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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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足らない

「不正の証拠を集めたとあの男は言っていましたが、まさかここまで明白なものだとは…」


「九公一民とはよく言ったものだな…商人からは金を貪り、民から生きる糧を簒奪しているぞ…これは」


 用意された書類をズラーッと一通り網羅した。その中には商人達からのお金や民達から得た小麦や肉などの食糧が書かれていた。

 僕にはこれがどれほどの量かわからなかったが、それぞれの街や村の人口の書かれた戸籍と、献上された食糧が書かれた徴収分、それを蕭何が持ってきた竹簡に纏める作業に専念した。

 岳飛は実際に徴収された税と国に献上された差を調べ、蕭何は僕達が纏めたものをさらに別の竹簡に纏めていくという流れ作業で、黙々と作業を続けた結果、あのクローなる男が言っていたのが本当だとわかったのだ。


「ここまであからさまな手段に出ていながら国に気付かれていなかったとは…あの男も言っていたが地方の権力がこの国では強過ぎるのかもしれないですね」


「だな…これは国の権威が弱い証拠とも言える。……だが、私が気になるのはこの結果ではない。岳飛はここに残って見張りを、カイは私に着いて来てくれ」


 書類はこの一室に隠し置いたまま、僕は言われるままに蕭何の後に続いた。

 ヅカヅカと階段を登っていく様に迷いはない。何かを蕭何は不審に思い、隠し部屋を出た後にシャルル達がいるであろう場所に急ぐ。


 街の中に向かってすぐにそれはわかった。民達と会話し、一人一人の手を握っては会話しているシャルルの姿が目に映り、温かく見守る周囲の一団が目についた。


「シャルル王よ、少しよろしいか」


「あ、クワンさん。もう調べ物はいいのですか?」


「クワン…まぁ、その話しは後にしましょう。一つお願いが。そこにいる二人のうちのどちらかを暫しお借りしたい」


「え? クローさんとツクモさんを?」


 この二人がシャルル王と民達を慰撫する事にこそに意味がある。反乱を起こした首謀者達がこの国の王と共にある姿を見た時、民達は初めて反乱が終わったのだと確信出来るのだ。

 それなのに蕭何は一人だけでもいいから連れて行かせて欲しいと訴える。これには何か理由があるのだろうと周囲も察知した。


「王よ、急ぎのようですしクワンの望みを叶えてやって下され」


「伯爵…そうだね。では、二人のうちどちらか…」


「私が行かせて貰いますかのう。どうやらこの老いぼれでも役立てるようですので」


 自ら申し出たツクモがこの行幸から離れ、蕭何と僕の三人で一緒に行動する事になった。

 

「ふわぁぁぁあ…この老いぼれには能面のような笑い顔をずっとかけさせられては流石に堪えるからな。やっと抜け出せて清々した。ありがとうのう、お主ら」


 疲れ切ったようで大きく背筋を伸ばした後に盛大な欠伸をする。…案外、このお爺ちゃんも小狡い所があるようだ。


「能面? ふむ、気になる言葉だが今は問答をしている暇はない。ツクモ君と言ったね。私達を食糧庫までに連れて行って欲しい」


「私はお主よりも爺だぞ。少しは敬った口の利き方というもんが…」


「ツ、ツクモさん。僕もさっきわかったのですが、クワンはあの漢の建国の立役者の一人である蕭何その人ですよ。日の本の人ならこの意味わかりますよね?」


「…ッ!? な、何ッ!? あの三傑の一人だとッ!! ……そうか、貴殿がのう。考えていた印象とは違うが礼は尽くそう。気兼ねなく呼んでくれ」


「話しが早くて助かる。さぁ、食糧庫にすぐにでも案内して欲しい。私の考えが間違っていればよいのだが…」


 そう蕭何が口にした途端、ツクモの唇の口角が上がった。あたかもそれは蕭何の様子を楽しんでいるようにも見える。


「ほうほう…流石だ。そこに気付くとは天下に名高い兵站の達人ゆえかのう」


「へ?」


「何でもない、童。さぁ、こちらじゃ。食糧庫は屋敷のすぐそばにある。どうもここの歴代の当主達はアルデンヌのような性根をしとったらしい。自らの近くに権利や富の象徴を置きたがる傾向にあるようじゃ」


 呆れ気味に講釈を垂れながら足早に歩き始めた。本人は老いていると言うがそんな事を微塵も感じさせない軽やかな足取りであった。


「これだ」


「これはまた…凄いですね」


「………」


 そこにあったのは屋敷以上に大きな白い建物であった。食糧を保管しておくのだ。これだけの大きさは必要だろう。

 中を開けると、そこには建物を埋め尽くさんばかりの麻袋の山が積み重なっていた。


 突然…近くにあった袋を蕭何が持っていた短刀で突く。すると中からパラパラと音を立てて小麦の粒が地面に落ちる。


「…聞きたい事がある。アルデンヌが集めた糧はこれで全部か?」


「そのようで。私も気になって民達に聞いたから間違いない。この領内ではここ以外に民達から得た食糧を貯蓄しておく場所はないと」


 蕭何はツクモの返答にさらに眉を顰める。


「……これだけか?」


「蕭何…? どうしたの? これだけって…こんなにあるのに」


「カイ君、さっき一緒に調べていただろう。君にはあの紙に書かれた数だけでは実感が湧かないだろうが私にはわかる。……()()()()()()


「足らない…それって」


 僕達は後ろに立つツクモに向けて振り返った。老人は言い当てて欲しかった答えを聞けて満足気にニヤリと口元を歪めた。


「ここには本来…もっと食糧があって然るべきだ。あの資料を調べればわかる。ツクモ君、ここにあるべき大量の糧はどこにある?」




 能面はつけるではなくかけるが正しい表現のようですね。勉強になりました。

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