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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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とある王国の王様視点 侵し、冒し、そして犯す

 ある時、カイ達が逃げ込んだ国の王座の間ではこんな会話がなされていた。


「我が王よ。いよいよ帝国が我が領土に足を踏み入れようとしている…との情報がもたらされました」


「いよいよ、この時が来てしまったか...。なぜ帝国は、ここまで愚かなまでの領土拡大をしたがるのだろうか。余は帝国の国民に同情を禁じ得ない。帝国の侵攻ルートとその侵攻時期は?」


 そんなに戦を繰り返していては、間違いなくその裏で犠牲になっているのは帝国の民達だ。

 負の負債を勝手に民に押し付ける、どこまでも途切れることがない負の連鎖。

 一体なぜそこまで戦をしたがる……


「現状偵察部隊からの報告で侵攻ルートは三つ。侵攻時期は数年後を想定しております。商人に紛れさせた敵の偵察が、この国に入り込むのがあからさまに多くなりました。侵攻ルート上の敵側の二つの街と一つの村から、こちら側に商いに来る者達の中に偵察者が多数含まれており、その三つのルート周辺の我が国の地域が念入りに調べられていることが、敵の偵察者の一人を拷問したところ自供したようです」


「そうか…報告ご苦労。あの国は情報を徹底的に調べてから念入りに準備してくるだろうな。これまで帝国に滅ぼされた国々からのこれまでの経緯と末路を、余が生きているこの目と鼻の先で行われた教訓からも間違いあるまい。……帝国の目が我が国に向けられただけの話しだ」


「しかしながら、我が国に侵攻することが帝国に大きなメリットよりもデメリットをもたらすことは間違いありません。…そのような愚策をあの帝国が犯すのでしょうか」


「侵し、冒し、そして犯すのだろう。我が国と友好関係にありながら、このようなことをするのは歴史的に観ても劣悪な犯しだ。一方的な侵略概念を絵に描いた帝国の蛮行を…余はこの地で食い止めようと思う」


「ですが、三つもの戦線をどのように展開するのでしょうか? 同時期に侵攻されたら我が国はひとたまりもありません。我が国にはそこまでの戦を迎え撃てる将と兵、物資もありません」


「………いや、ない訳ではない。それにない物はある所から得られれば、我が国でも対抗できる」




 そうだ。何としても得なければならない。()()()()()




「余りにも兵力差が大き過ぎますッ! さらに相手の将校達は連戦練磨な上、兵達も年中戦いに明け暮れ練度が桁違いです。敵は自国の民にも戦に重きを置いた思想主義を徹底的に教え込み、戦うのは帝国のためにと税と称した略奪を自国内で限りなく行える国力もあります。……勝ち目など到底ありませんッ!!」


「兵もあの者を説得すればどうにかなる。時期尚早ではあるが…...。あの者に一つの戦線の指揮をしてもらう」


「無理ですッ! あの方は中立を旨にあらゆる国に尽力しておられますッ! それに…あそこの者たちは兵ではなく、自我も強い自分自身を至高とする者の集まりです。確かに集まればかなりの数にはなりますが、あれだけの人数を賄える物資は揃えきれません」


 確かに…あの者とこの者の性格は合わないだろう。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「説得には骨が折れるだろうが何とかなると余は思う。物資については“あの国”に支援を求める」


「…ですが、あの国は我が国への支援を間違いなく断りましょう。あの国も余裕なんてないでしょうから」


「帝国に対し残りの国々が連合するように働きかければ、あの国も我々の支援に加担してくれるはずだ。……なんなら我が国と連合して帝国を打ち破ればいいと協力を要請しよう」


 そうだ、それが出来れば理想的だ。何せあの国には……


「そうですね。あの国には名高いあの将達がいるから帝国と凌ぎ合えるだけの国です。……しかし、協力して帝国を打ち破れる程の…あの国の将達と並べて戦える程の者がこの国にいることを私は知りません」


 ……いいや、この国にも人物はいる。


「辺境の地の守備を任している例の将軍に、一つの戦線を任せてみようと思う」


「…ッ!? それは絶対にお辞め下さいッ!! あの変人に戦を任せれば間違いなく軍の規律は乱れてしまいますッ! もしもですが二つの戦線を展開出来たとしても、もう一つの戦線を任せられる者は本当にこの国はいませんッ! 戦は絶対に無理ですッ!!」


「もう一つの戦線は其方が率いればよい」


 ………もしくは噂に聞いた“怪物”と称された者が()であったならば…。


「我が王よ…確かに私も武人としての本懐を遂げられるなら本望です。ですが此度(こたび)の戦さには反対ですッ!! 先の公国の滅亡を王はご存じでしょう。誰よりも公国の滅びを望んでいなかった王ならおわかりのはず。あの国には名高い英雄と宰相がいながらも滅んだのです」


「そこまで戦に反対か……」


「王のお考えはあの帝国に立ち向かおうとする、崇高で素晴らしいものです。……しかしながら、戦さというのは勝ち目があり確実な駒を揃えられてこそ戦さに臨めるのです。王よ、いま一度ご再考を、何卒ご再考をお願い致しますッ!!」


 そう言って王の臣下は地に両膝をつき、両手を地に伏せ頭を地に食い込ませながら懇願した。

 王の心と相容れない考えを持ちながらも、その心とその姿勢は忠臣と言わしめるものがあった。


 何より…この臣下は知っていたのだ。たとえ優れた勇将がいたとして孤軍奮闘の上で優勢な勝利を一度は収めたとしても…それは一局地戦における戦術的勝利に過ぎないのだと。

 この度の防衛戦の戦略的な勝利は、全ての戦線で勝利してこその成功した勝利なのだ…と。彼はその人生を通じて理解していた。


「………余は、前世においてとても後悔していることが三つある。一つは生きる希望を失い自分の責務を最後まで果たせなかったこと。一つは人の気持ちがわからなかったこと…そして、最後の一つは大事な友の言葉を(ないがし)ろにしてしまったことだ。……余は其方の言葉を無下にしたくはない。だが、帝国が世界を支配する未来だけはどうしても受け入れられないのだ」


 そこには確かな確信があった。帝国が世界をしたとしても人民が虐げられる未来しかこの王には見えなかったのだ。この情勢下で民達を大切にしていない国が未来において民達を大切にするなど考えられなかった。


「……私はいまだに納得しておりません。ですが、貴方は私が禁じてもどうせ勝手に動かれるのでしょう。私には貴方を止められない。……今は収穫の時期です。城下街は収穫祭の祝いで人々が行き交っているでしょう。城を抜け出すなら今のうちです。さぁ…お行きなさい」


 この臣下にも確信していたものがあった。この王は自分の信じた道を突き進もうとする(ふし)がある。かつて公国が他の国に援軍を求めた際、他の国々のほとんどは見放したのだ。

 そんな中、先代の父王に対しても臆することなく派兵を訴えたのは、この国ではこの御方と変人の将軍…公国に隣接した領地を有する伯爵のみだった。

 結局…先代の父王は援軍の派兵を見送ったのだ。帝国に攻められるのを恐れて。だが、こうして後の世代になってあの時のツケが求められている。

 ならば今度こそ…この人の望んだように送り出してあげたい。臣下を動かすのは義なる心を持った王の在り方への共鳴でもあったのだ。


「……すまない、恩に着る。余と其方は相容れない考えを持ちながらも其方が自分で歩み寄れる最大の譲歩をしてくれたことに心から感謝する。余は帝国の突き進む歴史をここで食い止めよう。……では行ってくる。(しば)しの間、国を任せたぞ”和尚“」


「……ええ、お気をつけて」


 こうしてこの国の王はまずは一人目の人物を説得しに城を出た。と言っても訪れる先の人物は城下に居を構えている。

 だが、正攻法で会いに行っても相手にしてくれない。なら、何とか話せる機会を無理矢理にでも作り出さなければならない。

 そのためにも策が必要だ。何か使えるものはないものか……王は数年後に迫ったタイムリミットに焦る想いで城下町を駆け出した。





「………帝国の侵攻は果たして歴史を変えるのか…それとも歴史のほうが帝国を突き上げて動かしているのか」





 王は人混みに紛れた中で、人知れずそんな独り言を呟いた。






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