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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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“醜く生き足掻いて”

 優男は戦慄を覚えた。年幼き少年が死を遂げる望みを打ち砕いたのだ。さらには不思議とこの少年王の言葉には心動かされるものが拍車をかけていた。


「みっともなく生き恥を晒してでも志しを示せと言うのか……」


「はい。責任を負うためと潔く命を絶つなどという建前よりも、醜くても生き足掻いてみせるのです。…たとえ人に馬鹿にされたとしても」


 言葉には実感があった。シャルルは初めての戦場から命からがら逃げ帰り、恐らくは周囲から馬鹿にでもされたのであろう。

 だが、彼は全うしたのだ。周囲の人間から"本の虫"などと馬鹿にされたり、敗戦から間もなくして反乱が起きたとしても、彼は逃げずに国を立て直し民を守ったのだから。


「フッ…こんな小さな童に心が揺り動かされつつある自身の変化に戸惑いつつある。…で、そこまでして生き恥を晒して生きよと言うのだ。我らに生きるための道を用意はしてくれるのであろうな?」


「はい。この国を乗っ取ろうとした方です。ならばこの国の中枢に身を置くのも本望であるかと存じます」


「貴公に……仕えよ…と」


 戸惑いの色は深まり淡白に置かれた間に余韻が残った。

 優男は目を閉じ…逡巡する。これまでの自らの生き方とこの少年王の想いの強さに重なるものがあり惹かれすらある。

 "民を守る"。その一点においては(たが)いなく共通する一つの想いであった。


「若、この話し…悪くないかと存じます」


「爺…」


「"醜くても生き足掻いてみせる"。いいではありませんか。私は共感致しました。この若き王ならきっと若の望んでいる事もわかってくれましょう。これもまた一興でありましょうぞ」


「…これもまた一興である、か。うむ…悪くないな。小さき王よ、貴公に我らの望みを伝えたい。この望みを貴公が果たされると誓うのであれば、我らは貴公に御仕えする」


「その望みとは?」


「"四公六民"。これが実現される事を望む」


「さっきの話しに照らし合わせれば、国や領主の取り分が四割、民の取り分が六割という意味でしょうか?」


 高すぎる理想だ。理想を通り越して無理難題に近かった。この国では各領主達から六割の献金を求めながら財政を成り立たせている話しを先ほどしたばかりであった。二割もの税を如何様に減らせと…。

 しかし、それでも優男は声を大にして述べ続けた。


「国を富ませるというのは民草が潤ってこその富国なのだ。国に税を納め、国家の懐だけが温かくなったところで金の回りが悪くなるだけだ。まず、自国を富ませるにはやはり民草が笑顔になるだけの暮らしを守る。それが為政者に求められるべき想いだ」


 この優男の言葉にもやはり説得力があった。彼自身、そのような経験を果たしたからこその達観した視点からの評であるように。

 けれども、シャルルにとっては嬉しかった。無理な願いを成し遂げたいのは彼も同じであったから。


「……わかりました。いいでしょう。その申し出を受け入れます。その代わりお二人の存分な働きを期待するところです」


「期待するのはこちらも同じところだ。民のための治世の実現を共に目指そうではないか。貴公にこの身を捧げよう。…醜く生き足掻いてみせてな」


 軽快な笑みを浮かべて両者は手を取り合った。民のための治世を目指す想いを共にしながら。


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