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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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人民を救う最高の手段

「教えてやろう…昨年のアルデンヌ領で搾取された税は五十万フランだ」


「…ご、五十万だとッ!!」


 一番の驚愕の色を見せたのは伯爵であった。同じ領主という立場だからこそ、その大金の示す異常性であった。


「で、では、本来であれば国に対して三十万フランを納めなければならなかったものを、侯爵は自分の(ふところ)に…」


「にわかには信じられません……」


 公人である者がそこまで大胆な手法を取るのがシャルルには信じられなかった。

 バレてしまえば立場を失いかねない行為であり、国からの裁きすら及ぶであろうに、と。


「もっと恐ろしい話しを聞かせてやろう。アルデンヌは自身の民の窮状にも目を留めず、奴は九公一民の税を常に民達に課していたのだ」


「九公…」


「一民…とは?」


「公の取り分が九割、民の取り分が一割という意味です。つまりアルデンヌ侯爵は民に対し九割の税を課していた…という事でしょうか?」


「おぉ、流石は日の本の者よ。よくわかっておるな」


「…きゅ、九割だとッ!?」


 非人道的な税率だ。だが、昔の日本でも行われたものである。島原の乱の武装蜂起の大部分はこの税率に耐えられなくなった民達による反乱が主なところだった。私腹を肥やしたい愚かな領主とはいつの時代にも現れるのだろう。


「それだけ国家を軽んじ、王の権威を低く見ておるのであろう。俺と爺は帝国と王国を旅して周った。帝国と比べてこの国は明らかに王の権威が弱く、地方領主に行使する権力を委ねる部分が大きい。それが今回の事態を招いた要因だ」


「おのれ…アルデンヌの若造め。国家の権力の一端を預かる者でありながら己が私利私欲のために民を苦しめるとは…ッ!! 王よッ! 至急、証拠を集めましょうッ!! 早急に此度の事態の解決を民と国中に示すべきですッ!!」


「その必要はない。すでに証拠はある。この屋敷に集めておいた。アルデンヌ領内における税がどのように徴収されていたかの記録は、この屋敷の隠された地下室に置いてある」


 全員が目を見張った。まさかそこまで周到な調査をしてまで揃えていたこの優男と爺のやり方に。

 もしかして、この二人の本当の目的って……。


「お前ら…最初からそのつもりだったって事かよ」


「無論だ。我々が立ち上がった理由とは全て民草のためである。反乱が成功すればこの国を治め、失敗すれば死ぬ覚悟を決めていた。この街にまで攻め寄せる奴と一戦交え、そいつらの力量を確かめる目的も果たせた。もはや悔いはない。…さぁ、我らの首を刎ねよ。さすればこの乱を終結させた栄誉と実績を貴公は得られるのだ、若き王よ……」


 この優男の覚悟は本物であった。どちらの結末を辿るとしても、最後まで自身の決めた結末を全うするだけの覚悟…自分の命を賭けてまでの決意を秘めていたのだ。

 自身が負けたとして、その相手が国を背負うに相応しい人物かを両の(まなこ)で見極め、シャルルが本当に民達の窮状に理解を示そうとする王であったのを知った優男は、自身の引き際を悟ったのだった。




「……嫌です」




 だが、シャルルは冷たく突き放した。そんな感情は知り得ないとでも言わんばかりの低い声音で告げたのだった。


「…なッ! 貴公は我ら武士の決意を…死を()した想いを愚弄するつもりかッ!?」


「武士が何なのかわかりませんが、貴方達の首を刎ねるつもりは毛頭ありません。そして、それが尊い死であるともボクは思いません。何より…貴方達の民を扇動した罪は消えません。平和的な解決の仕方があったにも関わらず無垢な民の感情を煽った。だからこそ、貴方達は生きてその責を負うべきです。民達のために生きると決意したならば、最後までその想いを貫く生き方こそが人民を救う最高の手段であるとボクは考えます」




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