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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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三傑の英雄 蕭何 韓信との出逢い 五

 昼夜問わず馬を走らせ続ける。しかし、進んだ距離以上に焦燥感が先行し、胸を波打つ高鳴りが走る度に強まっていく。

 …早く……早くッ!! 間に合ってくれッ!! ここで韓信を逃しては、天下に平和をもたらす道が途絶えてしまうッ!!


 ……もし、項羽が天下を治め続けたとして、国家に安寧などもたらされやしないだろう。

 義を軽んじ、民の暮らしを脅かし、諸侯に不平等な扱いを示す者になど天下を任せらえるはずがなかった。

 民達は秦の統治の頃と変わらない圧政に苦しみ、善なる者を求めてやまないこの現状を…私は何とか打開したかった。

 始めは仕方なく立ち上がったものの…今では平和を切に求めてやまない自分がいる。……フッ、何とも自分の変化がもどかしい。けど、あの頃の私もただただ何事もない日々を願っていたのだったな。




「韓信殿ッ! …どうか、どうか返事をして下されッ!! 我々には貴方が必要だッ!!」


「……蕭何様ッ!!」


「…夏侯嬰、君も来てくれたか」


 事態を聞きつけたであろう夏侯嬰も急いで山中を駆け続けたのがわかった。

 衣服は所々が切り裂かれ、緑黄色が点々と至る場所に色付いていた。木々が身体を突き刺し衣服を汚し破こうとも、立ち止まる事なくここまで来たのがよくわかる。なぜなら私も同じようにボロボロであったからだ。


「……一国の丞相たる者の姿には思えませんな」


「君こそ。この国の第三の地位にある者だと他人には気付かれ無さそうで何よりだ…」


 互いのあられのない姿に苦笑する。


「蕭何様、どうやら天は我らを見捨てなかったようです。見て下さい。川は氾濫しており、これでは人が渡れますまい。必ず韓信はこの川沿いにいるでしょう」


「そうだな。急いで来た甲斐があったというものだ」


 あとはもう…なりふり構わず叫び続ける事だけであった。

 

「韓信殿ッ! どこにおられるッ!」


「…姿を見せて下されッ!」


 必死に叫んだ。どこにいるかもわからない相手を探すのに、声を上げ続ける事しか他に手はなかった。




「……蕭何様」




「…ッ!! か、韓信殿ッ!!」


 


 願いは形となって現れた。韓信は我々の前に姿を見せてくれたのだ。


「私は…漢王の人となりと評判を聞きつけここに来ました。…しかし、期待していた人物ではなかったと…そう思っていました」


 韓信は胸中に抱えてきた感情を吐露し明らかにしてくれる。


「だが、蕭何様と夏侯嬰様のその御姿、在り方を見て考えが変わりました。……自身の立場を重視する権力欲の塊のような人物であったなら、自分の立場を(おび)やかすような存在を追うわけもない。何度も推挙する必要もない。けれども、御二人はこの国の重鎮であられながら私一人のために、こんな山奥深くにまでわざわざ追って来て下さったのです」


 しっかりと見据えられた視線は我々を…片時も離すまいとする熱い想いが込められていた。


「このような人物が国の中枢におられ、そんな人物がお仕えし続ける漢王を…もう少しだけ知りたくなりました。……またお戻りしてもよろしいでしょうか?」


 韓信からの大きな信頼を感じる。胸を撫で下ろして軽口を叩く。


「何を言われる。そのために我々は来たのだ。もしも漢王が今度も韓信殿を大元帥に任じないと申すなら、私達もこの国を離れるつもりだ。なぁ、夏侯嬰?」


「えぇ、相応しき人物を用いない漢王に身限りをつけましょう」


「「「ふふ…ふふふ……あっはっはっはっはッ!!!」」」


 笑い合う声に複雑な感情も、さっきまで渦巻いていた焦燥も消え去っていた。

 この時…我々は初めて友となれたのだ。




「……帰ろう、我々の国へ」




 着飾りもない台詞をやっと言えた。夜の闇に月の光が照らす方角に向けて歩きながら、天下に向けて沢山の話しをし、空に薄い朝陽が昇る頃にようやく帰れたのだった。




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