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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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謎の子供

「ツ、ツン……デレ? それってどういう…」


「イレーネっ! この子の言葉は聞かなくていいんだよっ!」


「いやぁ、これが巷で噂になっているものなんですねっ! ボク、実際に拝見出来て感動しましたっ!」


「だ、だから…ツンデレって何なの?」


「あぁ、ツンデレというのはですね……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 僕は急いでこの危険人物の口元を抑える。これ以上言わせてたまるかっ!

 イレーネがその意味を知った時に、どのぐらい感情が振り切れるかで大惨事にも至りかねない。

 ……(おも)に暴力的な意味合いで。むやみやたらに知らせるリスクは回避しなければ。

 

「って、君ぃ! 今、何て言ったッ!? 帝国語で喋っていたよねッ!?」


「それがどうかしましたか? ボクもある程度は喋れますけど?」


「えっ! こっちではそれが普通なの…?」


 しまった! ついつい疑問に思ったことを聞いてしまった。僕達の素性が割れちゃうかも。

 この子は英語も帝国語も話せた。それがこの国の当たり前だとしたら文化がかなり発展した凄い国なのではと、興奮した気持ちも相まって質問を重ねてしまった。


「…こっち? …あぁ、この国ではってことですねっ! いえ、恐らく多くの人々は、この国で使われている言語しか喋れませんよ」

「じゃあ何で君は喋れるの? それに君は僕達と変わらないぐらいの歳なのに、そんなに喋れるなんて……」


 正直凄い。この歳で二ヵ国語出来るなんて…。

 前の世界の僕からしても尊敬の塊みたいな子だ。


「ボクはあと数ヵ国語は話せますよ」


「本当にっ!?」


「えぇ、“言語は重要”ですから当然ですっ!」


 僕は衝撃のあまり、言葉を崩して聞いて再度確認してしまった。どんだけ優秀なんだ。この子は。

 バシッとこの子は自分の胸を拳で叩いて、ドヤっとした様子で自慢げにしている。ちょっとイラッとする。


 それにしても“言語は重要”ってどういう意味だ? 

 この世界では言語を多く話せると何かメリットでもあるというのだろうか?


 そんな事を考え込んでいたら、この子の手元を隠していたやけにぶかぶかの袖元がふわっと(めく)り上がり、覆われた右手が一瞬チラッと見えた。

 ”……あれ…何だろう?“ と瞬時に疑問がさらに生じた。

 …だけど、それを聞くことはあまりにも失礼に感じて、そのことには流石に触れることは出来なかった。


「あの、ヨゼフさん。ちょっとこの子も焚き火の場所まで連れて行ってもいいですか?」


「おい、カイ。それはよしたほうが……」


 ハイクはこの子を警戒している。当然と言えば当然だ。


「“筋肉デカ坊主”の言う通りだ。なぜこいつを連れて行く必要がある? 悪いがこれ以上のお()りは、俺でも自信がねぇぞ」


「いえ、多分…この子。聞いちゃいけないことを聞いてるんですよね」


「…どう言う意味だ?」


「僕とイレーネの会話も聞かれているんです。二人きりの時の」


 そう、あの時の会話を全て聞かれてしまったようだ。

 この子はイレーネの強気な”ツン“とした一面を知っていたから、今この場で見せた”デレ“とのギャップを感じて、さっきの“ツンデレ”って言葉がでてきたんだと思う。




「えっ、それってつまり………」




 イレーネはありえない物を見る目で、この子のことをじっと見た。

 多分、一縷(いちる)の望みをかけて、この子の返答を待っているんだろうな。




「あっ、はい。もちろん聞いてましたよ。“私は貴方のことを信用はしていない。でもね、信頼はしている。キラッ”でしたよねッ!」




「イヤァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」




「やめてあげてッ! イレーネの心がもたなくなっちゃうからッ!!」


 イレーネは羞恥のあまり、のたうち転げ回る。

 “消えろッ! 消えてしまえーッ!” って叫びながら顔を赤らめている。

 …ってか、“キラッ”なんてイレーネ言ってないよね? この子の想い出補正効果音が脚色されているような気がしてならない。

 

「と、とにかく。この子に聞かれるとまずいことも、実は聞かれてしまっているんです。だから、焚き火のある場所で、じっくりと……」


「ボクのことを焼いて食べるんですかぁぁぁぁぁ!?」


「違うよっ! 話し合いをしたいだけだよ! お願いだから話しを進ませてっ!!」


 この子もこの子で脳内変換が面白い構造をしているようだ。

 なかなか強烈な印象がある子だよ、本当に。


「なるほどな。そういうことなら連れて行くしかないな……めんどくさい」


「えっ、おじさん、ボクのこと“めんこくない”って? ボク男の子だよ」


「誰がそんな気持ち悪いことを口にしたッ!? あぁ〜、何でこんな任務引き受けちまったんだ。俺は子供共の面倒をみることが仕事じゃねぇんだよ」


「ドンマイッ!」


 …ブチッ! 


 そんな音が鳴ったような気がした……


「…なぁ、“筋肉デカ坊主”。ここで見知らぬ子供が一人いなくなるぐらい何も問題ないよな? むしろ問題になっていることが片付くから一石二鳥って奴じゃないか?」


「そうですね! 一思(ひとおも)いにやっていいと思いますよっ!」


「ヨゼフさんもハイクも何言ってるのッ!? 違う問題が発生するからやめて下さいッ!」


 さっきの音は気のせいじゃなかった。僕は事態を収拾することに一苦労だ。なんだか疲れてきた……。

 その間もこの子は“あはははははっ!!” なんてずっと笑っているし…僕の堪忍袋の尾もキレそうだった。


「ハァ、わかった。カイの言う通りにしよう。おい、“筋肉デカ坊主”。お前、二十〜三十分程の間なら、こいつらの護衛は出来るか?」


 ヨゼフさんとハイクの間で何があったんだろう? 

 僕とイレーネが話してる間に二人の距離も縮まっているように見える。


「任せて下さいッ! ヨゼフ師匠ッ! 俺がこいつらの面倒は見てやりますッ!!」


 ……ハイクは本当に何があったのッ!? 


 …さっきまで、あんなにヨゼフさんのこと嫌がってたじゃないか。

 けれど、仲悪くなるより仲良くなってくれたなら良かった。

 あと、まだ気になることが…


「ヨゼフさん。どちらに行かれるんですか?」


「秘密だ。先に行って待ってろ」


 それだけ言い残すと深い森の中を駆け出して、その姿はみるみるうちに消えていった。


「さぁ、お前ら行くぞ。俺の後に着いて来い」


 僕達子供四人組は、ヨゼフとは別行動で先に焚き火の場所まで戻って行くことになった。

 ヨゼフに少しだけ頼りにされて、ハイクの後ろ姿はなんだか嬉しそうだった。


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