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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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 ──※──※──※──


 街から離れて暫く経った。陽が真上に差しかかろうとしている時であった。

 そろそろお腹が空いてきた。アルデンヌ領の人達は朝ご飯を食べないらしい。

 …まぁ、朝ご飯を食べようとする僕達がこの国の人達から見て逆説的な対象なのだろうけど。

 しかし、今はお腹の具合よりも気分を悪くさせる問題に直面していた。


「…にしても、この道は酷いな。この道を通る度に“これが王都へ続く道なのか”っって疑問が浮かび上がってしまう」


 ボヤいた主はクローだった。王の体面を保つためなら“そんな事ない”って和尚あたりが言い出しそうだけど、反論する余地さえない国道であり酷道であった。


「道は凸凹だし、水はけも悪いし、そのせいで所々がぬかるんでいるし…いいところ探せって方が無理な話しだ。そのうち蕭何から絶対に文句が飛んでくるぞ」


 ヨゼフも同調して愚痴を垂れるが的確かつ重要な具申だ。これは兵站管理をする者にとっては酷な話しだ。

 なぜなら大量の兵糧の輸送が求められた時、こんな道を使って兵站管理しろなんて言われたらお手上げだろう。

 兵糧を載せた馬車の車輪がぬかるんだ道にハマる光景が容易に想像つく。


「い、今は我慢して下さい。…でも、本当にこれも何とかしないとな。馬車に乗ってこの道を通った時は最悪でした。ずっと酔い放しで何度も立ち止まる必要があった程でしたから。他の街道でも同じような問題が起きている所もあります。国としても放置出来ない問題です」


 僕や岳飛に逢うために馬車に乗ってきた事を言っているんだろうな。つい先日のように明確に思い起こしてしまったようで、シャルルは口元を抑えて吐き気が込み上げるのを必死に耐えていた。

 直接は言いはしないが何度も立ち止まって吐いてしまったという意味だと感じれる。


「カイ、何とか出来ないの?」


「……イレーネ。何でそこで僕の名前が出てくるの?」


「だってカイは転生者でしょ? なら何とか出来るんでしょ?」


「転生者を万能の神のように捉えられても困るよ…。けど、方法はないでもないよ」


「本当ッ!? カイッ!?」


 話しに食いついたのはイレーネよりもシャルルであった。王であるシャルルの方が現状を憂いての事だった。

 

「うん、しっかりやるなら数十年単位はかかるけど」


「す、数十年かぁ…。それだけの時間と労力がかかるのはしょうがない事業だもんなぁ」


 すぐに理解を示してくれたシャルルは谷底に突き落とされたように落胆する。

 期待してしまった分だけ提示された期間がどうも長く感じたようだ。


「ふふ…しっかりやるならだよ。やりようによっては数十年とは言わないけどそこまで時間もかけずに出来る方法があるよ」


「え…ほ、本当にそんな方法があるの?」


「うん、あるよ。ファンさんやキャロウェイお爺さん程ではないけれど、僕も多少は覚えのある分野だからね」


「覚えのある? そういやカイは刃物を研ぐのを見て爺さんもお前に興味を示していたな…カイはそういうのを生業(なりわい)にしてたのか?」


「そうだね。僕は建設関係の仕事に携わっていたんだ」


 前世での記憶をぼんやりと想い出す。自分の名前はわからないけど、確かに僕はそうした仕事に専念していた。

 右も左もわからずであったものの、最初は現場を監督する職に就いていた。お客様との話し合いに始まり、各工事業者への指示や伝達、安全に作業が行われているかなどのリスク管理、全体の進捗状況の工程管理などなどだ。

 ……いま想い出すだけで気持ち悪くなるくらいの仕事量に吐き気が催してきた。


 そうした仕事に携わると、やはり歴史好きの僕は建設関係の歴史も気になって調べていた。

 それぞれの時代に使われた材料や工法などを知ると仕事にも役立てられたし、人の努力の結晶を知るのは素直に感性に響くものがあった。


 監督業は忙しかったけど楽しくもあった。だから嫌々ながらに仕事をするではなく、どんなに仕事が大変だと感じても続けられた。

 だけど、実際に手を動かして作業に加わりたい想いがどんどんと膨れ上がり職人になる道を選んだ。すると道具の手入れをおろそかにする訳にはいかなくなる。

 そのメンテナンス作業の中に刃物を研ぐという工程も出てくる。キャロウェイお爺さんの宿で短刀を研ぐのを買って出たのも、日頃から行なっていて得意だったからだ。

 ファンさんぐらいに全体を観る能力はないだろう。キャロウェイお爺さん程に手先は器用ではない。

 だけど…多少は手にも自信があるし、全体を観る側の心得も知ってはいるつもりだ。


「もし石切りから始めるとなると大変な事業だぞ、カイとやら。各領地の石山を切っては運ぶというのは相当な労力だ。レンガを焼くにも大量の炭が必要になる」


 リヨンの街の大通りは石畳がズラッと敷き詰められた立派な通りだった。

 和尚はどうやら武だけの一辺倒ではないようだ。事業にかかる労力や資材調達の苦労を知っているようだ。


「街道を石畳かレンガを施すのもいいでしょう。あるいは瀝青を敷くのもいいでしょう。…ですが、それはゆくゆくでいいのです。まずは街道を整えるのが先決です。それも簡単にメンテナンスが出来て誰もが手軽に出来る方法で」




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