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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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信用はしていない でもね 信頼はしている

 全身の血が急激に動きまわり、自律神経と交感神経の動きが活性化して、心臓がバクバクと猛烈な音を鳴らす。


 ……イレーネはどういう意図で質問してきたんだ。それは僕が転生者なのかって意味? イレーネも転生者なのか? 

 僕はフーシェのことを転生者じゃないかって予想を立てたりしたけど、イレーネはそんなことを思わせる発言も行動もなかった。


 イレーネの質問の意味は何だ?


「………」


 真意がわからない質問に口を閉ざすしかなかった。迂闊に言葉にする訳にはいかない。

 今度はイレーネのほうが痺れを切らし、僕の顔を見ることもなく問いかける。


「……カイ。貴方は私の大事な友達。だけどね、今までずっと不思議に思ってた。貴方は普通じゃない。普通を超えすぎているの。座学の問題を解くにしても、同学年以上の知能を持っているようにスラスラと問題を解いたり」

「貴方が私達に教えてくれたことは、貴方の師匠が教えてくれたって言ってたわよね。……でも、貴方はそれを語る時、必ず自分の主観が入っていた」

「そして貴方は、ここぞと言う判断が求められる時には、絶対にこうしたほうがいいって断言していた。そう、それではまるで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「今回の出来事も、あのヨゼフって人が貴方のことを一方的に知っていたのも、貴方のことをずっと見ていたからでしょ。王都に護送する任務の一端として、貴方のことを知ろうとして、一方的に知ろうとして」

「一方的に見て知る。それはつまり、貴方の思考の価値を加味せずに、客観的に貴方のことをヨゼフは見て、貴方のことを名前で呼ぶ価値があるって判断したってこと」

「だから私は…()()貴方を信じる。ヨゼフが貴方の何を見て価値があるって評価したかは知らないけど、それは多分…私の知らない貴方をヨゼフが感じとって認めたってことだと思う」

「………見ず知らずの急に現れたおじさんに、貴方のことを認めて貰って嬉しい反面、私の知らない貴方のことを理解されているのは悔しいわ……」

「貴方とハイクとは小さな頃から、ずっと一緒だった…すぐそばにいた……いてくれた。……だけど、遠いところから眺めて、貴方のことをずっと離れたところから見ていただけのおじさんに、まるで大事な友達を横取りされたみたいな気分よ……」

「これだけは最後に言わせて」




「貴方にとっての家族同然なら…もっと私たちのことを信頼して」




 イレーネは言いたいことをこれでもかと言い終えると、僕の横を通り過ぎてハイクとヨゼフのいる場所に帰ろうと歩き出した。

 …けど、すぐに立ち止まった。さっきと真反対の位置で背中越しに語りだした。




「……あと、貴方の悪い癖よ。ハイクは図星なことはそっぽ向いてごまかすけど、貴方は色々とさらに言葉をもってごまかそうと考え込むから黙りこんでしまう。それだけで…貴方が何者なのって質問を、自分自身で何者かであるって肯定しているようなものよ」




「私は貴方のことを信用はしていない……でもね、信頼はしている」




 ……アドラーの心理学みたいなことを言って、イレーネは今度こそ帰っていった。

 条件付きなら僕のことを信じないけど、条件なしなら僕のことを信じるってこと? 

 はははっ…参ったなぁ。こうまでも的確にイレーネに言われると、その場にへたり込んで考えてしまう。


 自分の中では上手くごまかせていたと…上手く表面を取り繕ってきたつもりだったけど、それをこうも看破されるとはね。

 イレーネはよく人を見ている。だからこそ、今までのおかしな行動をしてきた僕は信用出来ないけど、そういった行動のない僕に…これからの僕に希望を込めて信頼をしているってことだと思う。

 ……まだ信じるって言葉も、期待したい想いの表れなんだろうな。


 いずれは僕の正体を明かさなければならない。でも、それには絶対的な条件が必要だ。

 その条件が満たされる日まで、僕はみんなに対して今までよりも誤魔化しながら本当の自分を隠さなきゃいけない。

 ……まるで本来の自分を失わせるように、装いという()()ぎを足しに足した毎日を送らなければならなくなった。




 少し考えた後、立ち上がってお尻についた枯葉や埃を払いながら、みんなの所に戻ろうと歩き出した。

 …ハァッ……と小さいため息を吐きながら、この後イレーネにどんな顔をして会えばいいんだろうって考えていた。




 ガサガサッ、ガサガサッ




 ……へ?




 その音は森の茂みの中から聞こえてきた。動物でも近くにいるかな?


 ……そうだ! 動物を捕まえれば、イレーネも少しは喜んでくれるかもしれないッ!


 動物のお肉なら美味しいのは間違いないし、内緒で狩ったあのお肉の想い出を振り返って貰えるかもしれない。

 それぞれの家族で過ごした、あの時のお肉の味や懐かしい想い出を。

 少しでも想い返してくれれば、イレーネも元気がでるかもしれないッ!


 僕のことで重く思い悩んでくれるよりかは、楽しい想い出を振り返りつつ、一緒に過ごした楽しい新たな溢れ話しとして、イレーネの記憶に喜びの想い出として刻んで貰うほうが嬉しい。


 そうと決まれば何とかしてでも捕まえたい! 

 僕は近くに落ちていた手頃な木の枝の中から、比較的先端が尖った棒を手に持ち、背を低くしながら気付かれないように…そぉっと…そぉっと近づいていく。




 ……あともう少しだ。獲物が潜んでいる茂みは、僕の目と鼻の先までの超至近距離。


 ………よし、今だッ!


 僕は茂みに向かって棒を突き刺そうとし、思いっきり振りかぶるッ! 


 その瞬間。茂みの中の獲物は、これまで以上に大きな音を立て始めた。




 ガサガサガサガサガサガサガサガサッ!!!




 と、とんでもなく動きだしたよッ! 動物ってやられる瞬間にここまで大袈裟な動きってするのかなぁ……。

 そんな思考が頭を()ぎり、刺すモーションが少し緩やかになった時、それは声を放った。




「ま、ま、ま、待って下さぁぁぁぁぁいッ!! 殺さないでぇぇぇぇぇッ!!」




 全身フードを被ったいかにも怪しい人物が茂みの中から飛びだして来て、スライディング土下座をして僕の足元にひれ伏してきた。



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