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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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ツンデレと天然ジゴロ

 小麦が収穫を迎え、よく実った穂を揺らしながら、待ちに待った収穫を皆んな心待ちにしていた。

 しかし、収穫は訪れることはない。紅い炎に包まれて、徐々に大地の色を塗り替えていく。


 小麦さん達に悪いことをしている罪悪感はある。ごめんなさい。

 でも、その小麦が帝国の手に渡るくらいなら…いっそ燃やしてしまった方が、父さん達が一生懸命に日々作ってきたものを奪い取られずに済む。

 それに、こうすることで敵の目をこの小麦が燃え広がっている方に集中させることが出来る。

 敵が消化活動を優先してくれれば御の字だ。そうすれば、少しでも逃げれる人が増えるかもしれない。

 おじさん達も、今頃は向こうの国に着いているだろうか。


「ハイク、ありがとう。僕の気は済んだよ」


「あぁ、俺も胸がスカッとした。いい役目を貰って嬉しかったぜ。…ありがとうな」


「えぇ、とっても、ね。敵もこれで大分困ってくれると嬉しいわね」


「大いに困ると思うよ。時間を取らせたね、それじゃあ行こうか」


 こうして僕の家から立ち去り、おじさん達とは違う場所から渡河を試みるために移動を開始した。




 ──※──※──※──




 国境の川沿いにきた。

 ここは師匠と修行をした場所、師匠と初めて会った場所……そして、師匠に魔法を教えて貰った場所。


 ………師匠、僕の魔法は何で使えなかったんですか? …僕の何がいけなかったんでしょうか? 

 心の中で、つい疑問に思っていたことが浮上してしまう。

 …けど、今はそんなことを考えている暇はない。早く渡河をしなければ。


「カイ? 本当にこの場所から川を渡っていくの?」


「うん、ここも川の浅瀬になっている場所なんだ。この川沿いを小さい頃から色々と調べていたから間違いないよ」


「あれ? ここってたしか、俺達で色んなことを話した場所じゃないか?」


「そうよ。だから私はこの場所なの? って聞いたの。まさかここが浅瀬になっているなんて……」


「意外だよね。あの橋から左右それぞれにおよそ三km程のところだけ、なぜか浅瀬になっているんだ。不思議だ。大体同じようなところに浅瀬があるもんなのかなって考えて色々調べたけど、何もわからなかったよ」


「カイは本当に変なことに興味抱くよな」


「川よりも不思議なのはカイってことよ。それよりも早く渡りましょう。どういう順番でいくの?」


「二人共、言葉の鋭さが研がれてきたね…。先頭はハイク、中継はイレーネ、最後に僕だ」


「……お前が一番後ろなのか?」


「うん。この中で武器との相性が良くないのは僕だ。敵の槍だから良い物だと思うけど、長さも長くて今の僕には手に余る武器だ。僕は戦力にならないだろうね。僕が先頭と中継にいても役に立たないんだ。もし向こうの国に着いて、いきなり襲われてしまったら元も子もないからね。だから念のためにハイクが先頭だよ。本当は丁度いい長さの槍を持ったイレーネが前のほうがいいんだけど、ハイクが先頭を切ったほうがイレーネも僕も渡河がしやすいと思う。それにハイクの弓なら上陸したてでも大抵のことはこなせるでしょ? それにアルに乗りながらの渡河だから、何かあっても弓で矢を放つことが出来るしね。……僕は後ろに警戒を払う。だから安心して前だけを進んでね」


 僕は家を出る時、父さんの槍を貰い受けようとしたけど、槍を固く握っていたため取れなかった。

 僕には丁度いい長さで良かったんだけどね。剣を持ってる敵も同じ状況だった。

 そんな中、敵の持っていた槍はすんなりと手に取ることが出来た。…しかし、欠点があった。

 信長やアレキサンダー仕様とは言わないまでも、かなりの長さの槍で今の僕には邪魔なくらいだ。

 でも、今は贅沢を言っていられる状況じゃない。利用できるものは利用しないと。


「なるほどね。カイの言ってることは最もだわ。本当は使いやすい槍を持った私が前にいたほうがいいのに、役に立てなくてごめんなさい」


「そんなことはないよ。イレーネの槍のおかげで僕は命を助かった。ありがとうね、イレーネ」


「ふ、ふーん。そ、そうね。確かに私のおかげでカイは助かったもんね。…べ、別にカイのためってわけじゃないんだからねっ! ハイクが困ってても、私は槍を振るったわ!」


 ……やっぱりイレーネはツンデレだったんだね。確信した。

 でも、僕はそこで“キュンっ”となるタイプではないし、何よりイレーネは家族として見てるからね。

 恋心なんてものは芽吹くはずがない。前の世界でも女の子とお付き合いなんてしたことがないから、そういう感情がわからないんだよね。


「そっか。ありがとうな。イレーネ」


「…ッ!? べ、別にハイクじゃなくても、他の人が困ってたら誰でも助けるんだからッ! 勘違いしないでよねッ! ふんッ!」


 ハイクは天然ジゴロだね。

 そんな眩しい笑顔でニコッてされて褒められたら、誰だって勘違いすると思うよ……


「それじゃあ、そろそろ行こうか。ハイク、先頭頼んだよ」


「任せろッ! 俺の歩いてきた後をよく見てついて来いよ!」


「気をつけてね」


「あぁ!」


 ハイクは威勢のいい啖呵を切りながら、川に入り込む。

 もちろん、ハイクの愛馬のアルに乗って。アルが入り込み、徐々に水深が深みを増す。

 ハイクの足も少し川に入り込む。ある程度進むとそれ以上は沈まなくなった。

 アルの首元辺りが水深の上限か…やっぱりそこまでここは深くない。よし、ここなら大丈夫だ。


「イレーネ。恐らくあれ以上は水深が深くなることはないよ。だから安心して渡河をして貰って大丈夫。…さぁ、頑張って」


 そう言って僕はイレーネの背中を優しく押した。


「えぇ。カイも気を付けて後ろをついて来てね」


「うん、気を付けてついて行くよ」


 イレーネも愛馬アイリーンと共に川に入り込む。

 ハイクも、もう川の真ん中まで進んでいる順調だね。

 僕も黒雲に跨がり、川に入ろうとする。






 ……だが、黒雲は僕のことをなぜか蹴り飛ばした。






「……えっ?」








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