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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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ありえない穴

「…………」


 戦士は照れているのか、地面に挿したばかりの魚を、火の当たっていた面の反対側にして挿し直した。

 ……いや、いくら何でも裏側にするの早すぎでしょ。表面すら焼けてないよ。

 しょうがない、僕が話し続けるしかないか。


「貴方は、敵をそのまま殺すことも出来たはずだ」


「……」


「だけど、そうはしなかった。僕の父の姿が見えたから」


「……」


「僕の父に、僕を救わせる機会を与えようと、貴方は敵の剣を粉々に砕いた。そうですよね?」


 この人は、僕の父の死に意味を持たせようと、最大の敬意を払ってくれた。

 戦士というのは、ある時代において沢山の敵を討ち取ることこそが最大の名誉と考えていた。

 実際、多くの時代でいかに敵を多く葬りさるかで、勲功や称号の価値も変わってきたはずだ。

 それでもこの人は、自身の栄誉ではなく、父さんの栄誉を優先させた。

 僕のことを父さんが救えるように、あくまで補助役に徹した。敵の武器を粉々に砕いたことで。

 何をしたかはわからない。恐らく、魔法だと思う。風の魔法かな……


「カイ、ちょっといいか」


「ん? どうしたのハイク?」


 何だろう。気になることでもあったかな?


「カイはこのオッサンが、敵の武器を粉々にしたって言ってるけど、そんな証拠どこにあるんだ? そもそも、このオッサンは森の中から出てきたのに、どうやってあの剣を砕いたって言うんだ?」


「そうよ。あまりにもおかしいわ。だってあの剣は粉々に砕けたのに、剣以外の武器は周りには何も見当たらなかったのよ。普通なら、矢で敵の剣を防ぐとかなら想像出来るけど、そういう感じでもなさそうだし…私も説明して欲しいわ」


 二人は僕のほうを見ながらも、戦士の方をチラチラと様子を伺っている。

 本当なのかという疑心暗鬼ぶりが隠しきれていない。隠そうなんて思ってないのかも。

 普通ならそんな人間離れしたことが出来ないって、あの村だけで生活してたらそう考えるのが当たり前だ。

 だけど、僕は前世の知識に加えてこの世界が魔法も扱える異世界だと知っている。

 なぜか僕はあの時使えなかったけど……


「ハイク。ちょっとそこに行って、その木の脇をただひたすら真っ直ぐに見てくれない?」

「はぁ? もう夜なのに何も見えるはずがないだろう? 何を言っているんだ?」

「見たらわかるよ。言われた通りにしてみて」


 ハイクは文句を言いながらも重い腰を上げて立ち上がり、僕の言った場所に歩いて木の脇のところに立った。

 言われた場所に視線を合わせた途端、彼は驚愕した。


「な…な……何だよ、これ……」


 バタンッ!


 ハイクは恐れ(おのの)き、後ろに尻もちをつきながら倒れこんでしまう。

 ハイクはわかったんだ。この人の凄さに。一人の人間としての力量の差に気付いてわなわなと震えている。


「え、えっ? …どういうこと? 何が見えるって言うの?」


 イレーネはハイクが倒れたという異常な事態に驚いたようで、急いで立ち上がってハイクがさっきまでいた同じ場所に身を置いた。

 そして、その光景を目の当たりにする。


「……嘘でしょ。こんなことありえないわッ! 人の行えることじゃない…貴方何者なのッ!?」


 イレーネはハイクとは違い戦士のほうをキッと睨んで警戒心を高めた。

 到底信じられないものを自身の目で確認し、人間離れしたその技が実在したことをイレーネ本人が認めたからだ。

 確かに普通ならありえない。だが、それはそこにあった。

 僕はここに着く前に、ここに来るまでの間にそれを見てしまった。

 そして、ここに着いた。ここに来てわかった。

 その始まりはここから放たれたものであった…と。




 そこには直径五十cm程の円がポッカリと空いており、それがただひたすら真っ直ぐに森の中を貫通し、その穴の先には薄暗い夜の中でキラキラと光る鉄の破片が散らばっていた。

 そう、敵の士官が使っていた剣とその破片が、その視界の先には転がっていたのだ。


 戦士の男は面倒くさそうに頭をぽりぽり掻きながら、語るのも(だる)そうに淡々とした口調で信じられない内容を口にした。




「はぁ〜しょうがねぇなぁ。教えてやるよ。……俺がここから放ったものだ。この槍でな」




「「「はっ!?」」」




 まさかの槍でッ! あり得ないでしょッ!? 

 僕もハイクとイレーネに混ざって、素っ頓狂な声を上げてしまった。


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