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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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立派だった

 その時、森の中から誰かが近づいてくる音がした。

 悲しんでいる場合じゃない。僕達は全員警戒態勢を即座にとる。




 ガサッ、ガサッ。




 音の聞こえてきた場所から現れたのは、立派な髭モジャを蓄えた屈強そうな人物だった。

 中東とかその辺の顔立ちかな。いかにも強そうな人物だ。

 帝国で相対していた士官達とは、全く違うオーラを醸し出していた。

 …戦士……それがこの人を表すのに最も適した言葉だと感じた。


「心配するな、子供(ガキ)共。俺はお前らの味方だ」


「……味方? …言っている意味がわかりません。この国に来たのは初めてですし、貴方のことは知りません。…僕達は密入国者ですよ?」


「普通はそう思うよな。俺だってお前の立場ならそうする。警戒して当然だし、この状況で警戒しねぇ奴は馬鹿だ。だからお前は普通だ。………だが、これだけは言わせてくれ」


「…何でしょうか?」


 次の言葉を伝えるようと、わざわざ深く息を吸い込んでいる。

 割れんばかりの大きな声で、戦士の男は真っ直ぐにこちらを見つめて語りかける。






「お前の親父は立派だったッ!!」






 そう言われた瞬間、手に握っていた父さんの槍を…ギュッと、より一層強く握りなおしていた。


「誇りに想えッ! 父を称えよッ! たとえその死が僅かな人を救うための死だったとしても、その死は間違いなく愛する人を守り、我が子を守り、お前達のことを救ったッ! ……感謝せよッ! 己が父にッ! 紡ぎ続けよッ! 父達の想いをッ!!」





 ………ポロポロと涙を流してしまった。


 さっきまであんなに泣いてたのに…また泣いてしまった。


 だって…卑怯じゃないか。僕の心が弱りきっているところに、父さんの死を誇りに想えって……。


 父さんの死が全く知らない戦士に認められて…本当に嬉しくなった。


 ……父さん達の死は無駄死にじゃない。僕達のことを救い、この見ず知らずの人の心を動かしたんだ。


「安心しろ。俺はお前達のことを守ってやる。……とある理由でこの国の首都まで、お前達を護送する任務を俺は引き受けている。さぁ、もうすぐ陽が沈む。いつも焚き火をしている場所があるんだ。そこで飯を食いながらでも話しをしよう」


 僕は警戒をしていた。護送する任務? なぜ僕達を護送する必要がある? 

 護送するなら師匠のような人だと思う。


 ………そうだ。師匠は確か監視者をこちらの国に置くように頼むと言っていたけれど、もしかしてこの人の事か…。

 色々な思考を巡らせながらも、僕の答えは実は決まっていた。

 この人の言葉は短いながらも、僕の心を紐解くのに十分な言葉だった。




「……わかりました。一緒について行きます」




 僕は涙を手で拭い、ハイクとイレーネの顔を見ながら頷くと、二人は頷き返してくれた。

 二人もこの人になら、ついて行ってもいいと判断したみたいだ。

 こうして僕達は、このどこの誰かも分からない戦士の後に続いて森の中に入って行った。

 ふとイレーネが呟いた。


「……これで、私たちは帝国の民ではなくなったのね」


「そうだね。さらに言えば、こちらの国の民とも今は認められていない。だから僕達は“何者でもないんだ”」


「何者でもないか。…まぁ、俺達には“何も無い”しな」


「えぇ……そうね」


「………悪い、言葉が滑った」


 なんだか気まずくなってしまい、会話が途切れてしまう。


 こちらの国の国境は遠目に見て、何だか街みたいな雰囲気があった。

 橋が架かっているところ以外は森だ。僕達はその森の中に入っている最中だ。

 中に入って見ると、帝国側から見ていた予想と違って、そこはかなり鬱蒼(うっそう)とした森だった。


 前の世界にいた時にも色々な森に行った。趣味のキャンプや登山で沢山の森を見てきた。

静かな森、穏やかな森、神秘さの立ち込める森、悪しき雰囲気が纏う森、(よこしま)な考えを抱かせようとする森。本当に様々だ。


 その経験から踏まえて、この森は昼間の時間帯でも、きっと薄暗い雰囲気の森なんだろうなと予想がつく。 

 こんな森なら、さぞかし隠密活動がしやすいことだと思う。伏兵を潜ませたりするのにも、とても便利そうな森だ。

 だからこそ、危険が伴う森だとも言える。よくこの人は、こんな森で一人でいられたと思う。



 ………違うか。()()()()()()()()()()()()




「ここだ」




 戦士がそう言うと、この森の中では珍しく、少し広めの土の地面が開けた場所だった。

 今まで歩いてきたところは、森特有の雑草や落ち葉が生い茂っていた。

 ちょっと休憩をするにも慣れていないと大変な場所だな…。

 虫なんかも多いだろうから、これからの道中のイレーネが大丈夫か心配だ。

 イレーネはそこまで虫が得意ではないんだよな……


「まぁ、まずは座れ」


 戦士はそう言って席を勧めた。

 そこは石で囲まれた焚き火をする場所になっていた。この人が作ったのかな……。

 一応念のために、戦士とは対面に位置する場所に三人で固まって座り込んだ。


「川で冷えた身体を温めなきゃな。これから夜になる。この時期と言えど、家にいるより外は少し冷えるから、なるべく身体を長い時間…火の側から離れないようにしろ。身体の内側まで温めるんだ」


 戦士は注意事項を述べると、持っている火打ち石で火種になる何かの綿に、カチッカチッと火打ち石を叩いていると、すぐに綿に火がつき少量の樹皮繊維で全体を覆うように包みあげた。

 ゆらゆらと手でそれを振ると、次第に全体に火が灯り始め、それを石の円状に囲まれた焚き火スペースの中心に丁寧に置き、その上に枯れて燃えやすそうな針葉樹の葉を重ねていく。

 火は少しずつ燃え上がり、次第に針葉樹の葉をも飲み込んで、それは炎へと昇華していった。


 戦士は慣れた手つきで炎を消さないように、乾いた木材を井桁型に炎の上に組んでいく。

 上手だな…。組み上げた木が、お互いを倒れないように支え合っている。

 炎となった種火を下から竹筒の火吹き棒で軽く吹くと、炎は勢いを徐々に増し、やがて木にも火が燃え移り、立派な焚き火が出来るようになった。

 煙はモクモクと夜空に登っていく。ただ、帝国側で上がっている夜空を覆わんばかりの煙とは違い、それは静かな煙だった。


 戦士は木の棒に鮎のような魚を人数分刺していく。その棒を焚き火の周りの地面に挿した。


「さて、飯が出来るまで時間がある。まずは何から話そうか」


 戦士が話しを切りだした。……だけど、僕はこの人に言わなきゃいけないことは決まっていた。


「あの、まずはお礼を言わせてください」


「ん? ここまで連れてきたことにか? そこまで礼を言われることではないと思うが…」


「違います。僕は別のことでお礼を言いたいんです」


「……どういう意味だ? ますます意味がわからねぇぞ。俺は他に何かしたか?」


 シラを切るつもりかな。もしくは言いたくないだけか。

 戦士ゆえの誇りでもあるのだろうか。バレバレなのに。




「貴方ですよね。……あの時、父の名誉を守ってくれた人は」






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