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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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あだ名

「いや、なんでカイが驚いているんだよっ!?」


「そうよ! あんたはわかってたんじゃないのっ!?」


 二人に華麗なツッコミを貰う。いや、だってねぇ。

 魔法なら説明がつくなと予想していたけど、槍でそんな人間離れしたことが出来るなんて思いつかないよ。


「い、いやぁ…まさか槍でそんなことが出来るなんて思ってもみなかったんだよ。はははっ………そ、そうだ! それってどうやったのか詳しく聞かせて下さいッ! 戦士の御方ッ!!」


 僕は二人の質問には答えずに、戦士の人が具体的にどうやってあんなことが出来たのかを聞きだす。

 うん、我ながら見事な質問のスルーパスだ。


「あんま答えたくはねぇけどな。……まぁ、どうせまた道中で見せることになるかもしれねぇからな。しょうがねぇ…教えてやるよ。俺の専売特許みたいなもんだ。絶対にバラすなよな」


 …ゴクリッ


 唾が喉を伝う。どんな技なんだろう。

 こんなに勿体ぶって期待させているんだ。さぞかし凄い技に違いないっ!


「いいか……あの技はな……」




 ドキドキ、ドキドキ




「ただの“突き”だ」




 ………は?




 僕達はポカーンとした顔で口をあんぐりと開けて、言われた言葉に呆然とした。いま何て言った?  

 ただの突きであんな凄いこと出来る訳ないじゃんっ! 何が専売特許だよっ!


「おい、オッサン! 俺達が子供だからって騙そうとしてんじゃねーぞっ!」

「そうよ! ただの突きでこの場所からどうやったら、川の対岸まで離れた剣を粉々に砕けるのよっ!」


 二人も同じように疑問に思って矢継ぎ早に戦士を責めたてる。

 うん、子供騙しならハイクのように怒るだろうな。でも、雰囲気的には嘘は()いていないような感じなんだよね。


「おいおい、なにを言ってんだよ。俺が騙す? そんなこと考えたことなかったな。今度、王都の奴らをからかうのに使ってみるか。ありがとうな……うーんと…“筋肉デカ坊主”」


「…なッ!?」


「そっちの娘は気が強そうだな。お前は“じゃじゃ馬娘”だな」


「…じゃじゃ馬ッ!?」


「わっはっはっは! どうだ、思いのほかお似合いなあだ名だと思わないか? 俺は直感で何でも判断するタイプだからな。結構ピッタリだと思うぜ。お前らもお互いのこと、“こいつに似合ってるあだ名だ”なんて思ってたりしてるんじゃないか?」


「うっ!?」


「ちょっと! ハイク!? 私のこと“じゃじゃ馬”なんて思ってたのっ!?」


 イレーネがハイクの胸ぐらを掴んで、ユサユサとハイクのデカい身体を揺らす。

 ハイクは図星だったようでどこか他所(よそ)を向いたまま、ただただイレーネに身体を揺さぶられるだけだった。


「わっはっはっは!! こいつは傑作だなッ! なんだよ、お互いそう思っていたんじゃないか。そこの“じゃじゃ馬娘”も、“筋肉デカ坊主”のあだ名のことで反論してくれそうな気なんてサラサラなさそうだぜ? わっはっはっは! はぁ〜、からかい甲斐があるぜ……ふぅ、泣けるほど笑える」


 …ブチブチッ!


 ……あ、二人とも怒っちゃったみたい。何かがキレる音がしたのが聞こえちゃった。


「カイ! このオッサンはダメだッ! 人として終わってるッ! こんな奴と一緒にいたらずーっとネタにされて、からかわれ続けるのがオチだぞ! 俺達だけで旅にでようッ!!」

「私もハイクに賛成ッ! こんな失礼な人といたら道中が大変になること間違いなしよッ!!」


 戦士の人は二人の言葉を聞いても高らかに笑い続けている。全然気にしてないみたい。


「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。この戦士の御方は僕達のことを元気づけようとしてくれているんだよ。僕達の悲しみの気持ちを少しでも和らげようとね。……そうですよね、戦士の御方?」


 僕は二人に話していた顔の向きを、クルッと戦士のほうに向き直した。


「…………」


 また、無言になって魚を反対向きに挿し直している。

 今回はちゃんと魚の表面も、しっかりと焼けていた。

 この人もハイクやイレーネのように考えがわかりやすい人だ。


「おい、そこの」


 …うん? 僕のほうを向いて言ってるから、僕のことかな?


「もしかして、僕のことですか?」

「あぁ、そうだ。ちゃんと俺のことを呼んでくれ。“戦士の御方”ってのは…なんか、その……むず(かゆ)くなるんだよ」


 戦士はまた頭を掻きながら、僕のほうに向けていた視線を少し外しながら言ってくる。

 どことなく人間味溢れる人だと思う。あんな凄い技を持つ人がこんなに気さくなんて…ちょっと意外かも。


「あの…お聞きしたいんですが、僕は何てお呼びすればいいんでしょうか?」


 戦士は再び視線をこちらに向き直した。きちんと視線を合わせて答えくれた。


「……ヨゼフだ…俺の名前はヨゼフ。お前の名前は?」


「カイです。ヨゼフさん。これから当分の間よろしくお願いします」


 僕は言葉と共に、自分の右手をヨゼフの前に差しだした。


「あぁ、ちゃんと面倒は見てやる。安心して俺についてきな、カイ」


 ヨゼフは自身の右手で僕の右手を固く握り、僕のことを名前で呼んでくれた。

 僕もヨゼフで言うところの直感という名の印象を抱いていた。

 この人に抱いた印象は“…あぁ、信頼出来そうだな”と、そう感じさせる出逢いだった。

 …しかし、当然の(ごと)く待ったをかける人影があった。




「「……ちょっと待てぇぇぇぇッッッ!!!」」




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