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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
301/409

“万民の英雄 岳飛”

 ──※──※──※──


「岳飛様ッ! お助け下さいッ!!」


 …すまない。


「どうか、どうか我々を…この土地を見捨てないで下さいッ!!」


 ……すまない。


「…なぜ…なぜ我らを捨てられるのですか……岳飛様……」


 ………すまない………本当にすまない……。





 ───私の歩んだ十年は、たった一日で全てが変わった。






 “尽忠報国”を背に、国と皇帝への忠誠を曲げた事など一度もなかった。幾度も国の存亡をかけた戦さに赴き、敵を撃ち払い国を守ってきた。






 ──あと一歩…あと一歩なのだ。それなのに……






 遂に念願の土地の奪還を目前にしながら、軍を引き揚げる撤退命令が下された。

 私は…泣いてこの地に留まるように求める民達に対し、皇帝陛下の詔書を示す事しか出来なかった。






「───岳飛大元帥に謀反の疑いがあり、ひっ捕らえよ」






 …なぜだ。なぜ私が獄に繋がれなければならないのだ。私は何の罪も犯していないッ!!

 なぜ国のために忠を尽くした私が…血を吐くまでの拷問を受けなければならないのだ。叩かれる鞭が肉に食い込み、気力も体力も奪い、意識が…朦朧とする。もはや考える事すらままならない。

 ……だが、それでも私は高らかにこう言うのだ。




 ───天日昭昭…天日昭昭……“天は全てを知っている”。




 私は何ら恥ずべき生き方をしてこなかった。ただ国家のため、皇帝陛下のために生きて忠を全うして参った。

 なぜ皆はわからないのだ…私を殺し、一時の平和を得たところで、いずれ国運は尽き果て、敵国に飲み込まれてしまう結末を。

 天は私のこれまでの行いを、この非道な裁きを全て知っている。


 だが…今やその天すらも私を見捨てるようとしていた。この首に掛けらる縄はキツく縛り、もはやこの命が潰えるのも避けられやしないだろう。





 ………そうか、天は怒っておられるのか。私が救われるべき者達に助けの手を差し伸べなかった事を。





 もし…もしも…天が私を見放さないのであれば、次こそ私は…私に救いの声を求める民達に手を差し伸べると誓う。

 私は今度こそ…守られるべき者達のためにこの力を振るいたい………



 



 ──※──※──※──





「助けてッ!───"岳飛"ッ!!」





 助けを求める必死な叫び声が聞こえる。かつての名で呼ぶ声には信頼が詰まっていた。

 ……あの時の誓い、そして…カイ殿とのお約束を果たすべきは、今。




 岳飛にもはや迷いはない。かつて岳飛が戦場で三日月の長弓を引く度に、弓弦(ゆづる)が戦場の叫び声に共鳴するかのように死の曲を奏でる姿は、敵から酷く恐れられていた。


 "一矢一死(ひとやひとしに)"。キャロウェイがそう評した弓の実力は(たが)いなく、強大な魔物が一本の矢で地に伏したのも当然だった。伝説では三百斤もの弓を引けたという豪腕から放たれる矢は敵の甲冑ごと身体を射抜き、左右どちらに弓を構えたとしても百発百中の正確無比な繊細さも兼ね備え、まさに剛柔兼備の弓の名手である。


 スルリと手を伸ばして一本の矢を手に取り、弓を構え引き絞る矢には友を救わんとする想いが(つの)る。

 



「カイ殿…今こそ貴方を救ってみせましょうッ!! この命運を掴み取らんッ! …"運命を貫く一矢ユンミン・グァンクゥ・シン"ッ!!!」




 矢は一筋の光となって岳飛の手から放たれた。かつての自身の不遇な運命と、カイに襲い掛からんとする不穏な一刃が重ねて映った。

 そんな想いが理不尽な運命を打ち破らんとする。矢は目にも止まらぬ速さで空気を切り裂き、一瞬のうちに読み解かれた軌道を真っ直ぐに突き破る。




 ──キィンッッッ!!!




「なッ…!!」




 描かれる放物線の切先は根本から崩れ落ちた。岳飛は刃を振るう武者を狙うのではなく、あえて難関とも言える動き続ける刃を一本の矢で断ち切るという離れ業を選んだのだ。


「降伏せよ。さすれば命までは奪わない。貴殿は民を想って反乱を起こした義なる心をお持ちだ。こんな所で命を失うなど、本心ではなかろう。…次は頭を狙う。苦しまずに果てるがせめてもの情けと心得られよッ!」


 優男は瞬時に実力の差を思い知った。コイツはとんでもない化け物で、もし少しでも変な素振りを見せたら命はない…。もはやここまでか……。反乱の狼煙の火種にすらなれなかった。ならば、ここは反乱の責を全うするために降伏すべし。


「……相わかった。俺の負けだ。降伏する」


 こうしてアルデンヌ侯爵領リヨンの街での反乱は終結を迎えた。国全体を巻き込む反乱にまで至る事なく鎮圧され、此度の一戦だけにおいては一滴の血も流れる事なく終戦を迎えたのだ。ひとえにそれは岳飛の最後の一矢によるところが大であった。想いとは時に運命をも貫く一矢にもなると…この時のカイは知ったのだった。




挿絵(By みてみん)

 運命を貫く一矢は正しい訳ではないと思います。筆者がグーグル翻訳で聞いたものを書いているので、何卒ご容赦下さい。


 三百斤は大体180〜190kgの重さであるようです。そんな重さを本当に引けたのかは定かではありませんが、そのくらいに強かったという人々の想いも詰まった評価なのかなと、筆者は感じております。


 この後、作り直したカイ達の旅路もこの話しで改稿させて頂きます。もし宜しければご覧ください。

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