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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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悪い人じゃなさそう

 お昼は久しぶりに固い黒パンだ。豊富な小麦の山の食糧庫を抱えた街から携えてきたと思えない質素な食事だ。

 アルデンヌの民達はシャルルに与えられた食糧を持ち寄って"道中に役立てて欲しい"と懇願したが、善意ある申し出を固辞した。

 未だ貧困から解消されたと言い切れないアルデンヌ領から多くの糧を持ち出すのを僕達は控えたいと決めていたからだ。


「其方らの特殊な事情は把握した。しかし…祈りによって魔力が奉納されないなど初めて見たぞ」


 固いパンを水でふやけさせるように口に頬張り、やはり水で胃に流し込みつつ、土嚢工法の詳細を話した後に僕達のこれまでの旅の経緯を一通り和尚に話した。

 みんなで祈って奉納した魔力が空高くで弾けたのを見て、目ざとく反応を示した流れである。


「帝国や王国を歩き周ったがそんな者は逢った事がないな。特殊というより特異な者達なんだろうよ」


「特異ですってェ〜〜。アンタ達は観てないからわからないだろうけど、カイの魔法は凄いのよッ! シャルルの手の病も治したし、それにこんな立派な杖だって造れるんだからッ!!」


 クローの率直な意見に即座に反応したのはイレーネだった。

 覆い隠していた粗布を払いけると、そこには翡翠色の煌めきを放つひときわ大きな魔石が露わになる。


「イレーネ…得意気に出しちゃっているけど、出来れば人前でほいほい見せつけないでね」


「言われ放しはよくないわ、カイッ! 嫌味を言ったのは明白よッ!!」


「残念ながらそいつの言う通りだぞ、猪尾助。たが、お前は幸運だ。ここでソレを披露してくれたんだからな」


「どう言う意味よッ!?」


 脇腹に両手を添えて仁王立ちしながらクローに向けてイレーネは怒気を浴びせる。

 しかし、すぐに強気な態度はしぼめさせられる。


「いいか、よーく耳の穴をかっぽじって聞きな。そんな大層ご立派な杖を王都で披露してみろ。貴族の豚共はそれに心惹かれるだろうよ。奴らの好物は自らの地位を高貴なものだと民達に賛美させ、そして光輝な権力の権化たる大いなる富やさぞ珍しき物を欲してやまないのだ。人前でそれを出すな。そんなに大切にしているものならな」


 ビクッと大きく身体を震わせイレーネは黙り込んだ。言い返せないだけの迫力と正論に呑まれてしまったから。


「…で、こんな人目つく杖を持つ事を許したってのは…シャルル王の覚悟でもあるって事ですかい?」


「そうです。イレーネが堂々とその杖を粗布で覆い隠す事なく王都を闊歩出来る…そんな何気ない光景を王都にもたらす。それがボクの目標ですがどうですか、クローさん?」


「悪くないな…アンタについて来たのは間違いじゃなさそうで安心した。よかったな、猪尾助。お前も多少は人を観る目はありそうだぞ」


 そのままクローは黒の塊をガブッと勢いよくかじりつき、ムシャムシャと頑丈な歯で噛み砕いた。

 まるで何か誤魔化すかのように…けど、その理由はすぐにわかった。   


 子供に対して言い過ぎた事を詫びているような言い草と、口ぶりは強いものの言動は終始一貫して小さなイレーネを気遣っているクローの在り方に、みんなも穏やかな目を浮かべる。


「そうね…私も安心したわ」


 “悪い人じゃなさそう”。イレーネの気持ちはほぐれた表情で語ってくれていた。

 みんなの心の声を代弁してくれた少女の微笑みに、僕達も共に笑顔になれた。




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