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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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土嚢工法

「だ、誰もが手軽に出来る方法だと?」


「はい。僕のいた国では古くから使われてきたやり方です。クローさんならおわかりだと思います」


「俺がか?」


「はい。クローさん、治水工事…川の氾濫を抑えるための土を入れて積み上げるために何を使いますか?」


「土を入れるだと? (かます)だろう?」


「その通りです」


 叺とは藁蓆(わらむしろ)を二つに半折りにして両端を縄で閉じた袋の事だ。

 古くは日本書紀から物資の輸送のためにも用いられてきた物だ。


「僕のいた時代には叺よりも使い勝手のいい土嚢袋(どのうぶくろ)という物が主流になっていました。これを使った工法の一つに土嚢工法と呼ばれる水防の工事があります」


「さっきから話しを聞いているけど、道を作るのに関係あるの? 川の氾濫を抑えるための方法なんでしょ?」


「今回はそれの応用だよ。僕のいた時代でも、ある地域の道路作りのために役立てられた立派な工事のやり方の一つなんだ」


 ここまで話しを聞くとイレーネの指摘通り土嚢工法は洪水などによって堤防の決壊を防ぐためだと捉えられる。

 しかし、今回は治水工事のための方法ではないのだ。


「つまり、カイはその土嚢と呼ばれる物を使って道を整えようって言うんだね?」


「うん。ただ単に積んでいくだけじゃなくて守り事をきっちり行えば、そう安易に崩れないし水はけもよくする事が出来るんだ」


 僕の生きた時代に凄いなぁと思ったエピソードがある。日本の技術者達は発展途上にあったアフリカのぬかるんだ水はけの悪い道を、現地の人々が調達のしやすく整備を行いやすい土嚢工法を教えた。

 この工法は現地に合っていた。瀝青、いわゆるアスファルトを施す方法の十分の一以下の費用で済ませられ、袋の結び目を雨水の侵入する下手側にしたり若干の勾配を道の中央からつけたりなど工夫をする事で水はけの良い街道へと生まれ変わり、輸送問題の解決に大きく貢献したのだ。


「けどよ、土嚢って袋はねーぞカイ」


「それも大丈夫だよ、ハイク。麻袋を使うんだ。ほら、丁度ヨゼフが背負ってるくらいの」


 見た感じが二十〜三十キロくらい土が入りそうな麻袋をヨゼフは背負っていた。

 小麦を保管していた麻袋だと大き過ぎてしまう。作業をする人達も重くて大変になってしまうだろうから。


「なるほど…とっても良い方法なんだろうね。参考になったよ、カイ。でも、どうしてそんな方法を知っていながらファンさん達に伝えなかったんだい? 治水工事に使えるだろうに」


「僕はあくまで知識として知っていたからだよ。本来は建物を造る方が本分だし。それにファンさんは…きっと治水という事業が本当に得意なんだと思う。……なんとなくそう思うんだ」


 もし、この予想が正しいのなら…ファンという人物は間違いなく治水・開墾という分野で成功した者だと思う。




 だけど…本(•)当(•)は(•)も(•)う(•)一(•)つ(•)の(•)功(•)績(•)の(•)方(•)が(•)も(•)っ(•)と(•)大(•)き(•)い(•)ん(•)じ(•)ゃ(•)な(•)い(•)か(•)?




「そっか…カイが言うにはきっとそうなのかもね。…せっかくだしお昼を食べながらゆっくりと聞かせてくれない? みんなも知りたいだろうからね?」


 言わんとする意味を汲んでくれたシャルルは、気を遣ってファンさんに対する話しを打ち切って再び主軸であった会話へと戻してくれた。



 

 ───グゥ〜〜〜…




「本当だ。誰かの腹の虫も機嫌が悪くなったみたいだしお昼にしよう」


「……カイ、誰の腹の虫の機嫌が悪いですって」


「イ、イレーネだったのッ!? ご、ごめん…場を和ませようとしたんだけど……い、痛いよッ! 無言でポカポカ叩くのはやめてよ〜ッ!!」


 なかなか格好良く締まらないものなんだなと酷く実感しながら、本日のお昼ご飯を迎えた。




 実際に道に手を加える時に工法についてもうちょっと詳しく書きたいと思います。

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