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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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棲家

 まじまじと全身を細かく精査するように眺めた後、肩を落としながら告げる。


「…君があの男の推薦してきた人物か。そこまで大したようには見えんが、どの位の実力がある?」


「じ、実力ですか?」


 そう問われると難しい。なぜなら僕はそもそもの基準をよく理解していない。

 自分が平均的なのかすら判別出来ない状況だ。


「こいつはジャイアント・グリズリーを一人で倒せる実力者だ。それにベヘモトを討った大半の功績はこいつのおかげだ」


 ヨゼフが補足して説明してくれる。しかし、その言葉に真っ先に反応したのは当の質問を求めた人物ではなかった。




「…な、何ッ!? ベヘモトだとッ!?」


 叫んだのは副ギルド長だった。驚いたまま顔は硬直したままだ。


「…ほう、それはもしかしてだがルントシュテット領近辺での出来事かね?」


「そうだ。魔石も亡骸も残らないだけの威力の魔法でな」


 そう言ってポンッと丁寧に机の上にある物が置かれる。

 それは粗布で巻かれたベヘモトの皮膚の破片、僅かばかりにまだ獣臭さと焼けた臭いが鼻をつく。


「…なるほど。どうやら本当に推薦されるだけの実力は有しているようだ。先程の非礼を詫びよう」


 言葉では謝罪を言ってはくれたものの、頭を下げてまでの非ではないようだ。

 静かに滔々と話しを続けようとするが、こちらからすかさず口をはさむ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。ベヘモトって呼ばれるあの河馬の魔物ってそんなに強い魔物なんですか?」


「このギルドで真っ向勝負で勝てるのは片手で数える程度だろう。ましてや魔石やあの強靭な肉体を残さずまでの処置が出来るなど、相当な魔法使いでないと無理だ。…古代の名を冠する魔物だからな」


 …古代? あっ…そっか。そういう意味か。


 前にシャルルが魔法の説明をする時に言っていた。

 言葉が古くなれば魔法の威力が変わると。

 つまり…それは魔物相手にも同じって事か。

 ヘブライ語でベヘモトの名を示す魔物なのだから、それだけ厄介な魔物だと捉えられているようだ。


「本来なら大人しく無害な魔物なのだが、精神的負荷を与えられると酷く混乱して凶暴化し人に危害を与えてしまう。例えば今回のように棲家を追われてしまったりな」


「…棲家を追われる? と言うと本当は別の場所に住んでいたと?」


「あの一帯にいたベヘモトは、元は別の場所に生息していた。アレはな…アルデンヌ領とルントシュテット領の境を流れる川にひっそりと住んでいたのだ。だが、アルデンヌ侯爵の灌漑工事が失敗に終わり…川は荒れに荒れて大氾濫を起こし、ベヘモトは森の中に逃げ込んだのだ」




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