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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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宿茶の毒

「……もう、泣き止んだか?」


「はい、父上…」


 シドンは泣いて腫れた目を袖でぬぐい、こちらに姿勢を正してシャルルに向けて片膝をつく。


「国王陛下。この度は…大変無礼な振る舞いをしてしまい申し訳ございませんでした。どうか…この卑しき愚民に重い罰を御与え下さい。それだけの罪を私は王とその御側近様へ示しましたから」


 初めて逢った時と全く別人のように、誠意を込めてシドンは謝意を表明した。


おもてを上げて下さい、シドンさん。…状況は把握しました。貴方はお父さんを守るために最善を尽くされていたのだと。だから、今回の件は不問に処します。その代わりに御二人ともう少し話させて欲しいです。そして、早く薬をラバヤ準男爵に飲ませてあげて下さいね」


 お洒落な返しだと感心する。もっと詳しく原因を探るために、あえてこの二人が喜びそうな返事と気遣いをするあたり、流石は賢明王と言ったところか。


「寛大な御心みこころと臣下への配慮ある御言葉に甘えさせて頂きます。…で、では御前で失礼致します」


 敬服し切ったようで、胸に手を当てながら深いお辞儀をする。

 すると、鍵付きの棚を開けると一つの陶器を取り出す。

 それから持って来た水に陶器に入っていた何やら黒い液体をニ滴ほどを投下する。


「それは一体、何のお薬ですか?」


「これは我が家と懇意な付き合いのある商人から二ヶ月前に買ったものです。何でも話しによると、この薬はとても貴重で特別な造り方だそうです。…王には感謝の念しかありません。私が商人から大金を払って知り得た造り方を御教え致しましょう」


 銀のマドラーで全体が均一になるように水を掻き回す。

 それなのにまだまだ深緑に近い色をしていた。どれだけの濃い薬なのだ…?




「これはとても高級な茶葉を濃縮した液体を造り、それから棒状の容器に入れて密封し、暗い土の中に埋めて四十日以上放置しておくと完成するようです」






 ……………いま、何て言った?






「これを毎日、飲み物に二、三滴垂らして飲むだけですこぶる体調が良くなるのだとか。……ですが、父上の体調は日に日に悪くなっていく一方で、本当にどうすれば良いかと悩んでおりました」





 上品なティーカップをおもむろに持ち、シドンはラバヤに近づく。






「さぁ、父上。お飲み下さい。きっともっと元気になりますよ」






「───ダメだッ!! …それを飲ませてはいけないッ!!」







 言葉より身体が先に動いていた。ラバヤの手に渡ったティーカップを払いけ、ベッドの上に放射線状に広がる黒い液体。

 数瞬、考えを巡らせている間に…ティーカップはラバヤの唇に添えられ、あと少しで口に入るところだった。


「ど、どうしたんだいカイ…そんなに慌てて」






「これは毒だッ!! 飲み続けたら七十日後には死ぬと云われる最悪の毒…あと十日も飲み続けていたら、ラバヤ準男爵はこのベッドから二度と起き上がれない身体になっていた……」


 ───宿茶の毒。これはかつて日本でも使われたと云われる暗殺用の毒薬。

 たとえ元気な者であったとしても、飲み続けたら死に至らしめる。

 茶に含まれる成分が時間が経つと有害なものに変化する。

 昔、宵越しの茶を飲むなとお婆ちゃんから聞かされたけど、それは古い時代から伝わる知恵だった。

 この毒は間違いなく知恵を悪用したものだ。


「そ、そんな…まさか私は父上にずっと毒を飲ませていたなんて」


 項垂れて床に両膝をついた。シドンは自身を責め、愛する父を苦しませ続けていた事への罪悪感に押し潰されそうだった。


「いや、シドン。お前は何も悪くない。お前は私を助けようと必死に動いてくれた。誰も近づけずにたった一人で」


 入室した際の違和感。これだけの立派な屋敷の主人が病に伏しているのに、誰一人も家人は主人のそばに控えず、人を避けるように閉め切った部屋。




「詳しくお聞かせ願いますか」

 



 忍者などが用いた毒です。筆者も昔、ちょっと時間の経ったお茶を飲んだ時にお腹を壊した事があります。

 お茶といえど怖いですね。

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