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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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とある教師の視点 一

 ついにこの日が来た。……やっと、やっとあの忌ま忌ましい子供(ガキ)共に罰を下すことが出来る。

 この一週間どれほど楽しみにしていたことか。

 一昨日、街からの知らせで陛下がアイツらの処罰のために軍を派遣してくれたとのこと。

 これはつまり、俺のことを高く評価して頂けたから、わざわざこの村に重要な軍を派遣してアイツらの処刑をしてくれるってことじゃないかっ!?


 そう考えただけで今日は朝から気分が高揚している。教室に入り、ついつい終始にやついてしまった。

 アイツらのあの顔が、もう少ししたら絶望の表情に変わることを想像しただけで我慢できなかった。

 アイツらも怪訝な顔をしていたが、どうせこれから何が起こるかなんて子供の頭にはわからないだろうな。

 …死の訪れるその僅かな時を、せいぜい楽しむんだな。


 ……グハハハッ、グワッハッハッハッハッ!!!


 俺は自分の部屋に戻ってから高らかな声を上げた。いやぁ、愉快愉快。

 早くアイツらの泣き面を拝みたいもんだぜ。俺は机の脇の棚に飾ってあるものに目をやった。

 今日はずっと大切に取って置いた、秘蔵の酒を夜にでも飲むつもりだ。祝杯にうってつけだ。

 この後の俺には、こんな村からおさらばして栄光ある出世街道が待っている。

 自分への前途の祝福を贈るのにうってつけの日だ。


「俺は今夜、自分への祝い酒を飲む予定があるんだが、お前にも褒美に少しは飲ましてやってもいいぞ。その歳じゃあ飲んだことなんてないだろう。どうだ?」


 朝から俺の部屋で待機していたコイツを誘う。別に俺が朝からコイツを呼び寄せた訳じゃあない。

 一昨日の街からの知らせの中に、報告者を匿うようにという指示があった。

 俺が報告者だが一応コイツも報告者になる。何で匿う必要があるか分からなかったが、俺の部屋にコイツを朝から置いている。


「いえ、結構です。それよりも今日が決行日なんですよね?」


 いけ好かなねぇ奴だ。けっ、何度も何度も聞いてきやがる。


「…あぁ、何度も言ったが今日来るのは間違いねぇ。だからお前は今日ここで待機だ。わかったな」


 俺はコイツとの会話を打ち切り、事が起きるまで寝ることにした。




 ──※──※──※──




 ユサユサッ、ユサユサッ


 どんぐらい寝ただろうか。誰かが、俺を揺さぶって起こそうとしている。

 ……うぅ、俺は寝ぼけながら目の前の人物を見た。…あぁ、コイツか。

 何だよ、まだ寝かせろよな。


「おい、何で起こしやがるっ!? せっかく人が気持ちよく寝てたってのにっ!!」


 俺はコイツに怒鳴る。そりゃあ、そうだろう。人の眠りを邪魔されたんだ。怒りたくもなる。


「起きてくださいッ!! 村の北で狼煙が上がっていますっッ! こんな事が起きるなんて聞いていませんッ! 予想外の事態が起こっているかもしれませんッ!!」


 コイツは窓の外を指差している。俺は眠い目をこすりながら窓の外を見る。

 ……何だ? 確かに狼煙っぽいもんが見えるが、別にここに軍が到着した訳じゃあねぇし関係ないだろう。


「おい、そんなに騒ぐことでもねぇだろう。まだ軍も到着してねぇんだ。お前は、お偉方の軍がここの敷地内に着いたのが見えたら、俺を起こしてくれりゃあいいんだ」


 もう一度寝ようとする俺をコイツは引き留める。


「異常事態ですッ! よく耳を傾けて外の音を聞いてくださいッ!!」


 ああんっ? 外の音を聞け? しょうがなく俺は耳に人差し指を突っ込んで、耳の中の垢を取ってから耳を澄ましてみる。


 ………叫び声が微かに聞こえてくる。どういうことだ? 集落の農奴共の悲鳴か? 

 まぁ、多分お偉いさんの不興を買うような何かをしたんだろう。

 礼儀を知らねぇ連中だ。当然の報いってもんだ。


「きっとお偉方の気に障るようなことをした奴がいるんだろう。気にすんな、座っとけ」


 だけどコイツは”しかし…“なんて言って、一向に座る気配も見せない。

 あぁ、面倒くせー。俺が頭を掻きながらコイツの言うことを聞いていると…


『みんなぁぁぁぁぁ、逃げろぉぉぉぉぉ!!逃げてくれぇぇぇぇぇ!!』


 …ッ!! これはアリステアの声かッ!! 何でアイツの声が聞こえてくる? 

 アイツは今頃、子供(ガキ)共の授業中じゃあないか。…何がどうなってんだ?


 俺は少し気になって窓の外を眺める。

 ……んっ? あの忌まわしい子供共は何やってんだ? 

 馬を整列させて何考えてやがる。他の子供もどこに行きやがった。

 そんなことを考えていると…あの頭でっかちの子供が馬を牧草地から放ちやがったっ!


「あの野郎っ!! 何考えてやがるっ!?」


 馬はその次にいた生意気な小娘のところまで走り、学校の門のところにいた体術しか能がない馬鹿のところまで走ると、左右に数頭ずつ走らせて残りの馬で真っ直ぐ逃げて行きやがったッ!!


「…あぁッ!! 逃げられてしまいますッ! 一刻も早く追わないと、我々の命も危ないかもしれませんよッ!?」


 コイツは俺の袖を掴んで訴えてきやがる。コイツに掴まれていた方の腕を振るって、俺はコイツを思いっきり床に飛ばした。


「うるせぇッ! 大丈夫に決まってんだろうがッ!! お偉方の軍が何とかしてくれるに決まっている。それに俺らは待てって指示も貰ってっから、何もしなくても平気なんだよッ!!!」


 俺に指示を出そうなんて、何様のつもりなんだとブチ切れる。

 俺は教師だ。お前らの先生だ。立場をわきまえてから言え。

 お前よりも人生経験が豊富な大人に言うことじゃあねぇだろうが。




 コンコンッ、コンコンッ




 俺は怒りに震えながら、俺の部屋にノックしてくる誰かに気づく。

 もしかすると、お偉いさんか? 俺は急いで扉の前に行き、失礼のないようにドアを開けた。


「お待ちしておりました。私がこの村の教師を務めている者です。遠いところからわざわざ軍を率いて悪しき者を討伐して頂けること恐悦至極に存じます」


 俺は今まで使ったことがないほどに、顔の表情筋を満面の笑みに変えながら、お偉いさんに挨拶をする。

 …失礼のないようにしないとな。


「お前がこの村の教師で、此度の騒動の報告者で間違いないか?」


「はいっ! そうでございます!」


 俺は勢いよく答えた。印象を良くするためにハキハキと言った。

 目の前の偉い士官は顔を拭いながら俺を見た。

 …あれ? 少し唾が飛んでしまっただろうか?


「では、お前の後ろにいる子供が、此度の騒動の発端を見て報告をした真の報告者で間違いないか?」


 真の報告者? いや、報告したのは俺だ。コイツが言ってきた密告を、俺が兵士の一人に命令して報告したんだから、俺が真の報告者だろうが。

 ちょっと勘違いをしたお偉いさんに、きちんと事実を知ってもらうために俺は言葉を返す。


「お言葉失礼致します。私がこの者からの密告を受け、それを重大な事態だと踏まえて、急いで陛下に伝えるべきだと冷静に判断し、集落の兵士の一人に密告書を渡し早馬を走らせました。そういう意味では私が真の報告者です」


 俺はニンマリと笑いながら正しい事実を報告した。

 さぁ、これで俺の評価はさらに上がったことは間違いないな。

 グッハッハッハ…俺は俺の心の中で自分を褒め称える。


「……そうか、確かに重大な事態だったし、さらに重大な事態になったな。では、お前の役目はここまでだ。この能なしを訓練場に連れ出せッ! 後ろの子供は手出し無用だッ! この子供も一緒に訓練場に丁重に連れていけッ!!」


 目の前のお偉いさんがそう叫ぶと、お偉いさんの後ろに控えていた二人の士官になぜか俺は捕らえられたッ! 

 どういうことだッ! 何がどうなっているッ! 勘違いをしていないかッ!?


「士官様ッ!? 何か勘違いをしておられるかと! 私は陛下の忠実な臣下です! この村の子供達に陛下の偉大なる教育を施して参りましたッ!! 今回の報告も私の手柄です! なぜ私が捕われるのですかッ!?」


「お前は自分の罪を自覚していないのか? これだから集落の教師止まりの能なしは……。まぁ、よい。後でじっくりとお前の罪を教えてやる。おい、こいつを早く連れて行けッ!」


 俺の罪だとっ!? 俺が何をしたってんだ!? 俺は何も悪いことはしていない! 誤解だ!! 

 …だが、俺が幾ら自分の無実を叫んでも、両脇を抱え上げて俺を連行する士官は何の反応も示さない。

 クソッ!! 何がどうなってんだ!!

 教師視点の話しです。もうお気づきかと思いますが、誰かの視点一は教師の視点でした。


 次はグロいので苦手な方はお控えください。

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