魔力から、身体への負担のない範囲の魔力が捧げられるとしても、増えた総量の魔力分、自ずと奉納される魔力も増える、という仕組みです」

「そして、名を知ることで、神に近づきし者として魔力の奉納の効率が上がります。少し奉納される魔力は増えますが、神からの加護を賜るのがより早くなるという利点があります」

「神の名を自ら求める、知ろうとすることには深い理由があります。その努力を怠らない者に、神はその者の相応しい時に、神がご自身の名を見つけるように取り計らわれる、という言い伝えがあります。そのような経緯を経て、神への敬意を表することで、神の加護という恩恵が授けられるのです」


 何だか思った以上に神の加護を賜わるのは大変だった。

 でも、この説明でわかった。

 礼拝堂で祈るなって言っていた本当の理由は、和した祈りは神に対する自分の“想い”が伝わり辛くなることで、神の加護を得るのが遅くなるからだ。

 しかし、それだと……


「ドーファン。そしたら礼拝堂の意味って何だ? 祈りの効果が薄れるなら、そもそも祈る意味がなくなっちゃう気がするんだけど」

 

 うん。そうなるよね。僕も気になったとこだ。


「その通りです。礼拝堂で祈る意味など無いのです。あれは言わば気休め、と言ったところでしょうか。“神の加護を得たい。でも、そこまで真剣には祈りたくはない。なら、誰かの祈りに和して祈っておけば、いずれ神の加護を得られるかもしれない“という浅はかな考えの元に、人間という群れて集まる愚かな生き物は、集団心理に頼ろうとする弱い存在なのです」


 ドーファンは何か礼拝堂に対して、あまり良い感情は抱いていないようだ。

 ここまで懇切丁寧に説明をしてくれるドーファンの言葉を、僕は信じたい。

 …礼拝堂には近づかないでおこうっと。


「ねぇ、ドーファン。神の加護って言うのは、沢山の神からも貰うことは出来るの?」


「いえ、基本的には一柱の神からしか加護を得られません。一つの心に一柱の神の加護です。しかし、自分が信仰する神によっては複数の加護を授かるという迷信もあります。まぁ、ボクは実際にそんな話しを聞いたことはありませんが……」


 ドーファンはチラッとヨゼフを見た。次の説明に移っていいかという確認かな? 


 まだまだ教えて貰うことは多そうだ。

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