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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
33/409

──────────

 学校に着いてみんなと挨拶をして、いつも通り朝に宿題をして、イレーネに宿題を家でやってくるように怒られて、ハイクに宿題を見せてあげてた。

 今日は馬術だ。久しぶりに黒雲に会える! 楽しみだなぁ。


 そんなことを考えていると、ガァーっと、戸が横に開かれた。あの先生のような人が入ってきた。






「…みんな、おはよう」




 …そう言った後




 ………ニヤッ…と舐め回すような下卑た笑みを浮かべた……







「「「「「お、おはようございます!」」」」」


「本日は、一週間に一度の馬術の授業を行う。全員、訓練場に移動するように。指導は体術を見ている兵士が今回も見てくれる。では、急いで移動するように」


「「「「「はいっ!」」」」」




 ……ヤバい…素直にそう思った。




 一週間前と同じ光景、同じセリフが繰り返されているだけなのに、とんでもないことが起きているということは実感した。なぜなら一つだけ違和感があった。

 あの先生のような人物の笑みが、明らかにこちらを嘲笑うような微笑みを浮かべながら、嫌らしい視線を隠そうともしないまま、こちらを見ていたからだ。

 



「なぁ、今日の先生気持ち悪くなかったか?」


「うん…何だかずっと笑っていたね」


「そうだね…何か何となくだけどカイ達の方を見ていたような…」


 今は馬術の授業のために訓練場に移動の最中だ。

 先生に関する会話が周囲の子達からも聞こえてくる。

 あからさまに普段とは違う不自然な行為だったので、みんなの目から見てもバレバレだった。

 周囲の子達が僕達と距離を取りながら歩いている。

 ……これは、不味い状況だ。


「…おい、カイ。今日のアレは何だったんだ?」


「……カイ。私たち何かしたかしら?」


 ハイクとイレーネがヒソヒソ声で話しかけてきた。


「うん、他の子達にも気付かれる程の笑みと視線だったね。……これでもう確定だ。僕達の状況はハッキリ言ってかなり不味い」


「ッ!! どういうことだッ!? 俺らは何も悪いことはしてないぞッ!!」


「…ハイク、落ち着きなさい。声がデカいわ」


「…わ、わりぃ。つい声が大きくなった」


 ハイクはイレーネに(たしな)め、ハイクのことを落ち着かせているが、ハイクの顔よりもイレーネの顔色の方が悪い。手も少し震えている。

 多分、僕の言った意味と、イレーネの考えていた予想が似たような考えだったので、僕の発言で確信に至り、恐怖で手が震えているのだと思う。


「そんな長く話せないから手早く説明するね。…ハイク、あの先生はね。もう隠す必要がなくなったから、あんな行為をしていたんだ」


「…どういうことだ?」


「周囲の皆んなに隠さなくてもいい状況。つまり僕達に対して、何か罰のようなものを下すことが確定した。もしくはすぐにでもそれが出来る状況になった…ということさ」


「……は?」


「…やっぱりね。そうじゃないかと思ったわ。でも、カイ。あの先生の周辺を探っても怪しいことなんてなかったし、気のせいなんじゃ…」


「イレーネ。もう気のせいでは済まされないってことが、君にも分かっているはずだ。僕達で調べても調べきれなかった何かがあったんだ。諦めよう。大人しく罰を受けるしかない。ただ、分からない点がある。僕達は果たしてどんな罪を犯したか、自分たちに自覚がないんだ。……だからこそ、僕は困っている。ハイクとイレーネにお願いがある。僕達がどんな罪を犯したかを、この授業中に考えていて欲しい。それが分かれば、少しでも刑罰を軽くして貰うための言い分を考えたり出来る。どんな些細な点でも構わない。思いついたことを何でもいいから言って欲しい。僕に協力して貰いたい」


「分かった。ない頭を使って考えてみる」


「えぇ、将来が掛かっているし、必死に考えてみるわ」


 二人にも協力をお願いしながら、馬術の授業中に考えてみることにした。




 ……この時、僕達は周りへの注意が疎かになっていた。自分たちの身の心配ばかりに思いが向いていた。


 周囲の変化、周りの生徒の今までと違う変化。…いや、一つの存在が欠けていたことに気付いていなかった。




 訓練場に着き、いつもの通りに一、二、三年生の順で前から並ぶ。

 いつもと違うのは、僕達三人の動きが酷く機械的な動きを取り、意識と行動が伴わない行動をしていた。

 馬術の授業どころではない。…考えて考えて考えなければ。


「みんな、おはよう!」


「「「「「おはようございます!」」」」」


「うん、今日も良い挨拶だな。では、今日も一年生から順に馬術の訓練を行う。二年生、三年生は、それぞれ思い思いの時間を過ごすように。一年生は訓練場の真ん中まで馬を厩舎から連れてくるとこから始める。私について来るように」


 先生が一年生を連れて厩舎に行ったら、僕はすぐに外周に向かって走りだす。二人も急いで来てくれた。


「二人とも何か気付いた?」


「何にも分からないわ。本当に私達何かしたのかしら…」


「あぁ、全く分からない。何であんな顔をされなきゃいけないんだ…」


 二人共考え過ぎて、理不尽な状況に頭を悩ませている。

 ……それはそうだ。僕達に罪の意識があったならこんなに悩む必要はないんだから。


「わかった。じゃあ、馬の訓練の様子を見ながら考えよう。いつもと同じような格好、姿勢でね。他の子達の警戒を緩めるためにもね」


 二人ともハッと顔を見上げた。今は周りにも警戒されているから、何かと探りを入れても、周りの子達は答えてくれない状況だ。

 少しでも警戒を下げるため、僕達がいつもと同じような、緩い感じで授業を受けている光景を見れば、周りの子達も僕達が悪いことをしていないんじゃないかと思うはずだ。

 警戒心を下げてくれれば、ちょっとした探りを入れられる。

 人気者のハイクとイレーネに聞いて貰えば、少しは何かしらの情報が落ちる可能性もある。今は藁にも(すが)りたいぐらいだ。


 この一週間あの先生の情報収集だけしてしまった。


 この村の役人のところにも、こっそりと確認に行ったが何もなかった。

 もっと周囲の状況も調べれば、何かしら今回の出来事が起きる予兆を事前に察知できたかもしれない。




 ………もっと、周りに注意を向けていれば。




 ……とりあえず、いま出来ることをしよう。

 三人で一、二年生の様子の訓練の様子を観ながら、考え込んでいた。




 僕達三年生の出番がきた。

 結局三人で考えても良い答えが出ないままだ。

 ハイクとイレーネに探りを入れて貰っても、警戒されていい情報が得られることなく訓練場内周に向かって歩き出した。


「よし、三年生の訓練を始める! それぞれ馬の横に立ち乗馬をするように」


 黒雲の横に着くと、なぜか僕の顔に自分の顔を近付けてきた。

 ……慰めてくれている? 動物というのは飼い主の心の変化に敏感であるという。

 もしかして黒雲は、僕が少し落ち込んでいるのに気付いたのかな。


「では、順次三名ずつ、訓練場内の内周の場内馬場を走れ! カイ、ハイク、イレーネ、位置に着け」


 先生からの合図があり、僕は黒雲に跨がりスタート位置にまで移動する。

 移動しながら黒雲の頭を撫でて、黒雲に語りかける。


「…ありがとう。黒雲。何とかして見せるさ。……これまでもそうしてきたし、前の世界でも何とかやってこれたんだ。きっと大丈夫だよ」




 その言葉は本当に黒雲に対して言っているの? 




 …って自分の心の中で疑問が生まれてきたが、その答えを見出せないまま位置に着いた。




「位置に着いたな。では、いくぞ。よーい、ドン!」




 僕達はスタートした。

 少し、イレーネが合図と遅れて走り出した。

 全員調子が悪い。そこまで良いスピードに乗ることも出来ずに、コーナーにまで差し掛かる。

 コーナーの曲がり始めで、僕と接っていたハイクが、少しもたついてしまった。

 コーナーを抜けて最後の直線に入り、これまでで一番悪い走りを終えて…望んでもいないのに一位のままゴールを切った。


「一位カイ、二位ハイク、三位イレーネだな。うーん、どうも三人共調子が悪いような走り方だったな。……この後は、馬たちのことを労わるように」


 思ったよりも僕達の心に大きなダメージを与えている。

 当然か、だって街に行くことが取り消されるかもしれないし、家族にも迷惑が掛かるかもしれない。


 ………はぁ、こうなったらいっそのこと、師匠のように亡命した方が……






 “師匠”、“亡命”?






 ……もしかして師匠との修行を誰かに見られたか? 

 いや、それはまずない。師匠との修行は川沿いの、決して人が通ることのない場所で行っていたし、師匠は一定の空間外に音を漏らさない魔法を使っていた。


 ハイクとイレーネは師匠と全く関係がないから、それで目をつけられることはあり得ないだろう。

 

 少なくとも他国を見たい気持ちは、師匠とハイクとイレーネ以外に言ったこともないないから怪しまれることがない。


 それに密告したとして、一週間も何もないというのは本当におかしい。


 ……うーん、分からないな。


 そんなことを色々な視点で考えたけれど、納得のいく答えのないまま時間が過ぎ、三年生の授業も終えた。


 外周で待っていた一、二年生もいつものように、訓練場の真ん中に集まってくる。




「今日の授業はここまでだ。三年生は私と一緒に放牧地まで馬を連れてくるように。一、二年生は教室に戻り、帰る支度が整い次第下校して家族の手伝いをするように」


「「「「「ありがとうございました!」」」」」


 これから馬たちと共に厩舎に向かう。


 そう…そのはずだった。


 なのに聞いてしまったんだ。


 これまでの疑問を解消してしまうような名前の響きを。






「今日はフーシェが休みなので、誰か二人に代わりに馬を一頭ずつ引いて貰わなければな……」






 …………いま、何て言った?






「…せ、先生ッ!! 今日はフーシェが休みなんですかッ!?」


「何を言っているんだカイ。朝からずっとフーシェはいないだろう」




 ……フーシェが休み。


 知らなかった。


 周りの事をあまりにも気にしないでいたらしい。


 こんな日に限って休むなんて怪しい。


 それじゃあ…まるでフーシェが、フーシェが────────みたいじゃないか……。








 …………ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。あってはならないッ!!!








 僕の脳内では結びついてはならない…とんでもない点と点が線で繋がってしまった。


 この事をハイクやイレーネに伝えても、こんな考えを持っているなんて頭のおかしい奴だって言われる!


 ……これは言えない。絶対に。


 でも、この仮説が正しいのなら本当に不味い。今すぐ何とかしないとッ!!



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