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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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神と祈り

「ま、待って! 忘れるなんて出来ないわっ! ヨゼフのおじさん。もうちょっとだけ教えてくれませんか? 私達…何も知らないから。色々なことを知っておきたいのっ!」


「そうだよな…俺も知りたいです。ヨゼフ師匠。この国とか色んな国のことを知ってみたいです」


 これはいい流れ。このまま色んなことを聞きたい。


「……チッ、他言無用だぞ。まぁ、お前らが少しでも情報を知っておくことは重要だ。俺もお前らがどのぐらいの事を知っているのか把握しておきたいからな。ただな…飯を食え、飯を! もうすっかり焼き上がっているだろう。さぁ、食べろ。お前の神に“祈り”、感謝を捧げろ」


 ………祈る?


「あ、あのヨゼフさん。こっちって食べる前に“祈る”んですか?」


「……そこからか」


「はい、そこからです」


「ねぇ、”イノリ“って何?」


「食べる前に何をすればいいんだ? 教えてください、ヨゼフ師匠」


「あっはっはっはっは!」


 突然ドーファンが笑いだした。いやでもみんなの視線はドーファンに注がれる。


「…いやぁ、ごめんなさい。まさか祈りを知らないなんて言う人に会うのは初めてだったから。もしよければ、ボクがお教えしますよ。ヨゼフさんはここまで休みなく動いておられるようですし」


「そいつは助かる。俺は“むしむし作業”してるから。俺のことは無視して祈って食べてくれ。それが終わったら俺の話しとドーファンが何でここにいるかっていう話しをしようじゃないか」


「…うっ、忘れてなかったんですね」


「当たり前だ。俺はお前のことは認めてはいるが、過去の経緯も重要だからな。んじゃ、こいつらに教えてやってくれ」


 ヨゼフは話しは終えたとばかりに山鳩の羽根を黙々とむしり始めた。むしられた羽根は宙を舞っている。


「さてさて、みなさん。では祈りについて説明します。祈りというのは、今日の食事を頂けることへの神への感謝です」


「はいはーい、質問質問」


「どうぞ、ハイク君」


 質問の機会を振られたハイクは遠慮なしに率直な疑問をぶつけた。それも僕達の環境下にあっては抱くべき当然の質問だった。


「”カミ“って何だ?」




「……そこからですか」


「そこからだ」


 


 ドーファンは頭をクラクラさせながら、自分の手で何とか頭を支えた。

 あまりの常識のなさに、いや、常識の違いに思考が追いついていないようだ。

 僕は前世の知識があるから当然知ってる。


「いいですか。神とは私達に命の息吹を吹きかけ私達を創造した方、そしてこの世界の創造した方です。まずは毎日の基本である、食事への感謝の祈り。これを欠かさず行って下さい。それから一日の始まりの祈りと、一日を無事に終えた感謝の祈り。これも出来れば行って頂きたいです」


「祈ってばっかだな」


「ハイク君! 神に失礼ですよっ! 祈りこそが重要なのです。自分の神に祈ることで、おのずと神の加護も得られるからです。但し、真剣に祈ることです」


「私も質問。“カミノカゴ”って何?」


「神の加護は、神から与えられる特別な力のことです。けれども、それを使う条件があります。その条件というのは、後でヨゼフさんと一緒に話す時に話しの流れで説明させて下さい。間違いなく同じような話題がでますので」


「わかったわ」


 ドーファンが一拍置いて呼吸を整えた。わざとらしく、わざわざその動作が必要かのように。


「……いいですか。ここから話すことは最も重要なことです。貴方達はその一生を通じて、自分の信仰を捧げる神を探さなければなりません。自分自身の手で」


 ドーファンは説明に熱が籠ってきたのか、片腕を胸の辺りまで上げて拳をギュッと固く握りしめた。


「ドーファン君、僕も質問いいかな?」


「どうぞ、カイ君」


「僕には“神を探す”っていう感覚がわからないんだ。例えば、祈りを捧げる場所でみんなで集まって祈ったりする時とか、そういう時に誰かにどの神に祈ればいいかって教えて貰えばいいんじゃないかな?」


「………驚きました。神とか祈りの概念も知らない方から、そんな発想が今の今で生まれてくるなんて…感服です。素晴らしいですッ! カイ君ッ!」


 あれ? 誰でも思い付きそうなことを言ったつもりだったんだけど。

 うぅ…またイレーネに怪しまれるよ……


「カイ君の言う通り、“礼拝堂”と呼ばれるところでみんなが集まり、そこで一人の代表者の祈りに和して、祈りを捧げる場所があります。でも、重要なのはそこで祈ることでも、そこで神の名前を知ることではないんです」


「またまた質問だ。“イノル”ことが大事って言っていたのに、そこで“イノル”のは重要じゃないって変じゃねぇか。”カミ“の名前も探さなきゃいけないのに、そこで知ることも重要じゃないって変だぞ?」


「祈ることは大切です。ですが、誰かの祈りに和しているだけの祈りではダメってことです。たしかに和する祈りもいいと思います。けど、そこにはハイク君自身の願いや感謝の祈りは含まれていますか?」


「いや、違う奴の”想い“だな」


「そうです。だから自分で祈ることが大切なんです。そして、神を探すということなんですが……」


 ドーファンは言葉を濁す。ちょっと言いにくいことなのかな。


「礼拝堂で捧げられている神に信仰を置く人もいます。または、武の神に祈る者もいます。ある人は世界の平和を神に願います。そして、またある人は、人知れない神に祈る者もいます」

「一つ覚えておいて下さい。信仰とは強要されて身に付け、育むものではありません。自分がその神にお仕えしたいと願った時に、初めて信仰は芽吹くのです。なので、無理矢理に信仰を押しつけるような方の話しは、無視して頂いて構いません。自分の思想。抱いている“想い”。それを理解して下さる神に自分の方から近づいて下さい。色々な神々に関して載せられた書物をじっくりと読み、時間をかけて自分の神を探して下さい。礼拝堂に行くことをボクはお勧めしません。もしよければ、今度……僕の家に来て下さい。本もたくさんあるのでお貸ししますよ」


「ぜひぜひ行かせてッ! 色んな本を読ませてッ!!」


 僕はすかさず握手を強要して、ドーファンの手を握る。

 いやっほ〜! まさかの本を持ったいい子がこんな茂みの中に落ちていたなんてね。

 僕は歴史や色々な知識を身に付けるのが大好きだ。願ってもない話しなので、ぜひお邪魔させて貰おうっと。

 巡り合わせっていうのはわからないもんだね〜。


「はははっ、カイ君は本がお好きなんですね。で、でも…その……何というか…条件みたいなものがありまして……」


「条件? それは一体何が必要なのっ!?」

 

 家に入る条件的なこと? なんでもバッチこいだよっ!




「……そ、その…僕と…お友達に……なってくれませんか?」




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