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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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どうして

 僕は父さんと母さんのもとに駆けながら、敵のことを考えていた。

 敵は二人か…。イレーネの両親は首筋を恐らく剣で斬られ、ハイクの両親は槍で腹を貫かれたと思われる。

 そして、一人は手負い。しかも傷は深いはずだ。

 ハイクの父さんの槍の穂から(つか)の先の部分まで赤く染まっていた。

 つまり、敵の身体の一部分を思いっきり刺し通したってことだ。

 それを裏付ける証拠に、ハイクの家を出てから、道に血の跡が点々と続いている。

 敵はそのまま僕の家に向かったようだ。急げっ!




 僕の家が見えてくる。あともう少しだ!家まで血の跡も続いている。






「キャ────ッ!!」






 …ッ! 母さんの声だッ! 急いで、黒雲ッ!! 


 黒雲も全力で駆け出す……頼む、間に合ってくれッ!!


 家の戸は空いている。黒雲が家の前に着くと同時に僕は黒雲から飛び降り、家の中に乱入しすかさず叫んだ。




「……母さんッ!!」




 僕は母さんを呼んだ。

 だが、母さんは僕の声を聞いて安心するどころか…なぜ来てしまったのかという視線を送ってきた。






「カイッ! 逃げてッ!!」






 …グサッ!






 ……ザシュッ!






 ……その瞬間。僕は見てしまった。






 父さんと帝国の士官が差し違えるところを。


 父さんの槍は相手の心臓を貫き、恐らく槍を持った敵兵は…そのまま命尽きるだろう。


 ……だが、父さんの腹部に敵の槍が刺さり、父さんも深手を負っている。






「………グハッ!!」






「…父さんッッ!!!」






 父さんは口から血を吐き出した。


 ……このままじゃまずい、早く手当てをしないとッ!!


 だが、もう一人の敵が…僕の方に向かって迫って来て、父さんに近寄る暇も与えてくれない。





「…死ねっ、悪しき子よッッッ!!!」





 敵が僕に向かって剣で斬りかかってきた。


 この位置では、父さんと母さんに魔法が当たる可能性がある。


 父さんと母さんを庇える位置に移動しないと…。

 

 僕はズボンのポケットの中から小石を拾い上げ、咄嗟に掴みあげた五個の石を敵に向かって勢いよく投げつけたッ!




「…チッ!」




 敵の左下から右上に斬り上げてきた斬撃の軌道が反れる。


 前髪を少し斬られたが顔は斬られていない。


 僕はそのまま敵の左手方向に回り込み、父さんと母さんの方に移動しようと試みる。


 敵が剣を右手に持っていた。…次は先程敵が斬り上げてきた剣を、そのまま斬り落としてくる斬撃を振ると予想を立て、左手側なら右手側よりも刃を振り下ろすタイムラグが長くて躱しやすいと判断したからだ。




 ……だが、甘かった。




 僕が左手側に素早く動き敵の左手付近に到達した途端、敵はその左手を使い僕の脇腹に重い拳の一撃を入れてきた。


 思いっきり殴り飛ばさた。


 物置部屋の壁に身体が当たり床にそのまま落ちたことで、背中にも衝撃が加わってようやくその動きが止まった。






「…ヴゥッ!」






「カイッ!!!」






 かなり強く腹にダメージを食らったらしい…。

 多分、内臓にも衝撃が伝わってしまった。

 ……ヤバい…僕も父さんのように吐血しながら、敵を睨みつけるのがやっとの状態になってしまった。

 床に頭を打って、額からも血が出てきた。立つのもフラフラな状態だ。目眩もする。




 …でも、ここで諦めてしまったら…父さんと母さんを救えないッッ!!!




 重い身体を奮い立たせて立ち上がった。

 しかし、身体は満身創痍な状態だ。このままだと僕達は一方的に殺されてしまう。


 ……だが、僕には魔法がある。

 この場所なら…父さんと母さんを巻き込むことなく魔法を敵に放てる。

 今の身体だとの状態だと…恐らく一回。

 全部を出し切ることを覚悟で二回……か。

 たったそれだけしか機会(チャンス)はない。

 ……外してしまったら、僕も、父さんも、母さんも死んでしまう。




 …僕が死ぬのは構わないッ!! 


 大切な父さんと母さんを守れるなら…僕はこの士官と相打ちで果てようとも後悔しないッ!!


 僕は自分の家族を守るんだッッ!!






 全神経を集中させて魔法を詠唱する。


 その途端、僕の身体が膜のようなもので覆わていく。


 その膜の色が徐々に薄い金色に輝く。




「何っ! 魔法だとっ!」




 敵は驚きの声をあげる。


 当然だ。未だ教えられていない魔法を、農奴の子が扱っているんだ。


 だが、もう遅い。紡ぎ出した詠唱は(とど)まることを知らないッ!




「…風の精霊よ。我が願いを聞き届け、我が敵を一掃せよ! 『風刃ウェントゥス・ラーミナ』ッッ!!!」




 身体を流れる渾身の魔力を、正面の敵に向かって放つ。


 僕の手から放たれた風の魔法は……











 ………天に吸い込まれるかのように……消えて無くなった…








 ……そ……ん……な…ど………う……し……て……








 ……僕は目の前の現実を呪いたくなった。






 何で、何で、何で、何で、何でだッッッ!!??






 何で魔法が消えちゃったんだッ! 


 クソッ! もう一度だッ! 


 ……次こそは当ててやる! これが正真正銘…最後の力だッッッ!!!






「火の精霊よッ! 我が願いを聞き届け、我が敵を燃やし貫けッ! 『火槍(イグニス・ランケア)』ッッッ!!!」






 ……だが、僕の魔法は消滅し…その残滓は上へ上へと向かっていった。






 僕はグテっとへたり込んでしまい、床に両膝を着いてしまった。




 


 ……そんな…どうして………どう……し…て………






「ハッハッハッ! 何も知らない糞子供(クソガキ)がッ!! お前の命もここまでだッ! さっさと死ねッッ!!」




 敵の凶刃が振り下ろされる。


 …しまった…思いもしなかった現実に、僕は戦う心を失ってしまった。


 身体が思うように動いてくれない。






 ………もう……避けられない……






 ………ズバッッ!!!











 え











 母……さん











 ……何で…母さんが目の前にいるんだ

 










 ……何で………母さんが目の前で斬られているんだ











 ………何で…母さんが……血を………流しているんだ………











「………母……さん」


 僕の意識も次第に活性化し始める。どうして…こうなった。


「母ぁさん」


 魔法があれば、大事な人を、守れるんじゃなかったのか。


「母さん」


 ……それなのに…どうして……僕の目の前で…何で母さんが倒れているんだ。











「…母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッ!!!」







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