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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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“他人の犠牲の上に築かれた平和などあってはならない”

「酷いわ…困ってる人達をさらに困らせようとしているとしか思えない」


「本当だッ! ひでー奴だなッ!!」


 美辞麗句で言葉を飾る事を忘れた率直な感想をハイクとイレーネは述べた。相手は国の侯爵とあって、僕の方は流石にそこまで踏み込んだ感想は言えなかった。仲間の大人達とシャルルは静観したままだった。


「フフフ…臆しないのだな、ハイクとイレーネよ。相手はこの国の中でも偉い立場の人間だ。私よりも地位は高い。それでも…同じ事を君達は言うのか?」


 牽制するように伯爵は一睨みを効かせるが、二人は気後れする事もなく引き返そうとしない。


「当たり前だッ! 傷付けられてる人がいるのに黙ってられねーよッ! …カイはあの山の麓の村で、ファンが村の連中から酷く言われてた時にすぐにファンを守ろうとした。俺も誰かが傷付けられてたら黙っているのはよくねーって想った。だから俺は声を大にしてそんな奴はよくねーって言う」


「えぇ、私もよ。カイも言ってたもの。“彼は困っていた。それが全てだ。道半ばで倒れるくらいに身体は衰弱していた。そんな彼に手を差し伸べるのは人として当然の理。……だからこそ、人の理から外れた貴方達の行いは看過出来るものじゃないッ!” ってね。困っている人がいるのに助けないのは人の理から外れた恥ずべき事。間違いなくその侯爵って人が間違っているわ」


「ちょ…ちょっと二人共……」


 恥ずかしくて声を出すのがやっとだった。美化された印象が二人にはやけに色濃く脳内のフィルムに現像されてしまったようだ。後で正しい彩度に修正をしておかなければ。


「ほほう…そんな風に言っていたのか。実に勇敢で頼もしいじゃないか。…して当の本人の意見はどうなのかな?」


 あれ? 伯爵は怒ってない? 二人は仮にも貴族を批判したのだから、てっきりさっきはそれで語尾を強めて問うたのだと考えたけど…。こちらの様子を伺っているのか? 

 そんなこんなを考えていた時、ふと横目を遣ると、幼馴染の二人が自信に満ちた表情でこちらを見つめている。

 …あぁ、信頼されているんだな。勝手な思い込みを生じさせるだけの羨望の眼差しが注がれていた。光耀が瞳全体から放たれ眩いばかりに燃えていた。

 ………僕は何を考えていたんだ。帝国の悪政を正し、歴史を本流のあるべき姿へ導くと決意した時に、こうした権力ある地位の人との対峙だって想定し得たではないか。それなのに、自分の抱いた熱意を隠したり曲げたりするのは、それこそ憧れた英雄達が遠くに離れていくばかりだ。

 意を決して自分の中で正しいと信じた道を貫き決意を表明する。多大なる覚悟を持って。


「侯爵様がどのような御人柄の人物かは詳しくはわかりません。それに、ある種の人達からすると侯爵のやり方が正しいと主張する人だっているでしょう」


「はぁっ!? カイは侯爵って奴が悪い奴だとは思わねぇのかっ!!」


「では、カイは侯爵のやり方が正しいと考えているのかね?」


 憤ったハイクと冷静な伯爵は同じ問いを発しているが、表面上の温度は穿った真夏の暑さと体温を奪う真冬の冷たさのような差異があった。

 しかし、その根本にある“なぜだ”という表情からは、同様の義憤に満ちた想いが込められていた。


「いつの時代、いかなる状況でもありえる人類の永遠の課題があります。”国があっての民なのか“…”民があっての国なのか“…。これは沢山の賛否が付きまとうでしょう。僕の…いえ、僕達のいた世界では、このとてつもない問題を抱えてきたからこそ、沢山の国が興っては滅び…そしてまた新たな国が形成されてきました。侯爵の行いは”国があっての民“の考えに基づいたものなのでしょう。そのために民が苦しい状況でも今までと変わらない税を徴収する。国家を第一に据えた行いを貫徹した形であると言えます」


 伯爵にも、ハイクとイレーネにも聞いて貰いたいという想いは強い。けど、こういう意見もあるのだと一番に知って貰いたいのはシャルルに対してだ。小さな背中には重過ぎる荷である国を背負う彼に、何を第一にすべきかをどうかわかって欲しい。


「……しかしながら、これには踏み外してならない大きな前提が存在します。“他人の犠牲の上に築かれた平和などあってはならない”のだと…。民を苦しめてまでの治世は本当に国のためなのか? 国という権威を高めるために(むさぼ)る税でどれだけの人の暮らしを奪ってしまうのか? …これらを忘れて去ってしまった時、国は滅びるべくして滅びます。侯爵の行いは民を悪戯に困窮に追いやり、人の尊厳をも否定するような有り様です。そのため民達は自分達の窮状から何としてでも脱却しようと仕方なく武力に頼らざるを得なかった。彼らを責める言われは何らありません。彼らは侯爵の被害者なのです」



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