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Spin A Story 〜この理不尽な世界でも歴史好きは辞められない〜  作者: 小熊猫
第二章 “冒険者編〜霞たなびく六等星達を求めて〜”
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大広間へ

「いよいよか…やはりこうなってしまったか……」


「……」


 どうしようもない現実に悔しそうに顔を歪め、苦々しさを隠そうにも隠せない程に大きな衝撃を伯爵に与えた。

 王であるシャルルの衝撃はより重いものであった。身動きをするのを忘れてしまったかのように唇も身体も硬化していた。


「ね、ねぇ…カイ。あの人は何を言っているの? あんまり楽しそうな話しじゃなさそうだけど……」


 イレーネは不安そうに僕の服の裾をギュッと握り締めていた。少女は伝令の兵士が叫んだ言葉はわからなかったのにだ。どうやら不穏な空気とやらはこの場を支配する事に成功したようだ。


「ツェレク、厨房に行き水を飲み落ち着いてから大広間に来てくれ。状況の説明を頼む」


「し、しかし…お客様達の前でありますが」


「大丈夫だ。この方達の前では何も問題ない。さぁ、水を飲みに行って参れ。よく走って来てくれたな」


 伯爵はツェレクと呼ばれた伝令の兵士に労いをかけ、彼はそのまま厨房があるであろう場所へシャマに肩を担がれながら退がっていった。


「…どうやら談笑する食事会ではなくなったようだな」


「そのようだな。全く、面倒ごとは避けたいのだがね」


 今がふざけている場面ではないのを知っているからこそ、軽口のひとつまみでも入れて場を賑やかにしようとするものの、ヨゼフとクワンも上手い冗談が見つからなかったようだ。会話は弾まず砕け散ったままに終わった。


「王よ、良ければ今回の件について御説明の機会を頂きたく。些か堅苦しい内容になってしまいますが」


「…わかった。聞こう、伯爵」


 数分前までは軽やかな足取りだったのに、今では重々しい鎖の鉄球をそれぞれの足に引き連れながら、やけに遠く感じる大広間の扉への一歩一歩に、緊張が拭えぬ汗と共に付き纏っていた。


「さぁ、どうぞこちらです」


 扉が開かれまず目を見張るのは、方形の長い天板を(こしら)えたリフェクトリーテーブル。こんなに大きなテーブル自体、前の世界でも見た事がなかった。

 今は真っ白なテーブルクロスが本来の姿を隠しているものの、きっと年季の入った味のある木目がひっそりと佇んでいるに違いない。


「…わぁ、これはまた凄ぇな。よくあんな時間で準備出来たもんだ」


 聞こえない程度にハイクが呟くがまさにそうだった。実に伯爵の領地らしい料理が並べられ今から食べるのが楽しみだ。前の世界では食べる機会はなかったもんね。


「今回はテーブルマナー等は気にせず食べて頂いて結構。そんな些細な事よりも、今は目の前の現実に想いを向けるべきだからな」


 チラッとこちらを見て目配せをする。そっか…シャルルに仕えるって事はこういう貴族の(なら)わしとかも覚えていかなきゃなんだね。結構大変そう…。


「さぁ、どうぞこちらへ」


 給仕の方が丁寧な物腰で椅子を引いてくれて、お言葉に甘えてあまり物音を立てないようにそっと座る。厳かな雰囲気にあてられ、そうしなければと身体が勝手に静かに動いていた。


「…皆の者、座ったようだな。早速だが短い祈りの後に食事をしながら、今回の事態の説明を致そう」


 鎮痛な面持ちを捨てきれぬままに祈りの姿勢を身構え、十の指を交互に組むと短い祈りではあったものの、想いを込めた祈りを捧げる。



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