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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ヨゼフの見たかった景色

 ヨゼフに促されて、僕達は焚き火を囲むように座り込んだ。

 食べる前にやることは決まっている。祈りだ。でも、どうすればいいんだろう? 

 期待を込めてドーファンに視線を送る。

 ドーファンは僕の視線に気づいて、コクッと頷いて話し始めた。


「それでは、食事を頂く前に神に祈ることに致しましょう。今日はボクが代表して祈ります。ただし、申し訳ございませんが、ボクの信仰する神の名は伏せてお祈りをさせて頂きます」


「それはどうしてだ?」

 

 ハイクが的確に質問を入れてくれる。ありがたい。


「先程説明した加護が関係してくるからです。皆さんのことを信用していない訳ではないのですが、自分の信仰をする神の名前が周囲に知られると、その神からの加護がどんな効果をもたらすものか周囲の者に予想されて、色々と自分を苦しめる結果になるからです」

「そういう危険性を排除する上で、大抵の場合は人前では神の名前を伏せて祈ります。今日は見本というか、こんな風に祈れることが出来るっていう程度で、把握して貰えたら嬉しいです」

「別にこの通りに祈らなければならないという訳ではありません。祈りとは心の所作。心の内にあるものを自分の神に祈ることです。だから食事の前の祈り、朝の始まりの祈り、一日の活動を閉じる祈り、それ以外の時にも自分が祈りたいと思った時に祈ってください」

「では、少し短めに食事の前の祈りを捧げます」


 ドーファンは祈るために頭を少し屈めて、自分の両手の指を組み、目を閉じた。

 ヨゼフも同様の姿勢をしている。僕達はその仕草を真似るように、急いで同じポーズをした。


「天におわします我らが父よ。貴方の慈しみにより、日々の(かて)を享受できることに感謝します。どうか地上にいる全ての者にも、貴方からの祝福により、日々のかてをお与え下さいますように。では、これらの願いと感謝の祈りを、我が()()()()()お捧げいたします」




 ……はい? 何その不穏な言葉っ!? 

 最後の一文の中に、僕の想像していた祈りとはかけ離れた言葉が含まれていた。

 

 そんな事を考えていると、自分の身体の内側から何かが飛び出していきそうな感覚に襲われる。

 ………これって…魔法を使う時の感覚に似ている。

 

「…きゃっ!」


「うぉ! 何だこれっ!?」


 ハイクとイレーネの声に気付いて二人のほうを向くと、二人の身体が少し薄く光っている。

 視線を下に向けると、僕の身体も光っていた。……本当に何だこれっ!? 


 そんな焦る気持ちとは裏腹に、光っていた身体から何かが抜け出し、それはまるで天に向かっているように上へ上へと昇っていくと、吸い込まれるように消えてなくなった。

 だが、一部は吸い込まれるだけでなく弾け飛んだりしていた。

 




「これが祈りですっ!」





 ドヤっとした様子で口元がニンマリとしている。………イラッ! 

 僕達三人はドーファンに近寄り、自然と三人の言葉は重なり、同じ言葉が口から飛び出した。


「「「こんなこと聞いてないっ!!!」」」

 

「ちょっと! アレ何よっ! 私の身体の中から、何か変な光ったものが飛んでったんですけどっ!」

「なぁ、アレって身体から出ても大丈夫なものなのかっ!?」

「ねぇ、アレってどこに向かったのっ!? 教えてドーファン!」


 一斉にドーファンに質問を繰り出し、ドーファンは“まぁまぁ”と言いながら、両手の掌をこちらに向けて落ち着けとでも言うような仕草をしてはいるが、終始ニヤニヤしながら悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべていた。

 …こいつっ! やっぱりわざと教えなかったんだ!

 けど、ニヤニヤしながらもドーファンは空を見上げて、ちょっと(いぶか)しんだような顔をしていた。

 ……何かあったのかな。


「落ち着け。お前ら」


 その言葉が後ろから聞こえてきて、僕達は後ろを振り向く。

 あぁ、こういう時は頼りになるヨゼフに任せよう。


「ちょっとドーファンがふざけただけだ。友達なんだからこのぐらい許してやれ。でも、身を持って味わえただろう。これが“祈り”だ」


 たしかに祈りがどんなものか実感することが出来た。

 どうなってしまうのか、という必要のない焦りとともに。


「まぁ、祈りの詳しい説明は、飯を食いながらでもしよう。…ドーファン、お前が説明しろ。悪戯をして笑えるぐらいに元気なお前がやれ」


「ふふふっ。いいですよ。みんなのビックリした面白い顔が見れて満足したので、そのくらいお安い御用ですっ!」


 ドーファンは友達がずっといなかった寂しさからか、僕達を相手にお茶目な悪戯をしたくてしょうがないんだろうね。

 そう思えたら仕方のないことだと納得した。だって、話す人がいても冗談も言えないような環境だったら、色々な感情を抱え込みながら我慢してきたはずだ。

 せっかく出来た友達だ。ドーファンのことをもっと大切にしたい。もっと知っていきたいなぁ…




 ヨゼフにご飯にしようと言われ、僕達は再び焚き火を囲む。

 もう鮎はこんがりと焼けていた。焼けすぎて片側が少し焦げていた。ちょっと話し過ぎていたからね。

 僕ら子供四人組は、ありがたく鮎を頂く。久しぶりの魚だった。

 噛んだ瞬間に鮎の皮がパリッという心地よい音を立て、食欲をさらに駆り立てる。

 そのまま鮎の身とともに一緒に口の中に頬張り込むっ!


 旬の鮎の身を噛み締めると、スイカのような香りが鼻の中にスゥーっと入り込んでくる。

 ……この鮎は本物の鮎だ。本当に美味い。

 鮎は別名“香魚”とも呼ばれる魚で、本物の鮎はスイカのような香りを持ち、ちょうど小麦の収穫時期と旬が重なる。

 水質が良くストレスもないところで育った鮎は、淡白で繊細な味を演出する。

 

 「美っ味しい〜ッ! こんなに美味しい魚は初めてよ、ヨゼフッ!!」


 「ヨゼフ師匠! 何でこんなに美味しいんですかッ!? 凄いですッ!」


 ハイクとイレーネはとても嬉しそうだ。僕達三人も数年前に鮎を食べることが出来た。


 昔、国境の大きな川の水が大雨で増水したことがあった。

 川の水嵩が増したことで、農業用の用水路に逃げ込んだ鮎が入り込んできた。

 父さんや僕達は、急いで小麦の藁で編んだ大きめの網かごを家から持って来て、用水路の中に入り、網かごを使って鮎を(すく)い上げ、それぞれの家庭で楽しく食したんだよね。

 懐かしいなぁ…


 ただ、あの時に取った鮎は、旬の時期から外れた鮎だったので小ぶりだった。

 それでも、普段は魚料理を食べることなんて出来なかったので、あの鮎の味も忘れることは出来なかった。

 あの時の鮎を彷彿とさせて、あの時以上に美味しい鮎を食べれて幸せだ。みんなホクホク顔で食べている。


 「美味しい……ヨゼフさん! ボク、こんなに美味しい魚は初めて食べましたっ! こんなにシンプルな料理なのに凄いですっ!」


 ドーファンはえらく感動していた。普段食べる食事とは違うのだろうか。

 本当に初めて食べるような感じで、心底美味しそうに豪快に頬張っていた。

 見ているこっちまで幸せになれるような笑顔をしながら、ドーファンは勢いよく食べ続ける。


 「わっはっはっは! そうだろうっ! 美味いだろっ! ここの川の鮎は絶品なんだ。周囲に人がいないか確認しながら、早朝コッソリと槍で小突いて獲ってたんだ。この鮎は毎日でも飽きない美味さだ。多分、旬の時期なんだろうな。お陰でコイツを上手く調理して、美味く食う方法を追求出来たってもんよ」


 ヨゼフはドーファンに鮎をあげたから自分の食べる分はなかった。それでも嬉しそうだった。

 僕達が嬉しそうに、楽しそうに、美味しそうに食べるのを見て…それはそれは満面の笑顔になっていた。




 ……あぁ、この人が食べろ食べろと言っていた理由がわかった。






 ヨゼフはずっと…この光景を見たかったんだろうな。






 誰かが喜んでいる。微笑みを浮かべている。そんな幸せな景色を。




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