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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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べへモト

 それから夜は森の中で一夜を過ごし、人目につかないように行動し続けた。

 ただ、そうなると今度は別の問題にぶつかってしまう。


「おい、今度はそっちに行ったぞッ!!」


「ふんッ! 王を傷付けはさせんぞッ!!」


 ヨゼフと和尚が前線で大声を張り上げる。

 森も安全とは言えなかった。人ではなく魔物という存在が牙を向いてきたからだ。

 シャルルと僕とイレーネを中心に、前衛をヨゼフと和尚、後衛をハイクとクローの布陣で臨んでいる。




「ブオォォォォォッ〜!!」


 


「カイッ! 支援してくれッ!」


「…風の精霊よ。我が願いを聞き届け、我が敵を一掃せよッ! 『風刃ウェントゥス・ラーミナ』ッッ!!!」


 放った風の魔法は真っ直ぐに魔物に向かって飛んでいく。

 渾身の魔法であったが、魔物の厚く覆われた外皮の一部を抉るのが精一杯だった。


「ぜ、全然ダメージが入ってないよ…ヨゼフ」


「ベヘモトの皮膚は尋常じゃないくらい厚いんだ。ただ剣や槍を振るって勝てる相手じゃないよ、カイ」


 魔物の名はベヘモト。見た目はもろにカバだ。なんでこんな森にいるのかはわからないけど、どうやらこの世界では森で生きていても違和感のないものらしい。

 シャルルの冷静な助言により、身体を狙うのは悪手であるのがわかった。

 …なら、狙うならこうだ。


「ヨゼフ、囮になってくれる?」


「そのために前線を張ってやってんだ。…よく、狙えよ」


 きっと、ヨゼフは単独でも倒せるのだろう。それでもあえて倒そうとはしない。

 それはヨゼフの隣で戦う人物への僕達の有用性を示すためだろう。

 和尚は黙って戦い続けている。それでも鋭い視線は魔物とこちらを交互に見遣る。

 僕達がシャルルにとって…国にとって本当に益する存在になれるのかを見極めているかのようであった。


「わかった。ギリギリまで踏み止まってね」


 突如、動き出したべへモトがヨゼフに向かって突撃して来た。見た目に反した軽やかな移動速度から繰り出される重い巨体がヨゼフにぶつかった瞬間、彼の身体は空を舞った。


「ヨ、ヨゼフッ!?」


 悲鳴を上げたのはイレーネだった。しかし、過剰な心配であった。ヨゼフは咄嗟に槍の柄を構えて衝撃を抑えこんでいた。

 地に投げ出される形で倒れ、その時を待っていたとばかりにべへモトはヨゼフに急進していた。

 一度噛まれたらひとたまりもない強靭な顎に力が加わり、馬鹿デカい口の中があらわになった。


「今だ、やれッ!!」


「火の精霊よッ! 我が願いを聞き届け、我が敵を燃やし貫けッ! 『火槍(イグニス・ランケア)』ッッッ!!!」


 開かれた喉元に向けて火の槍が一直線に放たれる。円状の黒い穴に吸い込まれるように、べへモトの内側に火焔が飛んでいく。




「………ヴ オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ !!」




 耐えきれないとばかりの絶叫が森に木霊こだまする。

 内部の臓器を燃え尽くし破壊し尽くしているのが、肉の焼け焦げた臭いがただようと共に悟った。


「……よくやったな、小僧。なかなかどうして冴えているじゃないか」


 声をかけてくれたのは和尚だった。少しは認めてくれるきっかけになったようだ。


「いえ、ヨゼフと和尚さんが命がけで戦ってくれたおかげですよ」


「それが前線で戦う者の役目だからな。にしてもべへモトの弱点をよく気付いたな」


「あれだけ厚い皮膚です。風の魔法が通じないとわかれば内側から崩すしかないかと思っただけです」


「正解だ、カイ。身体を張ったかいがあった」


 バシッと頭に手を置かれてわしゃわしゃとヨゼフは撫で回してくれた。…ちょっと恥ずかしい。


「ハイク、イレーネ。お前らもコイツの弱点を覚えておけよ。この世界で生きるには魔物の弱みを知れ。自分の命が大事ならな」


「わかりました、ヨゼフ師匠ッ!」


「わかったわ」


「よし、じゃあコイツを解体して素材の一部を剥ぎ取るぞ。時間が惜しいとはいえ、ここで狩れたのは僥倖だ。()()()の説得にも少しは色をつけられるからな」




 投稿出来ずすみません。体調を崩しておりました。


 べへモトは聖書中に出てくるカバだと思われる名前です。実際のカバも水陸両用の優れた生き物で調べてみると面白かったです。

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