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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第一章 “歴史を紡いではならない”
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流鏑馬

 僕はひたすらに馬を観察していた。馬の動きって面白いよね。

 足の運び方、乗り方で全く変わるのも興味深い。

 帝国では、以前説明した通り、側対歩(そくたいほ)という乗り方が採用されている。右前脚と右後ろ脚、左前脚と左後ろ脚という、左右の前後の脚を同時に出して前に進む。

 これを、側面の対になる脚を踏み出す歩様という意味で側対歩という。

 上下の動きが少ないため、馬上で弓を射るような場合には便利なんだよね。日本でも戦国時代に使われていた。

 北海道の道産子も確か側対歩だったかな?


 側対歩の反対の斜対歩(しゃたいほ)。左前脚と右後ろ脚、右前脚と左後ろ脚と動くので、斜めに対となる脚を踏み出す歩様という意味で斜対歩。

 前の世界ではこっちの方が一般的な乗り方だった。近代では、お尻を上げて乗る軽速歩が、馬同士で競争をする競技で使われるようになった。


 馬の技術と乗り方は、時代の変化と共に求められるものが変わってきた。

 そんなことを考えて馬の動きを観つつ、歴史のことを色々と考え込んでたら気分が上がってきたっ!


「ふふふっ…ふふふふふっ」


「うわー、出た…。カイの気持ち悪い笑い」


「そっとしておきましょう。こうなったら当分こっちの世界には戻ってこないわ。…何で馬を観てるだけでこんなに笑えるのかしら。気持ち悪いわ…」


 自分の知らない間に親友二人の評価は時間の経過とは逆行しながら大幅に下げ続けていた。

 そんなことを知らないまま、馬の動きを観察しつつ馬の歴史を思い返していた。




──※──※──※──




 馬の動きを観ていたら、いつの間にか二年生も訓練が終わり馬から降りていた。

 その光景を見て僕達の番だと脳内で認識された。


「……僕達の番かな?」


「おっ、珍しく自分から現実に意識が戻ってきたな」


「…戻ってきて良かったわぁ。カイの顔の前で手を叩かないといけない時は、流石に注目を集めて恥ずかしいもの」


 ほっ、二人には大して迷惑を掛けないまま意識が戻ったみたいだ。良かった良かった。

 自分の成長ぶりに少し嬉しくなりながら、二年生と入れ替わりで訓練場に向かって歩き出す。


「よし、三年生の訓練を始める! それぞれ馬の横に立ち乗馬をするように!」


 乗馬をする際も初めての時は、なかなか出来なかった。

 …だが、それもかなり前の話しだ。僕は他の子よりもスマートに、無駄な動きがなく乗ることが出来る。


「カイは体術が全然なのに、馬術はすげーよな」


「本当にどうしてかしら? 不思議よね」


 それはね、みんなよりも倍以上の沢山の経験を積んでるからだよ……なんて言えない。

 多分、馬に乗るだけだとハイクとどんぐりの背比べぐらいの差で僕の方が上手い。

 さらに言えば、弓を構えながらの動作を込みなら圧倒的な自信がある!


 まだ学校では習っていない馬に乗りながらの弓術。

 弓の扱い自体まで教えられていない。…僕とハイクは自主練してるけど内緒だ。


 では、どうして僕は馬に乗りながら弓を引くことが出来るのか。

 その理由は、日本人なら知っている日本伝統の文化のおかげだ。


 そう、“流鏑馬(やぶさめ)”だ。


 僕は流鏑馬の伝統が受け継がれた地で育つことが出来た。

 ある時、小学生の頃に近所の神社で開かれた流鏑馬を観て凄く感動したんだッ!


 翌日、神社の神主さんに“昨日のあれをやりたいですっ!”って親にも相談せずに直談判した。いま思えば傍迷惑な話しだ。

 たまたま、やさしい神主さんで良かった。子供に丁寧に対応してくれて、先日の流鏑馬を行っていた騎手の方を紹介してくれた。

 早速、親にお願いしてその流派の子供の塾に入会した。入会出来るギリギリの年齢で良かった。年が低すぎると入会すら出来ないからだ。


 それから僕は、弓術と馬術の長い長い修行を経て、ほんの少し流鏑馬が出来るようになったのは高校生になってからだった。

 ……実力は足らなかったけどね。だからさらに修行を重ねて大人になる頃にはある程度は様になっていた。


 つまり、卑怯だけど前の世界での長い修行の経験がある。

 馬術と弓術では、この世界の一般的な子供達と比べて圧倒的と言っていい程の差があるって訳だ。


 ハイクは別だ。ハイクは何かと常識で測れないから深く考えないでおいた方が何かと楽だ。

 …考え込むと嫉妬したりするからね。


「では、順次三名ずつ、訓練場内の内周の場内馬場を走れ! カイ、ハイク、イレーネ、位置に着け」


 イレーネも文官志望ながらかなり上手い。

 馬に乗るのが好きだったため、学校に入る前でも頻繁に借り入れ申請をして馬に乗っていた。

 どっちかというと男の子の遊びが好きな所もあるし、イレーネの性分に合っていたのだと思う。


 三人で場内馬場の位置に着く。三年生は基本的に競争しながら走るので、実力の拮抗した者で組み分けされる。

 流石の帝国、容赦がない。こんな馬術の訓練でも小さな子供に競争させるなんて、怪我をしたら危ないと思う。

 そんな感情はお構いなしだ。


 馬にとって基本的な走り方は四つ。常歩(なみあし)速歩(はやあし)駈歩(かけあし)襲歩(しゅうほ)。それぞれにリズムがあり、常歩は四拍子、速歩は二拍子、駈歩は三拍子、襲歩は四拍子。

 常歩と襲歩は同じリズムだが、スピードと脚を出す順番が違う。このリズムは乗った時の揺れ(反動)の違いを生み出す。


 一、二年生はそれぞれの走り方を出来るようになることが課題だ。三年生は襲歩で競争する。


 襲歩は競馬で言うところのギャロップ(全速力)であり、その速度は一分間で千メートル以上になるとも言われるほどの速度。その速度で一周を走って終了だ。

 三年生は一、二年生に比べると、訓練の時間はかなり短い。ほとんどの子が村に残ることになるため、最低限の乗り方を教えられれば良しとしているからだ。

 三年生でその実力を見極めるので、襲歩で競い合わせる。


 ………緊張の一瞬だ。頬に汗が伝う。合図はまだかまだかと心は波打ち、手足を強張らせる。


 その瞬間は唐突に訪れる。

 

 先生は全員の様子を見て、自身が見定めたタイミングで声を上げた。




「…位置に着いたな。では、いくぞ! よーい…ドンッ!」




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