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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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帝国の商人

 賑やかな浮かれ騒ぎとは無縁だった宿屋に、微々たる声が数える程だが耳をくすぐった。

 

「人も来たようだ。俺らの本分を果たそう。地道な目立たない作業が英雄に近づくための一歩だからな」


 真面目な顔を引きずったまま優男は立ち上がった。そう言いながらも彼は後ろ髪を引かれる想いだったのだろう。

 瞳は石碑を凝視していたから。


「うん、頑張ろう。シャルルのためにも…この名も無き英雄が残してくれたこの国のためにも」


 誰にも知られないまま時を過ごし、古木の根に埋もれるような悲惨な末路をこの人だって望まなかったはずだ。

 ………いや、そうじゃない。この古木が優しく墓を包み込んでくれていたからこそ、僕達はこうして彼を知り得たんだ。

 

「悠久の時を生きた貴方にも感謝を。墓の守り手である貴方にも永遠とわの祝福が在らん事を」


 木肌に手を添えながら願う。そんな訳ないのに…古木の中を流れる水流がトクンッと音を立てて返事をしてくれたような気がした。

 こうして黄昏時の出逢いは終わりを告げた。


 宿に戻ると、一階の酒場にはやはり人の姿がちらほら見えた。そこには旅商人と思える装いをした男達がいた。

 あれは多分…帝国からの者じゃないか? 村にいた時に何度も見かけた商人の格好と酷似している。

 上品で滑らかな服、気立ての良さそうな目元、麗しい言葉しか告げなさそうな唇…全てが胡散臭い。

 

「クローさん…和尚さん…」


「…あぁ、わかっている。俺に任せておけ」


「危険じゃない…?」


「まぁのう。だが、ここで得られる情報もあるだろう。今は何かしら情報も掴むべきだ。立場が不利な我らが王を想うならな」


 大英雄の墓を眺めて感じ入るものがあったらしい。いつもの飄々(ひょうひょう)とした軽い態度なのに、目だけは真剣さそのものだ。


「拙者らは二階に行こう。其方に任せる」


「おう、任せとけ」


 危険な役目はクローに任せる。僕は帝国からの亡命者だし、元々シャルルの側近である和尚の身の上を考えるなら、帝国の商人相手には細心の注意を払うべきだ。

 すぐに主人に声をかけ部屋の位置を聞き出す。


「主人、悪いが拙者ら二人は先に部屋に行かせて貰いたいのだが」


「一番奥の角部屋を二つ使いな。奥ならこの酒場から遠い位置にあるから多少は人声も気にならないだろうよ」


「助かる」


 階段を昇る度に年季を感じる軋む木の床板。浮かび上がった木目が黒ずみ、この宿が古木と大英雄の墓と共に長い時を過ごしたのが耳と目を通して伝わってくる。


「やぁ、アンタは商人かい? ちょっと欲しい物があるんだが、いま少しいいか?」


 一階から気兼ねない威勢のいい声が聞こえてくる。無茶をしなきゃいいけどちょっと心配だな。




 362話のレビノス・べリンクに地図の挿絵を追加しておきました。もし良かったらご覧下さい。

 ラ・パディーン王国の領地の全体図も書いたので、王都に着いて紹介出来るタイミングで投稿したいと思います。

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