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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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────フーシェ


 俺は訓練場に連れてこられた。そこには信じられない光景があった。




 …何で俺の親が、そこにいるんだよ……




 父は顔が恐怖のあまりガクガクと歯を鳴らしながら、冷や汗が頬を伝い全身がブルブル震えていた。


 どうしてだ。どうして父が捕まらなければならない。

 俺は父には報告しなかったが、この馬鹿を通して報告されたはずだ。父が罪に問われる理由などないじゃないかッ!!


「では、お前達の罪を教えてやろう。まず、そこの小役人だ。お前は罪の自覚があるように見える? 違わないか?」


「……はい。私は此度の騒動について事が起こるまで何も知りませんでした。それが私の罪です。この集落のことを事前に把握するべき立場にありながら、何も知りませんでした。……申し訳ございません」


 ………嘘


 ……俺が父に報告しなかったことが…罪になるのか?


「よかろう。お前の言う通り、それがお前の罪だ。本来なら罪を少しは軽減出来たが此度は事が大きすぎた。もはや庇いきれん。よって、お前は串刺しの刑に処す」


 ……ははっ。何だそれ。おかしいだろ。


 俺はちゃんと報告したんだぞ。それなのに、父が串刺しの刑だとッ!?


 ふざけんなッ!! 庇いきれいない罪って何だよッ!?


 俺は考え続けた。だが、その間にも帝国の上層部の士官と馬鹿な教師との、言葉による罪の確認が行われていた。 

 俺はコイツの馬鹿さぶりわかっていたので、大半は頭に入ってこない。

 この状況を何とかしなければ……


「そうか。それがお前の答えか。…では聞こう。お前の後ろのあの光景はどう説明する?」


 俺は、教師に問われた言葉だったにも関わらずに後ろを振り向いた。

 その光景は、これから収穫を行うはずだった小麦畑が、延々と燃え広がっていく信じがたい光景だった……


「これがお前の罪の結果だ。我々の予定では小麦畑には被害を与えることなく、悪の根を狩り取ることだけが目的だった。それなのにお前が逃亡を許したばかりに、このような結果になっている。馬に乗った逃亡者が住民達に逃げるように混乱に陥れ、さらには馬に乗って逃げるようにと逃亡幇助(とうぼうほうじょ)を行っていたそうだ。混乱した住民や逃げようとした者が、小麦畑に火を放ち我が軍の統率を乱そうとしたことは明白。さぁ、こうなった結末の責任は誰にある…答えよッ!!!」


 自分が聞かれていないにも関わらず、その言葉がまるで俺に言っているかのような感覚になった。

 もしかして、俺が……俺が、報告なんてしてしまったから……


「た、確かに私にも責任の一端があるかも、しれません。ですが、その責任は些細なミスからなので、それが死に値するようなこととは……」


 グンッ!!


 最後まで言い切る前に教師は胸ぐらを掴まれ、士官から激しい睨みを受けながら宙に浮く。


「お前は陛下の偉大な畑を何と心得るッ!? 恐らくこのまま延焼が続けばこの地の収穫は壊滅的な被害だッ! この小麦だけで帝国の前線にどれだけの兵糧を送れると思っているッ!? それが全て壊滅してしまっては、一部の前線は引き揚げざるを得ないことにもなりかねないのだッ!! お前の死は単なる処刑では済まされるものではないわッ!!!」


 


 あぁ、俺は何てことを…してしまったんだ。




 何て罪深いことを……




 教師の処刑が始まった。俺は処刑なんて見たくなかった…(うつむ)いてしまった。


 …だが、これが俺の罪への罰なら俺は見るしかない……。


 心を決め、その異様な光景を見上げ、それが目に焼き付いてしまった。


 ……な…何だよ…これ。


 これが処刑なのか。


 人間の尊厳を重んじる死なんて、そんなものは一切考慮されない死


 尊厳とは真反対。屈辱、恥かしめが死後付きまとう呪いの死


 …酷い、酷すぎる……。


 皮膚の焼ける臭いがこちらまで漂ってきた。


 父はその臭いを嗅ぐことで自分の死の恐怖が強まったのか、身体を縛られながらも吐き出してしまった。


 その嘔吐物が自分の身体にかかることも、もはやそれを厭う余裕すらなくなっていた……。


 身体が小刻みに震えている


 ただ、その光景を眺めていることしか出来なかった。


 いや、正確には……恐怖で身体を動かすことが出来なかった…




 ──※──※──※──




 もはや人の原型を留めていない遺体が運ばれていく。


 ……本当に、本当に父がこれから処刑されてしまうのか。


「では、これより役人の串刺しの刑を執行する。地面にその者を仰向けに横たわらせ、両足にロープをきつく結べッ! 身体の中心を串刺し用の杭で刺し通せッ! 力の限り押し通せ! 両足のロープを持つ者は思いっきり引くのだッ!!!」


 士官の合図で一斉に動き出した。


 父の上半身は縛られたまま無理矢理に仰向けにさせられ、両足にロープが結ばれる。


 両足が開かれ、その股の間には先端の尖った杭が置かれ、全部で九人の士官が三人ずつ配置についた。




「よし、引けッ!!!」




 股の間に杭が刺され、肉の杭が刺し通り、ミチミチッという音が聞こえてくる。


 辞めてくれ…


 どんどん血が溢れ、父の顔は苦痛のあまりに悶え苦しむ


 やめてくれ






「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」






 その悲鳴は聞きたくもない耳の中で、絶えず反響して聞こえてくるように永延と響き渡る。






 ………ヤメテクレッ!!!







 ブチブチブチブチッ!!!




「あ」



 ついにその杭は全身を貫き、俺のことを罵っていた口からは(とが)った杭が突き出していた…。




「よしっ、では杭を立ち上げよ!!」




 杭の突き刺さった身体は…すでに人では無くなっていた。




 串刺しの杭に刺さった…父だった何かがそこに刺さっていた。




 俺の両膝が地面に崩れ落ちた。




 もう、言葉で何かを訴えたくても訴えられないままに…父の無残な最後を見つめていなくてはならなかった。






 …あはは


 




 ……あはははは






 あははははははっ…アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!






 空は夕闇に覆われ、夜空に変わろうとする時に、誰かが後ろを歩いてきた。


「将軍。失礼いたします。今、現在を持ちまして、この集落の民、()()()()()()()、村の中央に遺体を集め終わりました」




 俺の…せい?




「そうか、ご苦労であった。では、これから移動を開始する。真の報告者の子供よ、お前も後ろをついて来い」




 俺が…報告したから?




「しかし、残念なことに一人は消息不明、もう一人は国境の川辺で死亡した士官を確認しております。後ろから農奴に槍のような物で刺されておりました」




 俺が…アイツらを……




「…ような物? というと、槍が無くなっているのだな。ということは……」




 嵌めようとしたから?




「はい。恐らくそれを持って逃亡した者がいるかもしれません。隣の国へ」




 俺が




「厄介なことになった。小麦もほとんど壊滅。さらに隣国への逃亡者か。唯一の救いは、報告者の子供が”生き残った“ことだな」







 “生き残った”?













 違う













 俺は

































 “生き返った”んだ……
















 あぁ…




 思い出した




 全て思い出した




 ……俺は生前、幾らでもこんなことをしてきたじゃないか。そうやって、生き残ってきたじゃないか。


 何を悲しむ必要があった。いい子ちゃんだった俺よ?


 だが、ほんの一握りのいい子ちゃんで善なる部分の俺が、激しい悲しみと耐えがたい自己嫌悪、今まで(さげす)み、蔑まれてきた父の死を目撃したことで、深い深い感情の奥にいた俺をその衝撃的な刺激を持って、本当の俺を目覚めさせてくれた。


 ここまでの俺に礼を言いたい。よく頑張ってきたと。




 よくあの父親を策略を持って




 ……裏切り殺したと




 それが俺の生き様だ。裏切りの人生だ。そうだろ?


 後は俺に任せろ。俺はこういうドン底から這い上がっていくのは得意だぜ。


 俺の頭脳と経験とこの狡猾さがあれば、どんな国だろうと裏から操ってみせる。




 ──※──※──※──




「遺体に火を放てッ!!!」


 先程の処刑を統括していた奴とは違う、二番目ぐらいに偉そうな目の前の奴はそんな合図を持って命令した。


 …あぁ、燃えている。全ての人だったものが燃えている。


 ……母だったものも燃えている。


 ………”物“と呼ばれていた自分と年の変わらないものが燃えている。


 懐かしい光景だ。思わず感慨深くなった。


「子供よ、お前はこの光景を見てどう思う?」


 質問をされた。こんな堅物の奴にはこう返す。


「至極当然の結果です。この地の民は、皇帝陛下の意向に沿わない行動をしようとしていました。その過ちを正してこそが帝国人民たる者の姿かと」


「おぉ、素晴らしい答えだッ! この中にはお前の父や母たる者もいたはずだ。それでもお前は悲しくないのかッ!?」


「はい、先ほどの役人は私の父です。私は父にも報告しましたが父は私の言葉を真実だと捉えませんでした。なので、仕方なくあの低能な教師に報告せざるを得ませんでした。私は父が正しい判断をしてくれなかったことを悔やむだけです。その死には何も想うところはありません」


「よろしいッ! お前に宰相閣下がお会いしたいと言っていたが、万事つつがなく物事が運ぶように私も力を尽くそうッ!! 子供よ、お前の名を教えてくれ」


「フーシェと申します」






 俺は心の中で呟いた。





 “私の名は、ジョセフ・フーシェと申します”






 かのフランス革命期に暗躍した一人の男がいた。

 その男は自分の派閥を裏切り、寝返った派閥トップだった“フランス革命の清廉の士”ロベスピエールをも誅殺した。

 皇帝ナポレオンをも何度も何度も味方のふりをしては(とぼし)めた男。

 フランスという国を裏から支配した”政界のカメレオン“が…今ここに、真の転生を果たした。




 転生者で最初の歴史上の人物はジョセフ・フーシェです。何となく気付いていた方もおられるかもしれません。


 彼の場合はすでに名前がヒントになっていたり、作中でも「……」と、誰か見ているという尾行行動からして、フーシェのイメージに基づく怪しさ満点の行動でした。


 フーシェと聞くと、スパイや警察、情報収集という単語が連想されるかなと思ってこういう動きをさせていました。途中から名前もあまり出さないようにしたのも、彼の怪しさを引き出したかったからです。


 カイもフーシェという名前から、彼がもしやジョセフ・フーシェではないかと連想しました。途中あれだけ焦っていたのは、それだけ彼のヤバさがわかっていたからです。

 自分も転生者だから、もしかしたら……という可能性を考慮してのものです。


 ジョセフ・フーシェの場合は自分が転生者という自覚がないパターンの転生者で、自分が誰であったかを思い出したので、本来の能力が呼び起こされます。その頭脳の回転の速さは、これからカイを苦しめていくことになるかもしれません。


 裏切りと聞くと松永久秀や宇喜多直家、呂布、ブルータス、等々沢山の人物が思い浮かびますが、ジョセフ・フーシェの人生もなかなかの裏切りの人生です。


 そのことを上手く表現していきたいなと思います。ただし、残念ながら当分出てこないと思います。

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