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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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フーシェ 二

 村の中心部から離れると森が見えてくる。

 森に入ると本道の脇に小さな道があり、今の時期のこの時間は、誰もこの森の脇道を通ることはない。

 アイツらは何でこんなところから帰っているんだ?

 本来の帰り道を迂回するように帰っている。決まっている。アイツらは誰にも会話を聞かれたくないからだ。

 これは尾行してきて正解だった。会話を盗み聞きするしかないな。

 俺は以前からアイツらの会話を尾行して盗み聞きをしていた。一年程前からだ。

 何とかして奴らの弱みを握ろうと必死だった。


 今までで一番使えそうだったのは、奴らが他国へ興味を持っているってことだ。

 他国を見てみたいという会話をしていた。俺はこれは使える情報だと思い、早速、自分の父に報告した。

 奴らを(とぼし)めることが出来ると判断した。


 だが、父は実の息子である俺の言葉を信用しなかった。

 いつも成績で奴らの下にいる俺が、奴らへの妬みからありもしないことを嘘をついて報告したとこっ酷く怒られた。

 二度とそんなことを人前で話すなと言われた。

 以来、俺は父に報告をしていない。ただ、奴らの弱みを握るためだけに機会を(うかが)っては尾行をしている。

 奴らの苦手なことでもいい、それを餌に脅してやれば俺に座学で一位を取らせろとでも言うつもりだ。


 アイツらの声が聞こえる一定の距離をとりながら、森の茂みを上手く使って身を隠しながら移動することで、アイツらの会話を盗聴した。




 ──※──※──※──




 何てことを考えてやがる……。この村がいつか隣の国を攻め込む拠点になるだって。

 アイツの思想は危険だ。狂ってやがる。そんなこと憶測で農奴の子供ごときが考えていいものじゃない。

 もし、そんな考えが村で広がったら、もしそれが商人の耳に届いて隣の国に伝わり、こちらの国を敵視して向こうから攻め込まれでもしたら………。

 これは大変なことになるかもしれない。座学で1位を取らせるように脅そうと思っていたが、それどころの話ではない。

 こんなこと父に言ったところで相手にされるはずがない。

 どうすればいい……。アイツの危険な発想をこれ以上広めないためにも、何とか街の役人に伝えられる手段はないだろうか……


 ……そうだ。普段は使えない教師だが、カイ達が他国に羨望を持っていることを伝えれば、動いてくれるんじゃないだろうか…。

 今回の話しの“いつか隣の国を攻め込む拠点になること”を報告し、それが帝国の上層部の耳に届いたら真っ先に危ない村として滅ぼされるかもしれない。

 でも、カイ達自身が他国に憧れがあるって話しだと、アイツらだけに限定されて処罰が下されるんじゃないか?


 そんなことを考えると、自分の内側にある腹黒い感情が膨れ上がってきた。

 ……もし、これが上手くいけば、アイツらは処罰されて街行きも取り消されるかもしれない。

 そうすれば、アイツらが今後も座学一位と二位を取ったとしても、街にも行けない奴の順位は関係ないと見なされて…俺が実質的な一位を取れるんじゃないか。


 フッフッフッフ。


 想像しただけで顔のニヤけが止まらなくなってきた。

 さぁ、帰ろう。カイとハイクの特訓を覗いている間に良い考えが(まと)まった。

 奴らの帰宅に合わせて俺も帰ることにした。




 家に帰りドアを開けた直後……


 …バチンッ!!!


 昨日よりも強いビンタが頬に容赦なく飛んできた。


「どこに行っていたッ!? こんな時間まで何をしていたッ!?」


「…申し訳ございません。学校に残り勉強に励んでおりました。詳しくは先生にお尋ね下さい」


 嘘だ。でも、この嘘は問題ない。いつも遅くなった日はこれで誤魔化している。

 なぜなら父とあの教師は仲が悪い。わざわざ確認を取ることはない。

 これまではなかった。これからもないだろう。


「そ、そうか。ではさっさと家に入って勉学に励め! どうせ今日も一位を取れなかったんだろうッ!? さぁ、勉強だッ! 勉強ッ!!」


 ……こんな大人になりたくないと思った。

 勝手に理由も聞かずにビンタをし、憶測で今日も一位を取れなかったと決めつける。

 最低じゃないか……


 言われた通り自分の部屋に入る。

 だが、今日は勉強をするつもりはない。

 どうせ、俺の部屋に俺がいるかなんて確認に来ることはない。


 両親が寝静まる頃を見計らって、窓から家を脱出し、夜道の音をたてないように学校に向かう。

 幸い、この村のみんなは寝ている時間帯だ。物音さえたてなければ何も問題はなかった。

 学校の門は、基本夜も閉まっていない。一階の扉も開けっ放しだ。

 だから俺は朝一番で学校に着いても、いつでも教室に入って勉強が出来ていた。

 多分、このことを知っているのは俺と教師と、先生役の兵士のアリステア先生だけだ。

 学校に一番乗りをしていた俺だからこそ知ることが出来た…実に甘い警備の実態だ。


 ドンドンっ、ドンドンっ!


 あの教師は寝ていることしか能がない。だから、絶対に起こす意味でも強めに戸を叩いた。

 アリステア先生も学校に住んでいるが、この教師はアリステア先生とも仲が悪いため、二人の寝室は離れている。

 これぐらいの音なら気づかれないはずだ。戸が開かれる。


「お前……こんなところで何してんだ?」


 寝ぼけた顔をしていたが、俺の顔を見た瞬間に驚愕した。そりゃそうだ。

 普通なら俺は報告しなきゃいけないことがあるなら、役人の父に報告する。

 その過程を全くないものにし、教師のもとに報告に来ているんだ。驚くのも当然だ。


「報告があり参りました。この国を混乱に貶める者が現れました。その者たちの名は、カイ、ハイク、イレーネです」


 そう言うと、教師は機嫌を良い顔に変わった。


「おい、詳しく聞かせろ」


 教師のご機嫌を取ることに成功し部屋に招き入れられた。




──※──※──※──




 席を勧められ、教師が席に着いたことで、安心して俺も席に着く。


「さぁて、どういうことか教えて貰おう」


 俺は早速、先程考えておいた理由を述べる。


「はっ、奴らの帰り道を尾行し奴らの会話を盗み聞きしましたところ、奴らは帝国からの逃亡の危険性、及び、他の国に羨望の眼差しを向けております。奴らの思想がこの村全域に広がれば、王都からの精鋭部隊によりこの地域一帯が火の海となることでしょう。そうなる前に皇帝陛下の御前にこの一報を届け出ることで、事前に反乱の思想の芽を摘むことが出来るでしょう」

「ほうほう」


 今のところは、教師の機嫌は損ねていない。気持ち悪い笑みが先程よりも深まっている。


「なぁ、()()()()()()?」


 まぁ、そうくるだろうな。だが、俺は家庭内の内情をツラツラと語る気持ちはない。

 馬鹿な教師にもわかるように、ゆっくりと顔を上げて教師の顔を見据えて口を開いた。


「その方が、私もやり易かったからです」


 一瞬、不可解な顔になったが、こちらにも利があって報告したことをわかってくれたようだ。

 すぐに書状を送るという言葉に安心した俺は、不敵な笑みを浮かべた月明かりの下、満足しながら家に帰っていった。



 フーシェにはフーシェの正義感のもと報告しました。彼のうちに腹黒い部分がありましたが、それでも彼は村の危険を危惧して行動をしました。カイにはカイの正義感ゆえに、幼馴染二人に戦いの前線になる可能性を伝えました。


 結果はフーシェの予想通りにはなりませんでした。帝国の思惑があったからです。しかし、フーシェはその事を知らなかったために、彼の腹黒い希望とは裏腹の全く望んでいない結末が訪れます。


 恐らくフーシェの話しはあと2話で終わります。

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