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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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"立ちすぐり居すぐり"

 決定された方針に沿って、街の全ての者を領主の屋敷の広大な庭に集められた。

 反乱に加わった者、元々この街に住み着いている者、反乱を鎮めるために赴いた者達の全てを。

 豪勢な屋敷とあって庭も必要以上に広々としている。こういう機会でもない限りこの庭の広さを活かす場面などそうそうないだろう。屋敷二階のバルコニーからは見渡す限りの人で埋め尽くされている。


「静粛にッ! これより此度の反乱における裁可を申し渡すッ!! …その前にこの者から話しがある」


「…おい、アレって…」


 暫しの間ざわざわとした話し声に不安が混じっていた。そこには自分達を率いてくれた老人がいて、これから話される事への言い知れぬ不安が民達の心に影を差す。

 全ての者を見渡せる位置にツクモは立ち呼吸を整え大きく息を吸う。

 すると、腹の底から割れんばかりの声量を持って聞く者達の耳に雷鳴のような号を下したッ!!





「裏ッ!!!」






 たった一言が発せられた瞬間、その場にいた(ほとん)ど全ての民達が一斉に腰を屈めて、片膝を地に着きひざまづいた。

 しかし、中には何人かの者達は何が起きたのかわからずに立ち尽くしていた。


「その者達をひっ捕らえよッ!!」


 すぐさまパラド伯爵の農民兵達が駆け出し身柄を取り押さえた。

 普通なら民達の間に多少なりとも混乱が生じるだろうがそれもない。なぜならこの老人は反乱起こしてすぐにある一手を打っていたからだ。




 ──※──※──※──


「"立ちすぐり居すぐり"だと?」


 会議の最中、蕭何達は聞き慣れない台詞に疑問を呈した。


「童、お前が歴史好きで日の本の者ならこれの意味がわかるな?」


「はい、確か…太平記に書かれていた兵法の一つでしょうか?」


「そうだ。"結城が陣夜討の事"だ」


 太平記とは南北朝時代に書かれた軍記物の歴史書だ。その中の記述の一つに"結城が陣夜討の事"が記されている。

 その話しではとある城に敵方に紛れ込んだ者達を見つけるために、城方の者達は事前に一つの取り決めをしていた。それが"立ちすぐり居すぐり"…つまり合言葉によって敵を炙り出すという手筈だ。

 合言葉に慣れていない敵方の者達はすぐに見つかってしまい討ち死にしてしまった。


「という事は…ツクモ殿は(あらかじ)め合言葉を味方内に流していたと?」


「そうだ。私が表と言ったら立ち上がり、裏と言ったら屈めと申し伝えている。何があるかわからんからな。戦さに慣れていない者達とは言えども、この二つくらいなら覚えられよう。…幾日か過ぎたら合言葉は変えるつもりだったがのぅ」


「日の本の者なら当然のやり方だ。()()なんかもよく使った手段だしな」


 クローの言うように忍者なんかもこの手の兵法をよく使っていた。

 忍術書の中にも幾日かもしくは時間毎によって合言葉を変えていたという記載が残っている。

 仲間でない者の侵入を防ぐために常に変える必要があるからだ。歴史上、例えば壬申の乱の時なんかには敵将が合言葉を唱えて見逃してしまった例もある。


 ……にしても風魔か。日本出身の人ならまずは甲賀とか伊賀なんかが出てくると思うけど、あえて風魔を例に持ち出したか。

 クローさんの由縁に何かしらの理由があるのかな?


「なんかよくわかんなーけど、それを言えば敵がわかるって事か?」


「そうだよ、ハイク。単純だけど敵を見つけるための優れた兵法だよ。よく覚えておいてね」


「わかった!」


「これですぐに敵の隠者は見つけられるな。次に民達へ何と言うかだが──」




 ──※──※──※──


 ……とまぁ、こんな具合にツクモの策は見事に(はま)り、アルデンヌ側に(くみ)する者達を洗い出す事に成功した。

 本当に軍を統括する者だったからこそ打てる前準備だ。こんな事を思い付くのはそれなりに大軍を率いた将であったのだと思う。

 上に立つ者はわざわざ全ての兵の顔と名前を覚えるなんて不可能だ。そのためにこうした防謀術を張り巡らす必要がある。

 ……うーん、この人は一体誰なんだろう?


「うむ、これで粗方の怪しき者達を捕えられたな。…では、王よ。前へお進み下さい」




 古くは日本書紀の壬申の乱でも使用された計略の一つのようです。アリババと40人の盗賊の"開けゴマ"なんかも立ちすぐり居すぐりの一種にあたるようです。

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